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月刊The Lawyers 2011年5月号(第139回)

1. Centocor Ortho Biotech, Inc. 対
Abbott Labs事件

No. 2010-1144 (February 23, 2011)

セントコア事件で、CAFCは、テキサス州東部地区連邦地方裁判所が法律問題としての判決(JMOL)を拒否したことを覆し、ジョンソン・アンド・ジョンソンのバイオ部門であるセントコアが権利行使した特許クレームを記載要件違反を理由に無効であると判断して、セントコアに有利な16億7千万ドルの陪審評決を取り消した。

セントコア事件は、関節炎を含む様々な自己免疫状態に関係するヒトの腫瘍壊死因子α(TNR-α)に対する選択的高親和性抗体を開発する競争に関係していた。この競争における競争相手であるセントコア及びアボットは、それぞれが別々の研究戦略を採用していた。

セントコアは、TNR-αに対する有効なマウス抗体を開発することから始めた。次にセントコアは、マウス抗体の可変領域(即ち、抗原TNR-αに対する結合を担う領域)を保持するがヒトのタンパク質定常領域(protein constant region)を持つキメラ抗体を開発した。このキメラ抗体はマウス抗体の結合特性を発現したが、それ自体がヒトの免疫システムによって抗原として標的にされるリスクは低かった。セントコアは、自分のマウス抗体及びキメラ抗体に関する一連の特許出願の最初のものを1991年に出願した。

ところで、アボットは完全なヒト抗体を一から創り出すことを追求した。アボットは、1995年に、完全な高親和性選択的ヒト抗体の開発を完了した。この抗体は1996年に特許出願の中で開示され、アボットは2000年に特許を取得した。アボットは、この抗体(大成功した治療上のHumira=登録商標)を市販することについて、2002年に規制当局の許可を得た。

アボットがHumira(登録商標)の市販について規制当局の許可を得た後になって初めて、セントコアは完全なヒト抗体をクレームする特許を出願した。

セントコアの2002年の特許である米国特許第7,070,775号(775特許)は、TNR-αに対するマウス抗体及びキメラ抗体を開示する1991年に始まったパテントファミリーにおける13番目の特許であった。

後出しのクレームによりアボットを罠に嵌めるために、セントコアは1994年に出願した一部継続(CIP)出願の優先権に頼らざるを得なかった。この出願による開示の圧倒的大部分は、セントコアのマウスTNR-α抗体及びキメラTNR-α抗体に集中しており、ヒト抗体又はヒト可変領域に言及する文は全体を通して僅かに点在しているだけであった。それゆえ、控訴審の争点は、米国特許法第112条の記載要件の下で、この明細書が完全なヒト抗体に対するクレームをサポートするのに十分であるか否かということであった。

Ariad Pharmaceuticals, Inc. 対 Eli Lilly and Co., 598 F.3d 1336 (Fed. Cir. 2010)の事件でCAFCの大法廷が最近支持したように、米国特許法第112条の記載要件は実施可能要件とは別物でありそこから独立しており、出願人が出願時に発明を「所有して」いたことを明細書が証明することを要求する。

明細書は、当業者が理解可能な形で発明を記述しなければならず、クレームされた発明を発明者が本当に発明したということを示さなければならない。更に、明細書は、当業者がその開示に基づいて発明を「思い描く又は認識する」ことができるようにしなければならない。例や現実の実施化は必須ではないが、クレームされた発明を得ようとする「単なる願望や計画」は、適切な記述に該当しない。

セントコア事件では、本質的な問題は、所定の性質を持つマウス抗体及びキメラ抗体の開示が同一の性質を持つ完全なヒト抗体に対するクレームをサポートできるか否かということであった。

セントコアは有効なキメラ抗体を所有しており、このキメラ抗体に関する自己の知識に基づき、クレームされた完全なヒト抗体に関する、例えば結合親和力やこれの結合先となるTNR-αの領域や所定の構造特性といった性質を少し詳しく記述することができた。

明細書は更に、そのような抗体をヒトBリンパ球により生成することができると示唆しており、ヒト抗体を生成するために利用可能な汎用ライブラリ技術(general library techniques)を開示する文献を組み込んでいた。加えて、明細書はキメラ抗体及びマウス抗体に関する一連の可変領域を開示していた。それゆえセントコアは、明細書が権利行使されたクレームをサポートしていると主張したのである。

しかし、CAFCはこれに同意しなかった。CAFCは、明細書中に記載された抗体に関する詳細な性質は、完全なヒト抗体自体に関する「適切な同定能力のある性質」を欠いているため、発明の所有を示していないと考えた。

また、CAFCは、キメラ抗体に関する一連の可変領域は完全なヒト抗体を開発するための足掛かりとしての役割を果たさず、いずれにせよ、クレームされた抗体を生成するよう指示を与えることは、発明者がその抗体を所有していたことを示すには不十分であると考えた。

要するに、CAFCは、権利行使されたクレームは治療上の完全なヒトTNR-α抗体が持つべき性質に関する単なる願望リストを構成するにすぎず、明細書はせいぜい、そのような抗体を生成する計画を記述しているに過ぎないと考えた。

セントコアが提出した最終弁論は、USPTOのガイドライン及びCAFCの判例の下では、完全に特徴付けられたタンパク質(セントコアがTNR-αのために提供したもの)の順序及び構造に関する開示は、そのタンパク質に結合可能な抗体に対するクレームをサポートするものであり、例え現実の抗体に関する実施例や詳細な予測例が開示されていなかったとしてもその事実に変わりはないというものであった。

CAFCは2つの理由により、セントコアのクレームをガイドライン及び判例と区別することにした。第一に、タンパク質は新規なタンパク質でなくてはならない一方で、TNR-αはセントコアの明細書よりも前から当技術分野においてよく知られていた。第二に、出願人がそのタンパク質(TNR-α)を所有していればクレームされた抗体も実質的に所有していると見なせるくらい、クレームされた抗体を生成する作業が極めて定型的なもの(ルーティン)でなければならない。

しかしながら、セントコアのクレームに記述された抗体を生成することは、定型的作業とは程遠いものであった。TNR-αに対する抗体は先行技術に存在していたが、セントコアがクレームしたのはTNR-αに対する高親和性の完全なヒト抗体であった。

CAFCは、そのような抗体を創り出すことは困難を伴う仕事であり、単なる定型的技術を要求するだけのものではないと考えた。それゆえCAFCは、知られたTNR-αタンパク質を単に所有してもセントコアがクレームされた抗体を所有することにはならないと考えた。

セントコア事件は、バイオ特許を権利行使する訴訟当事者にとって米国特許法第112条の記載要件が重大な障害であるということを示した。生体分子に対するクレームは、機能的な性質の記述だけではサポートすることができない。明細書は、クレームされた分子を当業者が思い描くことができるように具体的な同定能力のある性質を提供することにより、発明者が発明を所有しているということを示さなければならない。

この判決のポイント

この判決は、生体分子に対するクレームについて米国特許法第112条の記載要件を充足するには、機能的な性質の記述だけでは不十分であり、クレームされた生体分子を当業者が思い描くことができるように具体的な同定能力のある性質を提供しなければならないということを示した。

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