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月刊The Lawyers 2011年3月号(第137回)

1. Uniloc USA, Inc. et al. 対
Microsoft Corp. 事件

Nos. 2010-1035,-1055 (January 4, 2011)

ユニロック事件においてCAFCは、陪審評決は実質的証拠によって裏付けされているとして、地方裁判所の法律問題としての特許非侵害の判決を破棄し、陪審員による賠償額の裁定は「法的に不十分な手法を用いたことにより、根本的に欠陥がある」と認定して、賠償額に関する新たな裁判を行うことを認めた地方裁判所の判決に同意した。

争点の特許は、ソフトウエアのインストールが合法であることを判断した後で、制限なくソフトウエアを起動することを許諾することによって違法コピーを阻止する、ソフトウエアの登録システムに関するものである。

ユニロックはマイクロソフトの Microsoft Word XP、Microsoft Word 2003、及び Windows XP でゲートキーパーの役割をするマイクロソフトのライセンス認証(Product Activation)を、特許侵害で提訴した。

審理を経て陪審員は、特許侵害を認め、特許は有効であり、マイクロソフトの侵害行為は故意であると認定し、ユニロックへの賠償額として3億8800万ドルを裁定した。

陪審員のこの賠償額の裁定は、ユニロック側の専門家であるジェミニ博士の証言に基づいていた。ジェミニ博士は、ジョージア・パシフィック事件(注)の判例におけるファクターを適用し、ユニロックとマイクロソフト間の仮想的交渉に基づき、約5億6500万ドルの妥当な特許使用料の賠償額をユニロックは受け取る権利があると意見を述べた。

5億6500万ドルという額に行き着くにあたり、ジェミニ博士はマイクロソフトの文書が使用法に応じてプロダクトキーに10ドルから1万ドルまでの価格を付けていたことを根拠とした。

ジェミニ博士は最も低い10ドルを取り上げて、これは Product Activation の価値とはかけ離れていると証言した。

いわゆる「25%ルール」を適用して、ジェミニ博士は特許使用料の基準額を1ライセンスにつき2.5ドルと算出した。彼はさらに、ジョージア・パシフィック事件における要素に関する証拠を検討したが、その要素は特許使用料の価格を変えるものではないと結論付けた。

ここにおいて、2.5ドルの特許使用料を Office と Windows 製品の新規ライセンスの数で掛けて、ジェミニ博士は特許使用料の妥当な額として5億6500万ドルを算出した。

ジェミニ博士は、賠償額の計算の検証として、1ライセンス当たりの平均販売価格の85ドルをライセンス数に掛けて、侵害被疑品の売り上げを190億2800万ドルと算出した。5億6500万ドルの特許使用料は売り上げの2.9%であることを見出し、この数字はソフトウエアの特許使用料の業界標準の範囲内であるとして彼の損害額の計算は妥当であると結論付けた。

マイクロソフトはジェミニ博士が提示した25%ルールの分析に初めから異議を申し立て、ジェミニ博士の証言のこの部分を除外しようと試みたが、地方裁判所はマイクロソフトの主張を退け、25%ルールを用いることは広く認められているので、ジェミニ博士の25%ルールの使用は合理的であると認定した。

マイクロソフトはさらに、Product Activation は Office や Windows 製品の消費者需要に基づいていないことを理由に、ジェミニ博士が損害額全体の検証に全市場価値のルールを使用したことに反論した。

地方裁判所は、190億ドルの利益の数値を用いたことが陪審員に過度の影響を与えたとして、マイクロソフトの主張に同意し、賠償額に関する新たな裁判をすることを認めた。

地方裁判所は、侵害被疑品には「ライセンス固有のID生成手段」及び「モード切り替え手段を備えた登録システム」が備わっていなかったと判示して、特許非侵害の法律問題としての判決を求めたマイクロソフトの申し立ても認めたため、賠償額の新たな裁判は行わなかった。

控訴審においてCAFCは、特許非侵害の法律問題としての判決、25%ルールの正当性、及び、賠償額の検証に全市場価値のルールを用いることに関して審理した。

侵害の争点について、CAFCは、陪審員がMD5及びSHA1アルゴリズムは「ライセンス固有のID生成手段」の限定要件を満たしているとの結論に至る実質的証拠があったと認定した。

さらにCAFCは、陪審員にはマイクロソフトの Product Activation は「モード切り替え手段を備えた登録システム」が備わっていたと結論付ける実質的証拠があったと認定した。従って、CAFCは地方裁判所による特許非侵害の法律問題としての判決を破棄して、特許侵害の陪審評決を復活させた。

