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月刊The Lawyers 2011年3月号(第137回)

2. Microsoft Corp.事件

Misc. No. 944 (January 5, 2011)

CAFCは、連邦民事訴訟法第1404条a項の下、ワシントン州西部へ裁判地を移管するよう求めたマイクロソフト(Microsoft)の申立を拒否したテキサス州東部地方裁判所に対する職務執行令状を求める申立を認めた。

オールボイスデベロップメンツU.S. LLCは、マイクロソフトXPとVistaの基本ソフトの音声認識機能が米国特許第5,799,273号を侵害していると主張して、テキサス州東部においてマイクロソフトに対し特許権侵害訴訟を提起した。

オールボイスは、特許権の発明者の一人で会社の経営メンバーでもあるジョン・ミッチェル(John Mitchell)によって英国から運営されている。

訴訟の提起に先立って、オールボイスはテキサス州テイラーのテキサス州東部地区内にオフィスを設立した。このオフィスに従業員はおらず、またオールボイスは米国内において従業員を雇用していなかった。

オールボイスのウェブサイトは依頼や質問をテキサスのオフィスへ送り、そしてミッチェル氏が英国からそれらに回答していた。オールボイスは訴訟提起のわずか16日前にテキサス州法の下、法人格を取得した。

マイクロソフトは、ワシントン西部に本社があり、ワシントン西部が証人、書類、証拠の全てが存在する場所だと主張し、事件をワシントン州西部へ移管するよう申し立てた。

テキサス州東部地方裁判所はこの申立を却下し、オールボイスはテイラーにオフィスを構えており、テキサス州法の下で法人化されているため、双方の地域においてその事件の裁判に対する地元の関心があると説明した。

地方裁判所はまた、オールボイスがニューヨーク、マサチューセッツ及びフロリダにて当事者でない証人候補を特定したことを理由に、証人の所在地は若干、移管に不利に偏ったと認定し、これらの証人はテキサスがより便利な裁判地であると考えるだろうと結論付けた。

地方裁判所は、証拠源の所在地は移管に有利に働くとした一方で、オールボイスの書類はテキサス州東部地区に保管されていることを理由に、この要因はわずかしか移管を支持しないと判決した。

控訴審において、CAFCは裁判地移管の申立は、選択された裁判地よりも移管後の裁判地が「明らかに便利である」ことを示した上で認められるべきであると述べ、第5巡回区の判例を適用し、裁判地移管の申立に判決を下す上で、便利でない法廷(forum non convenience)を判断するために「公的」と「私的」利害要因を分析した。

そのような要因は、事件の個々にあわせた事実に基づき、当事者及び証人の利便性、及び適切な司法の運営に関係する。

CAFCは、地方裁判所が、関連する利便性の要因の意味のある適用を行うことよりむしろ、証人と当事者の中央近接性に頼ったGenentech事件566 F.3d 1338 (Fed. Cir. 2009)事件を含む、最近の判例を審理した。

CAFCはGenentech事件において職務執行令状を認め、地域の中心性は、証人と当事者の多くが実際に移管後の裁判地に存在することより重要ではないとの理由で、第一審裁判所の要因の適用は、明らかに一部誤っていたとした。

CAFCは、この事件が多くの点でGenentech事件と類似することを認めた。まず、マイクロソフトによって重要な情報を有すると特定された全ての証人はワシントン州西部地区の100マイル以内に居住していた。

オールボイスによって特定された14名の証人のうち、12名がテキサス州の外に居住しており、2名は訴えられたマイクロソフト社の製品を購入または使用していたが、裁判における争点または特許権に関する知識を持たないテキサス州東部からのビジネスマンであった。

Genentech事件のように、CAFCはテキサス州東部で裁判を行うことは、裁判に参加するために移動するという顕著な負担を証人に課し、それは移管によって最小限に抑えることができると認定した。

CAFCは「テキサス州東部に存在を確立」したオールボイスの固執は無駄であると認定した。実際にCAFCは、オールボイスの主張は、「訴訟を予見して裁判地として便利に見えるようにする目的で関連性を作った、この裁判地が選ばれるはずであるという誤った推定に基づいている」として却下した。

操作によって裁判地と管轄法を妨げようとする当事者の企てに関して、裁判所が批判的に考察しなくてはならないことを認定するにあたり、CAFCは先の最高裁判決を引用した。

CAFCは更に、この事件を、カリフォルニア州に拠点がある原告の弁護士がテキサス州にあるその訴訟弁護士のオフィスまで関連書類の7万5000ページを移し、その後、書類の所在はその地域で訴訟を維持することを支持すると主張した Hoffman-LaRoche Inc. 587 F.3d 1333 (Fed. Cir. 2009)事件と比較した。

Hoffman-LaRoche事件において、CAFCは、それらの書類の移動は弁護士による裁判地を操作する企てであり、裁判地の分析において重要視されるべきでないとした。

オールボイスの主たる事業地はテキサス州東部内であることを理由に、オールボイスは Hoffman-LaRoche事件と区別しようと試みたが、CAFCはこの主張には説得力がないとした。

CAFCは裁判開始の16日前にテキサス州法の下でオールボイスが法人化したことは、CAFCによって過去に拒絶された他の努力より「意味がなく、まさに訴訟を予見していた」として、同様に説得力がないとした。従って、CAFCは、ワシントン州西部地区は事件の審理に唯一便利で公平な裁判地であるとして、移管を認めた。

この判決は、より便利な裁判地が存在する場合に、テキサス州東部地区から事件を移管しようとするCAFCの継続した意思を証明した。

ここでは、訴訟を予見してテキサス州東部を便利な裁判地にしようとした原告の試みは、CAFCにより無駄であると認定された。

この事件は、訴訟当事者に、より便利な裁判地が存在する場合に、他の不便な裁判地と関連を作ろうとする原告の試みは、その地域で裁判を維持するには不十分であるとの明確なメッセージを送っている。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、訴訟を予見して原告がテキサス州東部地区と関連を持ち、テキサス州東部を便利な裁判地にしようとした試みを無駄であると認定し、ワシントン州西部地区が唯一便利で公平な裁判地であると認定した。この判決から、より便利な裁判地が存在する場合にはテキサス州東部から事件を移管しようとするCAFCの意思が確認できる。

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