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月刊The Lawyers 2012年3月号(第149回)

2. Celsis In Vitro, Inc. 対
Cellzdirect, Inc. et al. 事件

No. 2010-1547 (January 9, 2012)

セルシス事件において、CAFCは、全員一致ではなかったが、原告セルシス(Celsis In Vitro Inc.)の主張を認めた地方裁判所の仮差止命令を追認した。CAFCは、地方裁判所の事実認定に誤りはないと認定し、地方裁判所の判決を支持した。

本件特許は、ヒト肝細胞(hepatocytes: 肝臓の細胞質の一種)の反復凍結保存方法をクレームしていた。明細書において、肝細胞は薬剤の候補を評価する有用な実験モデルであることを説明していた。

第一に、細胞は寿命が短く、供給が限られてしまう。細胞は特に壊れやすく、凍結再融解工程によって大きなダメージを受けやすいことから、従来はこうした細胞の凍結が上手くいかなかった。第二に、研究者は1〜2名のドナーからの限られた細胞に頼らざるを得なかったため、研究結果は、大集団からみると典型的ではない異常データの影響を受けやすかった。

本件特許は、以下の3つの工程により、相対的に高い生存率で肝細胞を長期保存することを可能にしたことで、これらの問題を解決したというものである。

その3工程とは、(1)凍結および融解された肝細胞を、密度勾配により生存細胞から非生存細胞を分離し、(2)生存細胞を取得し、(3)取得した生存肝細胞を再度凍結してそれを再度融解した後で、密度勾配の工程なしで70%以上の生存率となるように再凍結する工程である。

地方裁判所の仮差止命令を追認する上で、CAFCは仮差止命令に関連する以下の4つの要因を満たしているかどうかを判断した。それは、(1)勝訴の見込み、(2)回復不能な損害、(3)困窮程度の均衡、(4)公益、である。

CAFCは、勝訴の見込みの分析において、特許非侵害と自明性による特許無効の両方について審理し、地方裁判所が、被告のセルツダイレクト(Cellzdirect)のマーケティング担当重役の証言よりも、セルシスの専門家証言を信用して判決を下したことは裁量権の濫用ではないと認定した。

セルシスの専門家証言が、本件特許のクレームの全ての限定事項に侵害被疑品が合致していることを説明する上で役に立っていたのに対し、マーケティング担当重役は、特許クレームの適切な解釈について言及する何ら意見書も提出していなかった、と地方裁判所は述べていた。

特許有効性に関する勝訴の見込みを審理して、CAFCは、地方裁判所による裁量権の濫用は無かったと認定した。肝細胞及び凍結保存の使用を扱った数多くの文献のいずれも、クレームされた主題である肝細胞の反復凍結保存に関して何も言及していなかったことから、地方裁判所は、クレームされた方法は非自明であると結論付けた。

この結論のさらなる裏付けには裁判所は、その発明が予測不可能で有名な分野の発明と認定したこともあげられる。

回復不能な損害の争点に関して、CAFCは、回復不能な損害とは金銭的損害額を算出できないことを意味しない、とした地方裁判所の見解に同意した。むしろ、金銭的支払いでは対処できない損害の判定を要するものである。

地方裁判所は、回復不能な損害の形態として判例法によって全て裏付けされている、価格の下落、のれんの喪失、評判に傷がつくこと、商機の喪失、の証拠を適切に見出した。

CAFCは、セルシス側の損害が大きいとした地方裁判所の判断は誤りではないと認定した。地方裁判所はセルシスが特許の価値を失い、前記の回復不能な損害を被った一方で、セルツダイレクトはセルシスの特許の知識があるにも拘わらず製品の販売ができなくなるだけである、と結論付けた。従って、裁判所は、セルシスの損害の方が大きいと述べた。

最後にCAFCは、革新を促す特許制度が公益にかなうものであるという理由から、使用差止が公益にかなうとした地方裁判所の判断は誤りではないと認定した。ここで裁判所は、新薬の研究開発はこのような公益であるから、その研究開発の努力は奨励・保護されなければならないと理由づけた。

全ての項目が満たされたことから、CAFCは地方裁判所の仮差止命令を支持した。

ガジャーサ(Gajarsa)判事はこの判決に反対し、多数派による自明性の分析及び仮差止命令の要件の内容における挙証責任を批判した。ガジャーサ判事は、KSR Int'l Co.対Teleflex Inc.事件(550U.S.398(2007年))において最高裁が拒絶した自明性に関する教示・示唆・動機テストの厳格な適用を存続したことを非難した。

ガジャーサ判事は、彼の視点による勝訴の見込みの問題を取り上げる、より柔軟な手法の適用を主張した。さらに判事は、多数派と地方裁判所がセルツダイレクトに対し、法律が認めるよりも高い義務を課したとして反対した。

適切な基準の下では、セルツダイレクトは、特許が明確で説得力ある証拠により無効であることを立証することを要求されるのではなく、特許が(無効の主張に対して)脆弱であることを立証することを求められるだけであると述べた。

セルシス判決は、仮差止命令の申立に反対する者に対する教訓を示している。この判決は、自明性の教示・示唆・動機テストは決定的要因ではないが、侵害被疑者が、原告の勝訴の見込みに関する証拠開示に対して、自明性による反論をする十分な証拠を提示したか否かを評価する上での有用なツールとして残っていることを明らかにした。

この判決のポイント

この事件において、CAFCは、原告の主張を認めた地方裁判所の仮差止命令を追認した。仮差止命令を追認する上で、CAFCは、仮差止命令に関連する(1)勝訴の見込み、(2)回復不能な損害、(3)困窮程度の均衡、(4)公益 という4つの要因を考慮し、全て満たしていると判断した。但し、反対意見として勝訴の見込みの要件に関し、有効性に関する侵害被疑者側の証明は、明確かつ説得力のあるものである必要はないとの見解が示された。

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