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月刊The Lawyers 2011年9月号(第143回)

3. Board of Trustees of
the Leland Stanford Junior University 対
Roche Molecular Systems, Inc.事件

No. 09-1159 (June 6, 2011)

スタンフォード大学対ロッシュ事件において最高裁は、バイドール法は連邦政府の補助金によってなされた発明の発明者の権利を自動的に無効にするものではないと判示したCAFC判決を支持した。

1988年、マーク・ホロドニー博士(Dr. Mark Holodniy)は感染病部門の研究員としてスタンフォード大学に加わった。その際、彼はスタンフォード大における職務発明の「権利、資格及び利益」を大学に譲渡する内容の、著作権及び特許権同意書にサインした。その後、スタンフォード大は、PCR(ポリメラーゼ鎖反応)を利用する技術の習得のために、ホロドニー氏をセタス社(Cetus)に派遣して研究させた。

セタス社における研究のために、ホロドニー氏はビジター用守秘義務同意書(以下、VCA)にサインした。VCAには、ホロドニー氏がセタス社で働いた結果としてなされた「個々の着想、発明及び改良物に関する権利、所有権及び利益」をセタス社に譲渡することを定めていた。セタス社においてホロドニー氏は、PCRを利用して患者の血中のHIV量を計測する方法を開発した。その後、スタンフォード大はこの技術に関する権利の譲渡書を取得し、それに基づいて3つの特許を保護した。

1991年、ロッシュ(Roche Molecular Systems)は、ホロドニー氏がサインしたVCAを通して得た権利を含む、セタス社のPCRに関連する資産を取得し、HIV検査キットの販売を開始した。

スタンフォード大はロッシュを特許侵害で提訴した。ロッシュは、スタンフォード大がVCAに基づくHIV検査方法の共同所有者であることを理由に、スタンフォード大の提訴は当事者適格を欠くと主張した。スタンフォード大は、ホロドニー氏の研究は連邦政府の補助金によるものであり、大学はバイドール法に基づき、いかなる彼の発明に対しても優位な権利を持っていたことを理由に、ホロドニー氏には発明者としての権利がなかったと主張した。

地方裁判所は、ホロドニー氏には譲渡する権利がなかったと認定してスタンフォード大の主張を認めた。CAFCはこれを破棄し、バイドール法は発明者の特許権を自動的に無効にするものではなく、従って、ロッシュはホロドニー氏のVCAを介してスタンフォード大の特許の所有権を持っていると判決した。

最高裁は、発明の所有権は発明者に帰属する、という基本原則を述べて分析を始めた。その結果、最高裁は、被雇用者だけの独創的な着想である発明の権利を雇用主に譲渡するという同意書がない限り、雇用主にはその権利がないことを再確認した。

最高裁は、バイドール法は、発明が連邦政府の補助金による援助の下に着想または実施された場合、権利の通常の優先順位を無効にするものである、というスタンフォード大の主張を拒絶した。

また、最高裁は、議会が他の状況において発明者の権利を明確に剥奪した事実を頼りにした。例えば、42USC第5908条の中で、エネルギー省と契約を交わした発明者の権利はアメリカ合衆国に付与されると、議会は明瞭に規定している。しかしながら、バイドール法には同様な権利の剥奪を裏付けるような明瞭な表現はないと最高裁は判断した。

最高裁は、議会が、バイドール法の第202条(a)の中で、「与える(vest)」という文言ではなく「保有する(retain)」という文言を用いたことを、その解釈の更なる裏付けとして依拠した。

最高裁が理由付けしたように、「保有する(retain)」は単純に「所有または使用している状態でいる、あるいはその状態を持続する」ことを意味する。したがって、バイドール法は、連邦政府の補助金による発明の権利を、その補助金を授与された団体または企業に与えるものではなく、それら発明の権利を一方的に取得することをその団体または企業に一任するものでもない、と述べた。

バイドール法は、団体または企業が既に取得しているものは何であれ、その権利を団体または企業が保有することを保証しているにすぎない。

最高裁は、バイドール法に基づいて活動している当事者の常識もまた、この解釈を裏付けていると付け加えた。

政府機関は、団体または企業が、通常、その従業員からの譲渡を受けることを予定している。例えば、この事件の争点となった連邦政府の補助金の付与を認めたNIH(国立衛生研究所)は、指針書を発行しており、その中で、「法律により、発明者はその発明の最初の所有権者である」と述べている。

その結果、NIHは、団体または企業は従業員との雇用契約上、連邦政府の補助金を受け取った場合に、発明の所有権を雇用主である団体または企業に譲渡することを要件とする条文を入れておくべきであることをアドバイスしている。NIHの指針はスタンフォードの解釈の下では不要である。

最後に、最高裁は、この判決における解釈は、バイドール法の枠組みを弱めるものでも、この法律の継続的な成功を脅かすものでもないと結論付けた。最高裁判決は、発明者は自身の発明を所有するという、基本的な特許法の原則を強化した。バイドール法の適用に関する最高裁判決は、職務の結果得られた特許権を従業員が取得したいと希望した場合には、直ちにその従業員と合意に至らなければならないことを指摘している点で、連邦政府の補助金を当てにする研究機関にとって重要である。

この判決のポイント

この事件において最高裁は、バイドール法の適用範囲を明らかにした。最高裁は、バイドール法が、連邦政府の補助金による発明の権利を自動的にその補助金を付与した団体または企業に与えるものでも、一方的にその発明の権利を取得することを一任するものでもないことを明らかにした。従って、バイドール法の下で生まれる発明の譲渡を大学などが希望する場合は、譲渡契約が必要である。

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