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月刊The Lawyers 2011年4月号(第138回)

3. Arlington Industries, Inc. 対
Bridgeport Fittings, Inc. 事件

No. 2010-1025 (January 20, 2011)

- 明細書に開示される範囲を超えて特許発明の技術的範囲を認定するために
クレーム識別の法理が採用された事例 -

本事件において、明細書からクレームへ限定を不適切に組み込んだとして非侵害と判断した地方裁判所の略式判決が破棄された。

アーリントン(Arlington Industries, Inc.)は米国特許第5,266,050号(以下、050特許)および米国特許第6,521,831号(以下、831特許)を保有し、これらの特許はケーブルを接続箱へ接続するために、ナットを用いて接続箱へねじ止めされる代わりに接続箱内に嵌め合わされた改良版の電気コネクタを対象とする。

コネクタは、外縁に位置してコネクタを箱に固定する複数の舌片を介して所定の位置に支持される。両特許のクレームはコネクタが「ばね金属」で作られることを要求している。これは明細書において「SAE1095で焼き入れされたばねスチールのようなばねスチールまたはその均等物から形成される」と定義されていた。

アーリントンはペンシルバニア州の同一の裁判所に2つの別々の訴訟としてブリッジポート(Bridgeport Fittings, Inc.)を訴えた。

050特許のみを含む第1の訴訟において、地方裁判所は明細書に明示的に定義されるように「ばね金属アダプタ」が「ばね金属で作られたアダプタ」であると解釈した。裁判所は、この解釈が関連分野における用語の慣用的な意味であり、審査経過に全体的に整合すると判断した。

しかし、050特許と831特許との両方を含む第2の訴訟において、ブリッジポートは、コネクタが拡大・縮小することを可能にする割れ目をばね金属アダプタが含むことを明細書が暗示していると主張した。

ブリッジポートはまた、「ばね」という用語が「アダプタ」という用語を修飾し、クレームにおいて金属の種類を特定しないと主張した。よって、ブリッジポートは、自身の金属コネクタがクレームで要求される「ばね動作」を可能にする「割れ目」を有していないため、これらはアーリントンの特許権を侵害しないと主張した。

第2の訴訟において裁判所はコネクタの直径を必要に応じて拡大・縮小できるように割れ目が必要となることを明細書が暗示するというブリッジポートの主張に同意した。

従って、裁判所は050特許のクレーム8の「ばね金属アダプタ」という用語と831特許のクレーム1の「ばねスチール・アダプタ」という用語とが「割れ目を有するばね金属アダプタ」を意味すると解釈し、050特許と831特許との両方に関して特許権を侵害しておらず、故意はなく、損害を与えていないという略式判決を求めるブリッジポートの申立てを許可した。

アーリントンは裁判所のクレーム解釈と略式判決の許可とについてCAFCへ控訴した。

控訴審において、CAFCはばね金属コネクタ内に「割れ目」を要求する地方裁判所のクレーム解釈を破棄した。CAFCは明細書の記載、クレーム、および審査経過に基づいて自身の決定を行った。

第1に、「ばね金属で作られたアダプタ」であるという050特許の明細書中の「ばね金属アダプタ」の明示の定義は、アダプタがばね機能を有しなければならないことをこの用語が意味するというブリッジポートの主張と直接に矛盾するとCAFCは判断した。

第2に、CAFCは、050特許の明細書に記載された4つの実施形態に関して、1つの実施形態のみがバネ動作を可能にするために直径を変更する割れ目を有するアダプタを記載していることに着目した。

CAFCは、所定の実施形態を除外するようにクレームの範囲を限定する明確な意図を特許権者が示していない限り、特許クレームは所定の実施形態に限定されないと指摘した。CAFCは審査経過を検討したが、アーリントンがクレームを「割れ目を有するアダプタ」の実施形態に限定するという証拠は見つからなかった。

対照的に、CAFCは、050特許の親出願の特許のクレームは審査の過程で「割れ目を有するばね金属アダプタ」、すなわち割れ目を有するアダプタであるだろう「全円未満の」形状のばね金属アダプタを明示的に記載するように補正されていることに注目した。

これは、050特許で争点の補正されていない用語である「ばね金属アダプタ」は割れ目を有するコネクタと割れ目を有しないコネクタとの両方を含むべきであることを意味する。

第3に、CAFCは「ばね金属アダプタ」が割れ目を有するコネクタと割れ目を有しないコネクタとの両方を含むという自身の判断をサポートするためにクレーム範囲の区別の原則を引き合いに出した。クレーム範囲の区別の原則によれば、複数のクレームにおいて用いられる異なる用語はクレームの範囲が異なることを示すという「常識的な」推定が働く。

050特許の独立クレーム1が「全円未満であるばね金属アダプタ」を記載しているため、クレーム8の「ばね金属アダプタ」という用語はそれより広い範囲であるべきであり、割れ目を有するアダプタに限定されない。そうでなければ、「全円未満である」という用語が余分であり無意味になるだろう。

CAFCは非侵害という地方裁判所による略式判決の認定を破棄し、差し戻した。

831特許に関して、CAFCはまた、「ばねスチール・アダプタ」という用語が割れ目を有するアダプタを要求しないと判断した。831特許は、アダプタがばね金属で作られるという明示の定義を含まない。

そこで、この文言の欠如は、831特許の図面の2つにおける割れ目を有するアダプタの描画と合わさって、特許が割れ目を有するコネクタのみを対象とすることを暗示するとブリッジポートは主張した。

CAFCは、「ばねスチール・アダプタ」という用語を「ばねスチールから形成されたアダプタ」として定義するアーリントンの別の特許を831特許の明細書が参照として組み込んだことを引用して、この論理付けを採用しなかった。この定義が831特許に組み込まれるため、同じ用語は同じ意味を有する。

CAFCはここでも、ブリッジポートにより参照される図面は単にクレームの1つの実施形態を説明するものにすぎず、割れ目を有するアダプタの実施形態にクレームを明示的に限定する証拠とはならないと指摘した。CAFCは831特許の特許権を侵害しないという地方裁判所による略式判決の認定を破棄し、さらなる分析のために事件を地方裁判所に差し戻した。

ラウリー判事は050特許に関するCAFCの判断に対して反対意見を示した。反対意見では、050明細書の複数の記載がばね金属アダプタを「全円未満である」として参照することに注目した。

反対意見はまた、図面の5つは割れ目を有するアダプタを示すが、割れ目を有しないアダプタを示す図面が欠けていることに着目した。

ラウリー判事は、明細書に開示される範囲を超えてクレームの範囲を拡大するためにクレーム範囲の区別の原則が用いられるべきであるという多数意見に反対した。その代わりに、ラウリー判事は、特許権者は明細書に開示される範囲のみを主張することが許されるべきであり、それを超えるものではないと提唱しているようである。

反対意見を含むこの事件は、Phillips 対 AWH Corp.事件におけるCAFC大法廷判決で判示された明細書に照らしたクレームの解釈と、現在の判例法の下で禁止される明細書からクレームの限定解釈との間の困難さ、そしてその間の微妙な境界線に焦点をあてている。

特許権者および侵害被疑者は、これらの原則のうち、自身の有効性および非侵害の主張を最もよくサポートする原則を用いてクレーム解釈し続けるだろう。

この判決のポイント

この事件では、明細書に開示される範囲を超えてクレームの範囲を拡大するためにクレーム範囲の区別が用いられるべきであるという多数意見と明細書に開示される範囲のみを主張することが許されるという反対意見とが示された。

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