1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2011年
  4. 1. Tivo Inc. 対 EchoStar Corporation事件

月刊The Lawyers 2011年7月号(第141回)

1. Tivo Inc. 対 EchoStar Corporation事件

No. 2009-1374 (April 20, 2011)

ティーボ(TiVo)事件においてCAFCの大法廷は、侵害者が新製品もしくは改良した製品をリリースした場合に、裁判所が侮辱罪の手続をいかに進めるべきかの新たな指針を示した。

CAFCは、地方裁判所による差止命令の「侵害規定」に関する侮辱罪の認定を破棄し、CAFCの指針に基づく「外見以上の相違」の事実を判断するよう指示して事件を地方裁判所に差し戻した。

侮辱罪の認定は、裁判の当事者が裁判所の法的な命令を無視した場合に生じ、主席判事がその当事者に制裁を科すことになる。またCAFCは、エコスター(EchoStar)が差止命令の曖昧さ及び差止対象が広範過ぎることを主張するのが遅すぎたと判断した。CAFCは、エコスターが、終局的差止命令の「販売済製品の機能を無効にする」規定(disablement provision)に関する自己の主張を放棄したと判断して、侮辱罪の認定を支持した。

2006年、エコスターは、ティーボのデジタルビデオレコーダー(以下、DVR)についての1つの特許権を故意に侵害したと認定され、侵害品であるDVRの販売の恒久的禁止(以下、「侵害規定」)、及び販売済みDVRの受信機能を無効にすること(以下、「無効規定」)を命令された。

エコスターはその規定を不服としてCAFCに控訴したが、地方裁判所の終局的差止判決を特定して控訴しなかった。CAFCはティーボが所有するDVRについての特許権をエコスターが侵害したという認定を支持するとともに、暫定的な賠償額を決定するために事件を地方裁判所に差し戻した。控訴審に続き、ティーボは、エコスターの差止命令に対する侮辱罪の認定を求めて地方裁判所に提訴した。

地方裁判所はエコスターに対して差止命令に対する侮辱罪を認定した。その認定において、地方裁判所は、エコスターが設計変更した製品は、判決を下された侵害品の装置との間に「外見以上の相違」がないと判断した。

「外見以上の相違」がないことから、地方裁判所は、侮辱罪の手続はKSM判例に基づき適切であると判断した。地方裁判所はさらに、外見以上の相違が示されたとしても、エコスターが差止命令の「無効規定」を無視していると判断した。地方裁判所においては「無効規定」の範囲に関するエコスターの主張は時機を逸しているとして退けられた。

地方裁判所は9000万ドルの侮辱罪の制裁金を科すとともにティーボ特許権の継続的侵害に対する暫定的賠償額を決定した。この事件は、地裁判決を支持したCAFCへ再度控訴され、CAFCは大法廷において再審理した。

CAFCは大法廷において、差止命令における「侵害規定」に違反したことによる侮辱の争点から意見を述べ始めた。まず、「誠意をもって」差止命令に従おうと努力したというエコスターの主張を取り上げた。

エコスターは、差止命令に従い、1年を要して自社のソフトウエアを設計変更し、弁護士から非侵害の見解も得たと主張した。しかしながら、CAFCは、差止命令に違反する意思の欠如だけでは、侵害者は侮辱罪の認定を回避できないと判断した。こうして、エコスターの「誠意」の主張は退けられた。

CAFCは次に、KSM事件(注1)における2つの要件に照らして地方裁判所の侮辱罪の認定手続の正当性について審理した。KSM要件は、裁判所が(1)「外見以上の相違」の閾値を用いた侮辱罪の聞き取りは適切であったか否かを判断し、(2)設計変更された製品が以前の解釈によるクレームの特許権を引き続き侵害しているか否かを調べることを要件としていた。

CAFCは、「実行不可能である」としてKSM要件を採用しなかった。KSM要件に代わる新たな手法では、KSM要件の(1)を廃止して、地方裁判所による「広い裁量権」を残した。よって、地方裁判所は、設計変更された製品が以前の解釈によるクレームの特許権を引き続き侵害しているか否かについて審理しなければならない。

控訴審においてCAFCは、差止命令違反があるか否か、及び、科した制裁が適切か否か、といった差止命令の有効性のみを審理した。

KSM要件の(1)を廃止して、CAFCは、裁判所が差止命令違反の有無を判断する際に、「外見以上の相違」の基準を引き続き用いるべきであると判示した。特に裁判所は、新たな侵害被疑品が、以前侵害認定された製品と比較して、「被告の行為の悪質性に関する疑いの正当な根拠」を生じてしまうほどの違いであるか否かを判断しなければならない。

裁判所は、以前、侵害認定の根拠となった侵害被疑品の特徴と、新製品の改良された特徴に注目しなければならない。もし外見以上の相違がなかったならば、次に裁判所は、侮辱罪の成立を立証するために、新たな侵害被疑品が過去のクレーム解釈に制約されて引き続き特許権を侵害していることを示さなければならない。新旧製品間の相違が「著しい」場合は、「外見以上の相違」があり、侮辱罪の認定は不適切である。侮辱罪の認定が無ければ、特許権者は本格的な侵害訴訟に進むと思われる。

地方裁判所は、新たな侵害被疑品の特徴の1つを、過去の侵害品と比較評価していなかったので、CAFCは地方裁判所による侮辱罪の認定を破棄した。差戻し審において、CAFCは地方裁判所に対し、各クレームの個々の限定に基づいて「外見以上の相違」の事実を判断するよう指示した。

CAFCは、エコスターが曖昧さの主張と差止命令の範囲が広すぎることの主張の両方を取り下げたと判断した。特に、曖昧さの点に関して、CAFCは、「当事者が控訴審、あるいは、差止命令を明確にするもしくは修正するよう申し立てることによって、曖昧さの主張を提示する機会を喪失した場合に、差止命令がその当事者の行為をカバーしていると裁判所が判断したときには、当事者は差止命令を無視することはできず、侮辱罪の判決に反対することはできない、と判断した。

この判決は25年以上にわたって定着してきた判例法を覆した。CAFCは侮辱罪の認定手続を進めるか否かを判断するためのより広い裁量権を地方裁判所に与えたため、判決を下された侵害者は、差止命令に対して設計変更することを選択するときは、今までより一層注意深く設計変更すべきである。

さらに、特許権者はこれにより、差止命令後のライセンスや和解交渉において、侵害者に対しさらに一つ力を持つことになった。

この判決のポイント

この事件においてCAFCの大法廷は、差止命令に違反したことによる侮辱罪の認定手続が適切か否かを判断するためのKSM判例における要件を除外し、侵害品とそれを設計変更した製品との間に「外見以上の相違」があるか否かを侮辱罪の新たな判断基準として定めた。これにより、より広い裁量権が裁判所に与えられるため、差止命令に対して設計変更をする場合は、従来よりも注意を要する。特許権者にとっては、差止命令後に侵害者と交渉する上で有利な判例となった。


(注1) KSM Fastening Systems 対 H.A. Jones Co.事件、776F.2d 1522 (Fed. Cir. 1985)

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2011年
  4. 1. Tivo Inc. 対 EchoStar Corporation事件

ページ上部へ