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月刊The Lawyers 2011年5月号(第139回)

2. Siemens Medical Solutions USA Inc. 対
Saint-Gobain Ceramics & Plastics, Inc.事件

No. 2010-1145 (February 24, 2011)

シーメンス事件における控訴審の主な争点は、均等論に基づく侵害の立証責任に関して、地方裁判所が陪審員に対し誤った説示をしたかどうかという点であった。サン・ゴーベイン(Saint-Gobain Ceramics & Plastics, Inc.)は、均等物と主張された部分が、発行された米国特許のクレームにおける新規性のポイントである場合、明確かつ説得力ある証拠に基づく立証責任が課される、と主張した。

さらにサン・ゴーベインは、そのような状況下において、後に発行された特許には、明確かつ説得力ある証拠によってのみ覆される有効性の推定があることを陪審員に対し説示しなければならないと主張した。

しかしながら、CAFC合議体の過半数は地方裁判所の判決を支持し、特許侵害は文言上であれ、均等物によるものであれ、証拠の優越によって立証されるものであり、均等性のテストと自明性のテストとの違いは、後に発行された特許の有効性の推定を陪審員に説示しなかったことが誤りとはならない程度の差である、と判示した。

原告の特許権者であるシーメンスは、米国特許第4,958,080号(080特許)を所有しており、その特許は、核医学画像スキャナの検出器に使用される、セリウムをドープしたルテチウム・酸素オルトケイ酸塩(LSO)シンチレータ結晶をクレームしていた。

サン・ゴーベインによる侵害被疑品のスキャナは、セリウムをドープしたルテチウム・イットリウム・オルトケイ酸塩(LYSO)結晶を含んでいた。

サン・ゴーベインのシンチレータ結晶は、結晶中のルテチウム原子の10%をイットリウム原子で置き換えたことを意味する10%YLYSOを含んでいた。1つの遷移金属を10%別のもので代用したことは、サン・ゴーベインのスキャナがシーメンスの080特許のクレームを文言上侵害していないことを意味していた。その結果、サン・ゴーベインはシーメンスからライセンスを受けなかった。

しかしながら、サン・ゴーベインは、080特許より後に発行された、シーメンスの別の特許である米国特許第6,624,420号(420特許)のライセンスを受けていた。その特許は0.01%〜99.99%Yの範囲のLYSO結晶を使用した検出器をクレームしていた。

陪審員は、サン・ゴーベインのスキャナに使用された10%Y LYSO結晶が、080特許にクレームされたLSO結晶の均等物ではないことを示すある証拠として、後に発行された特許を他の類似性や相違性の証拠とともに考慮すべきであることを説示された。

陪審員は裁判中に、米国特許庁(PTO)が付与した特許には有効性の推定があり、その推定は明確かつ説得力ある証拠によってのみ覆されると伝えられた。しかしながら、420特許に適用するものとしてのこの証拠のルールは、陪審員に対する説示には含まれなかった。

控訴審において、サン・ゴーベインは、10%Y LYSO結晶は420特許クレームに包含されていることを理由に、10%Y LYSO結晶と080特許のLSO結晶との均等性に関する認定は、証拠の優越の認定を超える証拠を必要とする、と主張した。

サン・ゴーベインの意見において、自明性による無効の法的結論は、均等性の陪審評決を「明らかに暗示した結果」であるとして、均等性の認定は、420特許を「積極的に無効にする」ものである、と主張した。合議体の多数派は均等性テストと自明性テストとの違いに焦点を当てて、これを否認した。

均等論に基づく侵害の立証に成功するには、特許権者は、ある特徴について、主張されたクレームとは文言上対応しないが、クレームとの実質的な相違がないことを示さなければならない。実質的に相違がないことは、機能・方法・結果テストをすることによって主張できる。

機能・方法・結果テストは、侵害被疑品の要素が「同じ結果を得るために、実質的に同様な方法で実質的に同様な機能を実行する」かどうかを判断するものである。自明性のテストは、グラハム判例による4つのファクターの分析を要する。

その4つのファクターとは(1)先行技術の範囲および内容、(2)先行技術とクレームされた発明との差異、(3)当業者の技術水準、及び(4)発明の商業的成功、予期しない結果、長年望まれていたニーズ等の二次的考慮事項である。

合議体の多数派は、この2つのテスト間の3つの相違点について述べた。第一に、均等性の要件とは異なり、自明性の要件は商業的成功の客観的証拠、もしくはその分野における予見性のレベルに重点を置いている。第二に、2つの要件の時間枠が異なる。

自明性は発明がなされた時点での評価であるのに対し、均等論は侵害時点に関するものである。第三に、均等性の要件は侵害品の属性(本件では、10%Y LYSO結晶)だけに関係するのに対し、自明性の要件はクレーム範囲全体(本件では、0.01%〜99.99%Y LYSO結晶)の考慮を要する。

合議体によると、均等論に基づく証明責任は優越的な証拠を必要とする。均等論に基づく侵害の有無の確認は必要だが、侵害被疑品で置換され構成に着目した特許性は不要である。さらに、地方裁判所が後に発行された特許の有効性の推定に関し陪審員に説示しなかったことは誤りではないと判示した。

控訴審における第二の争点は、地方裁判所による賠償額の裁定に誤りがあったかどうかというものであった。証拠は、79台の侵害品のスキャナが作られたが、その内の61台だけが販売されたことを示していた。陪審員は79台全てのスキャナに対し賠償額を裁定したが、地方裁判所は、製造されたものの販売されなかった18台を裁定額から除外した。

しかしながら、CAFCは、米国特許法第271条に基づき、たとえ製品が実際には販売されなかったとしても、特許発明品を製造・使用・販売申し込みすることは侵害行為であると判示した。

さらに、米国特許法第284条に基づき、賠償額は合理的な特許使用料を下回ってはならない。従ってCAFCは、地方裁判所が、製造されたが販売されなかった18台のスキャナの合理的な特許使用料を判断しなかったことにより裁量権を乱用した、と判示した。

均等論に基づく侵害認定は、いささか稀である。均等物が別途特許付与された発明の新規性のポイントであるといった状況においては、特に稀である。しかしながら、証拠の優越に基づきこのような認定がされることを、合議体の多数派による判決は裏付けることとなった。

もし、サン・ゴーベインによる、明確かつ説得力ある証拠の立証責任を課すという提案が認められていたならば、このような状況下での均等論に基づく侵害立証は極めて困難になっていたであろう。さらに、CAFCは、販売の証拠がなくても侵害品を「製造した」場合にも賠償額を裁定できることを初めて認めた。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、均等論に基づく侵害の判断テスト(機能・方法・結果テスト)とグラハム判例に基づく自明性のテストとの相違点を挙げた上で、侵害被疑品が有する特徴に個別の特許性があり、潜在的に均等性の争点に関連し、侵害分析に相当な影響力があったとしても、高度の証拠責任(明確かつ説得力ある証拠)に値しないので、侵害認定の立証責任は、文言侵害、均等物による侵害に拘わらず、証拠の優越(preponderance of the evidence)の立証を要件とすると判示した。また、賠償額の裁定において、地方裁判所が未販売の製造された侵害品の数を除外して計算したことは誤りであると判示した。

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