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月刊The Lawyers 2011年8月号(第142回)

2. Therasense, Inc. 対
Becton, Dickinson & Co.事件

No. 2008-1511 (May 25, 2011)(大法廷)

テラセンス(Therasense)事件において、CAFCは大法廷での審理にて、不公正行為を立証するための厳格な「but for(なかりせば)」の重要性基準を発表した。

CAFCはテラセンス(現在のアボット=Abbott)に対する地方裁判所の不公正行為の判決を無効とし、差し戻した。

不公正行為とは、特許権侵害に対するエクイティ(衡平法)上の抗弁であり、訴えられた侵害者に「特許出願人が、特許庁を欺く特定の意図を持って重要性のある情報を偽っている、若しくは省略していること」(注1)の立証を求める。もし被告が重要性と意図の双方を立証すれば、特許権全体は行使不能とされる。

2004年に、アボットは他の主張の中でも特にベクトン(Becton)が米国特許第5,820,551号(以下、551特許)を侵害していると主張し、ベクトンを訴えた。抗弁の中で、ベクトンはアボットが551特許の取得に際して、不公正行為を働いたと主張した。

出願手続において、アボットは特許庁に対し米国特許第4,545,382号(以下、382特許)の文言を説明する宣誓供述書を提出したが、382特許の対応ヨーロッパ出願において、アボットがヨーロッパ特許庁に対して以前に行った同じ文言に関する矛盾した説明を開示しなかった。

地方裁判所は、省略は重要性のある情報に関連し、かつ、意図的であるとし、551特許を行使不能とした。上訴審において、CAFCは地方裁判所の判決を支持した。

CAFCは、アボットによる大法廷での再審理の申立を認め、不公正行為の要素である欺く意図と重要性は、その広い範囲と強大な救済の観点から、本来は重大違法行為の事件への原則の適用を制限するために設けられたとした。

しかしながら、CAFCが次第に意図に関する過失または重過失、及び重要性に関する「reasonable examiner」基準を含む広い基準を採用するにつれ、意図と重要性を立証する負担は徐々に軽くなった。更に不公正行為が認められうる状況が拡大し、裁判所は、意図と重要性を一方の要素の強い証拠が他方の比較的弱い証拠を補うことができる「変動基準」とした。

CAFCはこの基準の緩和が、特許庁に対する開示を促す意図があったとした一方で、訴訟戦略としての頻繁な不公正行為の申立の原因にもなったとした。同様に、不公正行為の抗弁の濫用は、結果として(1)ディスカバリー及びそれに係る費用の増大、(2)和解の阻止、(3)訴訟の実体から注意をそらすこと、(4)代理人に対する評判による損害、(5)特許訴訟の複雑さの増大、及び(5)特許庁の滞貨件の一因となる先行技術文献の過度な包含、を招いた。

CAFCはまず、意図と重要性とは別々の要件であり、地方裁判所は変動基準により不公正行為の分析を行うべきではないことを明らかにした。

意図について、CAFCは次に過失と重過失はもはや十分でないとし、「明確かつ確信に足る証拠は、出願人が既知の重要な文献の提出を差し控える意図的な判断を行ったことを示さなければならない」(注2)とした。

従って、訴えられた侵害者は、出願人が(1)文献を知っていた、(2)それが重要であると知っていた、そして(3)その提出を差し控える意図的な判断を行ったことを示さなければならない。

意図的な判断の直接的な証拠は稀であることを認め、CAFCは間接的な状況証拠が用いられた場合、そのような証拠は欺く意図の認定を必要とし、状況が複数の合理的な推定を許す場合には明確かつ確信に足る証拠基準を満たさないとした。

更に、不公正行為の抗弁を行う当事者が立証責任を負うため、被告がまず明確かつ確信に足る証拠基準を満たさない限り、特許権者は自身の行為について誠実な説明を行う必要がない。

重要性について、CAFCは、仮に先行技術が適切に開示されていたら特許庁がクレームを許可していなかったと証拠の優越により地方裁判所が認定した場合にのみ、不実表示若しくは省略が重要とされる「but-for」基準を採用した。

しかしながら、CAFCは、積極的重大違法行為の事件について、but-for重要性の原則に対する例外を規定した。「特許権者が、明らかな虚偽の宣誓供述書の提出といったような重大違法行為を積極的に働いた時には、当該違法行為は重要性に関わる」というのである(注3)

but-for基準を採用する中で、CAFCは、米国特許規則の変化が司法上の原則の発展に矛盾をもたらし、現在の特許庁基準への依存が重要性に関するハードルを低くし、CAFCが取り扱おうとした問題の一因となっていると認定し、米国特許規則第56条に規定される重要性の基準を採用しなかった。この事件は、その意見において発表された基準に一致する分析のために地方裁判所に差し戻された。

新しく採用されたbut-for重要性基準に関する意見は、CAFC内ではっきりと分かれた。オマレイ(O'Malley)判事は、同調しつつも、不測の事態を取り扱うための柔軟性の重要性を強調し、基準が過度に厳格だとする懸念を示した。

三人の判事が参加した反対意見において、ブライソン(Bryson)判事は、but-for基準は出願人が特許庁に対して公平でいる意欲をほとんど与えない、たとえ考えられる先使用が後に発見され、特許権侵害の抗弁として挙げられても、開示しなかったことは、特許権者をあたかも初めから開示を行っていたのと同じ状況にしたまま、初めの段階で出願が拒絶される結果となったであろう場合にしか特許権を行使不能としないので、出願人は特許庁に対して考えられる先使用を開示するインセンティブを有さないとかなり強く唱え、CAFCは米国特許規則第56条の基準を適用し続けるべきであると主張した。

テラセンス判決は不公正行為に対するCAFCの姿勢に大きな変化を示した。今後、重要性に関するテストは、不公正行為の分析において「but-for」の分析となる。

この判決のポイント

この判決において、不公正行為の判断基準が厳格化された。CAFCはこれまで地方裁判所が採用していた意図と重要性に関する変動基準を排除し、それぞれの要素は独立していることを明らかにした。また、重要性の判断についてはbut-for基準を採用し、米国特許規則第56条に規定される基準は適用されない。


(注1) Therasense, at 19

(注2) 同判決 at 24

(注3) 同判決 at 29

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