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月刊The Lawyers 2011年4月号(第138回)

2. Centillion Data Sys. LLC 対
Qwest Comm. Int’l Inc. 事件

No. 2010-1110 (January 20, 2011)

- システムクレームを構成する複数のコンポーネントを
それぞれ異なる者が実施する行為が問われた事例 -

本事件において、CAFCは初めて、システムの要素を複数の当事者が支配している場合に、そのシステムの「使用」が米国特許法第271条a項のもと直接的に特許権を侵害しうるか否かについて判断した。

センティリオン(Centillion)は、電子課金データといった情報を処理し、サービスプロダイバから顧客のパーソナルコンピュータに送信するためのシステムの使用をクレームする米国特許第5,287,270号を所有していた。

クレームは、サービスプロバイダによって維持される「バックエンド」システム及びエンドユーザーによって維持される「フロントエンド」システムを包含していた。

バックエンドシステムは、格納手段、データ処理手段及び転送手段を含む。フロントエンドシステムは、サービスプロバイダによって提供され、顧客によってコンピュータにインストールされるソフトウェアの形式で、さらに情報を処理することできるパーソナルコンピュータデータ処理手段を含む。センティリオンはクウェスト(Qwest)を特許権侵害で訴えた。

地方裁判所は、まず、第271条a項における「使用」が NTP, Inc. 対 Research In Motion, Ltd.事件(Fed. Cir. 2005)において「システムをサービスとして提供する、すなわち、システムのアプリケーションを制御し、その恩恵を受ける」ことであるとその定義を解釈してから、センティリオンの略式判決の申立を認めた。

被告である侵害被疑者は、すべての要素を実施する、または争点となっている要素を実施する第三者の行為を制御もしくは指示しなくてはならない(注)とした他のCAFC判例を引用し、地方裁判所は、顧客がソフトウェアを読み込むか、もしくはクレームによって要求される追加の処理を実行するかどうかをクウェストは制御することができなかったとして、クウェストはバックエンドコンポーネントを「使用」していないと裁定した。

地方裁判所は、顧客がバックエンドコンポーネントのデータ処理手段を指示または制御することができなかったとして、顧客は直接特許権を侵害していないと判決した。

控訴審において、CAFCは NTP 対 Research in Motion, Ltd. 事件で示されたように地方裁判所が米国特許法第271条a項のもとでの「使用」を「所定の発明をサービスとして提供する権利」と正しく定義したことを支持した。

しかし、CAFCはNTP事件における「システムをサービスとして提供する」ために、システムのそれぞれのコンポーネントを制御することが単独のユーザーに求められるとの認定を支持しなかった。

CAFCは、クレームされたシステムの使用は、それがサービスとして提供され、制御が実行されている所であると定義したNTP事件の認定について考察した。NTP事件において、CAFCは米国外に存在する少なくとも一つの中継器を経由し、侵害被疑品を通してメッセージを送信した米国内に居住する顧客は、全体的にシステムを使用し、その使用場所は米国内であると認定した。

もちろん、それらの顧客はシステム中のそれぞれの中継器の所有権を持たないし、またいずれの中継器に対しても直接的、物理的なレベルの「制御」を行っていない。

CAFCは、クウェストもしくはその顧客のどちらが、総じてシステムをサービスとして提供したのかを判断するために、NTP事件の判断基準をこの事件の争点となっているシステムに適用した。

CAFCは、たとえ顧客がシステムのそれぞれの要素を制御していなかったとしても、顧客はソフトウェアをインストールし、クウェストにデータを要求し、処理する際に、システムのすべての要素を「使用」していたと認定した。言い換えると、バックエンド処理は、顧客の要求に「応じて」発生し、「顧客の行為がなければ、(クウェストの)システム全体は決してサービスとして提供されない」ということである。

CAFCは、顧客はバックエンド処理を開始しておらず、それは顧客によるデータをダウンロードするか否か(転送ステップ)の決定を問わず自動的に行われるとしたクウェストの主張を採用しなかった。

CAFCは、特定のパラメーターを有するデータの要約を顧客が要求した場合に、特許クレームは「オンデマンド」機能をカバーし、この顧客によって行われた要求が、データの生成を引き起こすバックエンド処理ステップの原因となると述べた。従って、CAFCは単独ユーザーとしての顧客は、米国特許法第271条a項の「使用」要件を満たすとしたのである。

CAFCは、顧客が直接的侵害者であるかどうかについては扱わず、代わりに顧客による「使用」がクレームのすべての限定に一致するかどうかを判断するために地方裁判所へ差し戻した。

CAFCはまた、クウェストがパーソナルコンピュータまたは顧客の行為を制御していなかったとして、クウェストは米国特許法第271条a項のもとにおけるシステムを使用していないと判決した。

クウェストはバックエンド処理システムを作成し、維持しているけれども、システム全体をサービスとして提供することはない。CAFCは顧客へソフトウェアを提供することとそのシステムを利用することを区別した。

最後に、CAFCは、クウェストが米国特許法第271条a項のもとにおけるシステムの「作成」に対して責任があるかどうかを検討した。

センティリオンは、クウェストがクライアント側のソフトウェアを含むシステムのすべての部分を構築したため、もしくはソフトウェアをインストールするという顧客の行為を指示し制御することによってシステムの「立案者」の役目を果たしていたため、のいずれかにより責任があると主張した。

CAFCは、クウェストはクレームされたシステムのほんの一部しか作成しなかったと認定し、同意せず、法のもとでの「作成」とは、クレーム要素のすべてを兼ね備える必要があり、クウェストはそれを行わなかったと判断した。

それは「パーソナルコンピュータデータ処理手段」を提供すること、クライアントソフトウェアをインストールすることによってシステムを「完成」させたのは顧客であることが理由であった。

CAFCはクウェストが間接侵害、誘導及び寄与侵害、に対して責任があるかどうかについては、その問題が上訴審において取り上げられなかったこと、もしくは地方裁判所の事実認定によって十分に検討されなかったことを理由に扱わなかった。

センティリオン判決によれば、多くのサービス提供者がNTP事件での「使用」に関する定義から外れると思われる。そのため、「使用」クレームについての訴訟は、誘導侵害や寄与侵害のような間接侵害に対するサービス提供者の責任を問うような訴訟へシフトするであろう。

この判決のポイント

この事件において、CAFCはサービスプロバイダによって制御される「バックエンド」コンポーネント、及び顧客によって制御される「フロントエンド」コンポーネントを有するシステムの「使用」が、単一の当事者による特許権侵害の対象となりうるか否かについて初めて取り上げた。

地方裁判所はサービスプロバイダ及び顧客のどちらの侵害も認めなかったが、CAFCは判決を覆し、米国特許法第271条a項におけるシステムの「使用」は「システムが、総じてサービスとして提供される場所、つまりシステムの制御が行われ、その恩恵を受ける」ことであると判示した。

CAFCは、顧客がシステムをサービスとして提供し、バックエンドシステムからデータを要求すること、そのデータを使用することによってシステムに対し、全体として十分な制御を行ったことを認めたが、顧客が直接侵害者となりうるかについては判決を避けた。


(注) BMC Re-sources Inc. 対 Paymentech L.P., 498 F.3d 1373 (Fed. Cir. 2007)

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