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月刊The Lawyers 2012年3月号(第149回)

1. MarcTec, LLC 対
Johnson & Johnson and Cordis Corp 事件

No. 2010-1285 (January 3, 2012)

マークテック(MarcTec, LLC)は、外科用移植材料に関する2つの特許のクレーム侵害を主張し、イリノイ州南部地方裁判所にCordis Corporation及びJohnson & Johnson(以下、まとめてコーディス)に対して訴訟を提起した。

クレーム解釈の後で、地方裁判所は非侵害の略式判決を求めるコーディスの申立を認め、上訴審においてCAFCもそれを支持した。その後、地方裁判所は、事件が例外的であるとの宣言を求めるコーディスの申立を認め、マークテックに対し、合計でおよそ470万ドルとなる合理的な弁護士及び専門家証言費用の支払いを命じた。

この判決は、例外的な事件であることの認定及び弁護士と専門家費用の裁定に対するマークテックの上訴を解決した。

CAFCは、地方裁判所が例外的な事件と宣言したことに誤りはなく、専門家証言費用を裁定したことに裁量権の濫用はなかったとして、地裁判決を支持した。

本件特許は、人体への移植に用いられる、インプラント及びインプラントに接合した高分子材料からなる手術用器具に関するもので、その高分子材料は室温で熱可塑性、非流動性及び非接着性を有し、加熱により流動性、粘着性及び接着性を持つようになる。

クレーム解釈で重要な文言は「接合」であり、そのクレーム解釈の説明において、マークテックは地方裁判所に対し、文言は単純で一般的な意味を有するため、解釈の必要はないと述べた。

クレーム解釈の審問において、マークテックの弁護士は地方裁判所に対し、クレームの文言に焦点を当て、もし地方裁判所が文言の中であいまいさを発見したら、明細書のみを頼るよう求めた。

地方裁判所はこれらの提案を拒絶し、法を適用して、クレーム、明細書及び審査経過における供述を検討した。この審理の結果、熱接合が、明細書中で述べられている唯一の接合種類であり、及び審査経過において先行技術による拒絶理由を解消するために、発明者がクレームを熱接合に限定していたことを理由に、地方裁判所は「接合」の文言を「熱接合」と解釈した。

クレーム解釈に従って、コーディスは、自身の製品が室温で接合された高分子材料を使用しているので熱接合ではないことを理由に、非侵害の略式判決を求めた。

略式判決の申立に反対して、マークテックは、たとえコーディスの製品が室温で接合されたとしても、噴霧液滴は音速に迫るほどの極めて早い速度で移動するので、実際には熱接合を使用しているとする専門家証言を提出した。

マークテックの専門家によると、この速度での液滴の移動がポリマーの温度を上昇させ、熱接合させることができる。しかしながら、その温度上昇は100万分の5秒しか継続せず、測定することはできない。

地方裁判所は、この専門家証言を信頼性がないとして考慮に入れず、コーディスの主張を認めて非侵害の略式判決を下した。

コーディスによる申立の後、地方裁判所は米国特許法第285条に基づき、事件が例外的であると認め、コーディスの代理人費用及び専門家費用の支払いを裁定した。

地方裁判所は、マークテックが明細書及び審査経過に頼らないように裁判所を導くことで、また信頼性がなく、テストもできない、そして事件と何ら関係性がない専門家証言を提出するために、クレーム解釈の原理を不正に主張したと認定した。

地方裁判所は、マークテックは自身が審査経過において主題を放棄したこと、及びクレーム解釈の後では、コーディスの製品が明白に非侵害であると知っていたことを理由に、マークテックの主張には根拠がなく、悪意を持って手続が進められたと認定した。

上訴審において、CAFCは地方裁判所の判決を支持し、勝訴当事者は明白で説得力のある証拠により事件を証明したことにより、最初に地方裁判所が事件は例外的であると判断した場合には、代理人費用は適切に裁定されると指摘し、そして費用の裁定は正当であると判断した。

このような事実に基づき、CAFCは、地方裁判所が複数の理由により事件が例外的であると適切に認定したと結論付けた。その理由とは、(1)クレーム解釈の原理を不正に主張したこと及び最低限の信頼性の基準を満たさない専門家証言を頼ったことと、それを持ちこんだことによる訴訟不正行為、及び(2)審査経過における供述を知りながらも特許侵害を主張したこと、及び特許侵害の合理的根拠が存在しないという事実にも拘わらず、クレーム解釈の後も訴訟を継続したことの双方により、客観的に根拠のない主張を提出・維持した悪意ある行為である。

CAFCはまた、弁護士及び専門家費用の双方の裁定に取り組み、裁定は適切であったと結論付けた。マークテックは、地方裁判所がマークテックにコーディスの専門家の費用を支払わせることは裁量権の濫用であると主張した。CAFCはこれに反対し、コーディスが信頼性がなく不適切なマークテックの証言に反駁するために専門家証言の費用を負担させられた事実を前提に、費用の裁定は適切であると認定した。

マークテック判決は、特定の状況にある特許事件において、弁護士及び専門家費用を得られることの一つの示唆である。この判決は、クレーム解釈の決定後も根拠なく特許侵害との立場を維持することは、事件が例外的と認定される危険性と、弁護士及び専門家費用の裁定を正当化するに十分な悪意のある手続及び訴訟不正行為を構成する可能性があることを明らかにした。

この判決のポイント

この事件で、CAFCは客観的に根拠のないクレームの悪意な解釈、及び不正訴訟行為に基づき、事件を例外的な事件と認定し、弁護士及び専門家費用を裁定した地方裁判所の判断を支持した。クレーム解釈が決まった後に、根拠なく特許権侵害との立場を維持することは、事件を例外的とする認定及び代理人費用の裁定を認めるに十分な悪意ある手続であり、訴訟不正行為となることに注意しなくてはならない。

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