1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2011年
  4. 1. Innovention Toys, LLC 対 MGA Entertainment, Inc. 事件

月刊The Lawyers 2011年6月号(第140回)

1. Innovention Toys, LLC 対
MGA Entertainment, Inc. 事件

No. 2010-1290 (March 21, 2011)

この事件で、MGA Entertainment, Inc.、Wal-Mart Stores, Inc. 及び Toys "R" Us, Inc.(以下、まとめてMGA)は、ルイジアナ州東部地区の米国地方裁判所の文言侵害及び非自明性の略式判決に対して控訴した。CAFCは、地方裁判所の非自明性の判断の根拠となる事実認定において、特に何が類似技術であるかに関して複数の誤りがあったと認定した。

イノベンション(Innovention Toys, LLC)は、チェスに似た光反射ボードゲーム及びこのゲームをプレイする方法を主張する米国特許番号第7,264,242(以下、242特許)の侵害についてMGAを訴えた。

このゲームはチェス形式の競技台で、「ファイヤ」された場合に競技台の上から光ビームを投射するように配置されたレーザ源、レーザビームを導くために用いられる鏡付きの駒及び鏡なしの駒、並びにチェスのキングと同等の鏡なしの「主要駒」を含んでいる。

侵害していると主張されたMGAのゲーム「レーザバトル」は、チェスに似た戦略ゲームをプレイするための物理的なボードゲームであり、プレイヤーは交互に鏡付きの駒を移動または回転し、相手プレイヤーの鏡なしのタワー駒に当たるようにレーザビームを導いてゲームに勝つことを目指す。

ゲーム「レーザバトル」の開始において、プレイヤーは様々な標準位置の1つとしてボード上にタワー駒を配置する。ゲーム開始前に、ボード上の様々な位置にタワー駒を配置することがルールで認められる。ルールはまた、「高度なゲームプレイ」の間にはタワー駒がその標準位置に留まらなくてもよいことを規定する。MGAは侵害を否定し、242特許は米国特許法第103条に基づき無効であると反訴した。

米国特許法のもとでの侵害の判定は以下の2つのステップで行われる。第1に、裁判所は特許クレームの範囲及び意味を決定する。次いで、裁判所はクレームを係争対象装置と比較して、クレーム要件のすべてを文言どおり備えているかまたは実質的に均等であるかを判定する。

イノベンションにより主張されたクレームはすべて、駒は「移動可能」であるという「主要駒」要件を含む。これらの分析の第1ステップにおいて、地方裁判所は「移動可能」が「ゲームのルールまたはゲーム戦略によって求めに応じて移動できる」ことを意味すると解釈した。

MGAは控訴審において、この解釈をレーザバトルに適用する際に分析の第2部分において、地方裁判所が不適切に「移動可能」の解釈を拡大したと主張した。

「ゲームの準備中に」移動されるという能力に着目して、レーザバトルのタワー駒が移動可能であるという認定において、地方裁判所は誤りを犯したとMGAは主張した。

CAFCは、タワー駒が「ゲームのルールまたはゲーム戦略によって求めに応じて移動できる」と認定し、MGAの主張を否定した。「移動可能」の解釈が、ルールで認められるゲームの準備中の移動を包含するため、CAFCは、地方裁判所が「移動可能」の解釈の適用を拡大したというMGAによる主張を却下した。

有効性の問題に関して、CAFCは、米国特許法第103条(a)項の「…特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が、発明が行われた時点で、その主題が全体として、当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるようなものであるときは、特許を受けることができない」と述べた。

究極的には法律問題であるが、第103条に基づく自明性の判断は、グラハム判例によるファクターとしても知られる複数の根拠となる事実認定に基づく。

これらの認定は、(1)先行技術の範囲及び内容、(2)関連技術における当業者の水準、(3)特許を受けようとする発明と先行技術との間の差異、並びに(4)商業的成功、長年望まれていたニーズ及び他者による失敗のような二次的要因の証拠を含む(注1)

自明性の主張において、MGAは、チェスに似たコンピュータ・ベースの戦略ゲームであるレーザチェス及びアドバンスド・レーザチェスを記載する2つの文献(以下、まとめて「レーザチェス文献」)とチェスに似たレーザベースの物理的な戦略ゲームを記載する米国特許第5,145,182(以下、「スイフト特許」)との組合せに依存した。地方裁判所は非自明性の略式判決に際して、242特許は物理的なゲームに関連するのに対して、レーザチェス文献は電子コンピュータゲームに関連するため、これらの文献は類似技術ではないと結論付けた。

文献は、特許を受けようとする発明と類似する場合に、特許法第103条の判定に基づき、先行技術と思料される(注2)

つまり(1)解決される課題に関係なく、技術が同一分野の試みからのものかどうか、(2)文献が発明者の試みの範囲外である場合に、発明者が関与する特定の問題にこの文献がなおも合理的に関連するかどうか、という2つの別々のテストが類似技術の範囲を規定するのである(注3)

文献が特許を受けようとする発明と同じ課題に関連するならば、合理的に関連すると思料される(注4)

CAFCは、レーザチェス文献はチェスに似たレーザベースの戦略ゲームを有する要素を詳述しており、242特許と同じ趣旨であることから、このテストに基づいて、地方裁判所がこれらの文献を類似技術と認定しなかったことは明らかな誤りであると判断した。

CAFCは、「基本的ゲーム要素はこれらが実施される媒体にかかわらず同一のままであり」(注5)、従って「どのように実施されるかにかかわらず任意の戦略ゲームからのゲーム要素は『[この]問題を検討する発明者の注目を論理的に引き付けるだろう』」(注6)と言及した。

CAFCはまた、地方裁判所による当業者の水準の判断に誤りがあったと認定した。地方裁判所は、MGAが当業者の水準に関して何も証拠を提出しなかったため、この水準は一般人のものであると認定した。CAFCは、地方裁判所が「自明性の判断の根拠とする複数の事実認定において誤りを犯した」と認定し、それ故、非自明性の略式判決を破棄し、再検討のため地方裁判所へ事件を差し戻した。

この事件は、1つの媒体における先行文献が異なる媒体における類似の問題への解決策を示唆することを示した。先行する仮想現実の発明または電子的な発明が、物理的な発明または機械的な発明に自明性を与えうることを明らかにした。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、地裁の非自明性の略式判決を破棄して事件を差し戻した。文献が特許を受けようとする発明と同じ課題に関連するならば、合理的に関連すると思料される。この事件では、コンピュータゲームに関する文献が、基本的ゲーム要素が同じ物理的ゲームの開発において類似の問題への解決策を示唆する可能性を示し、地方裁判所がこの文献を類似技術と認めなかったことは誤りであると判示した。


(注1) Graham 対 John Deere Co.事件、383 U.S. 1, 17-18 (1966)

(注2) In re Clay, 966 F. 2d 656,658 (Fed. Cir. 1992)

(注3) In re Bigio, 381 F. 3d 1320, 1325 (Fed. Cir. 2004)

(注4) Clay, 966 F. 2d 656

(注5) Innovention at 15

(注6) Id. (Clayを引用、966 F. 2d at 659)

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2011年
  4. 1. Innovention Toys, LLC 対 MGA Entertainment, Inc. 事件

ページ上部へ