賠償額の争点について、CAFCは「仮想的交渉における特許使用料の基準額を決定する目的において、25%ルールは根本的に欠陥のある手段である」と判示した。CAFCは、25%ルールに頼った証拠は、合理的な特許使用料の基準を係争中の事件の事実に結び付けていないので、Daubert事件および連邦証拠規則に基づき、証拠として認められないと理由づけたのである。

CAFCは、仮想的交渉により、特許製品の製造者が特許権者にライセンス料を支払ってもよいと考える合理的な特許使用料を見積もるためのツールとして、25%ルールを多くの裁判所が用いてきたと述べた。

25%ルールの賛成派が、25%ルールは企業や業界を超えた調査により確認されたものであると主張している一方で、このルールには数多くの批判もあるとCAFCは述べた。

そのような批判は以下の3つのカテゴリに分類される。25%ルールは、(1)特許とその侵害被疑品との間に特有な関連性、及び(2)当事者間の特有な関係性が考慮されていない。また、(3)本質的に恣意的な数値であり、仮想的交渉の見本としてそぐわない。

CAFCは、Kumho Tires 対 Carmichael事件、526 U.S. 137 (1999)及び General Electric Co. 対 Joiner事件、522 U.S. 136 (1997)を考慮すると、25%ルールは損害額の判断には適さないと判示した。実際には、「ルールは特定の技術・産業・当事者を包含する特定の仮想的交渉や合理的な特許使用料について何も触れていない」とCAFCは述べた。

CAFCは「根本的に欠陥のある前提に始まって、その前提を事件の事実に特有な合理的な対価に基づいて調整したとしても、根本的に欠陥のある結論に至る」と述べた。

CAFCは、ジェミニ博士の25%の特許使用料という開始点は、事件の事実に何ら関係もなく、恣意的で信頼できず見当外れであると認定した。賠償額の算定に25%ルールを用いることはDaubert事件の条件を満たすものではなく、陪審員が審理すべきではない。CAFCはマイクロソフトに賠償額に関する新たな裁判を起こすことを認める判決を下した。

次にCAFCは、ジェミニ博士が合理的な特許使用料の計算を「確かめる」ために、全市場価値を用いたことについて審理した。ユニロックは全市場価値のルールを適用することは、特許使用料が十分に低く、全市場価値のルールは全体の損害額の裁定を「確かめる」目的に使用するにすぎない、と主張した。

これに対し、CAFCは、最高裁及びCAFCの判例においては、十分に低い特許使用料を主張しただけで、マイナーな特許改良をした侵害被疑品の全市場価値を考慮することを認めてはいない、と述べた。

CAFCは、特許の特徴が顧客需要の基礎を成しているか、あるいは実質的に構成要素の一部の価値を生み出す場合においてのみ、全市場価値のルールに頼ることができると述べて、先の判例を繰り返した。この事件は、特許の構成要素が顧客需要の基礎を成していない場合に、全市場価値のルールを用いることの危険性を例示していると述べた。

実際に、CAFCは190億ドルの提示は陪審員の賠償額の計算を歪曲させた、と認定した。更に、全市場価値のルールは単に賠償額全体額の「確認」として用いるに過ぎないというユニロックの主張を却下した。CAFCは、ユニロックによる全市場価値のルールの不適切な使用を理由に、地方裁判所が賠償額の新たな裁判を認めたことは裁量権の乱用ではないと認定した。

ユニロック事件は特許侵害訴訟における賠償額の算定方法を根本的に変え、特許侵害事件における過剰な賠償額が明らかになった場合に調節する、影響力のある事件として広く歓迎されるものである。

ユニロック事件は、25%ルールは今後の特許訴訟ではふさわしくないものであり、全市場価値のルールは、特許権者が特許に関連する特徴が顧客需要の基礎となっていることを立証した場合にのみ適用されることを教示している。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、特許侵害の賠償額の算定において専門家がしばしば用いてきた25%ルールを拒絶した。25%ルールは、事件の事実に基づく合理的な特許使用料の基本とはならず、根本的に欠陥のある手段であるとして、特許訴訟の賠償額の裁定に用いるべきではないと判示した。また、特許の特徴が顧客需要を創出していないか、または価値ある製品の一部となっていないときは、全市場価値のルールに頼ることはできないことを判示した。


(注) Georgia Pacific Corp. 対 U.S. Phywood Corp.事件。318 F. Supp. 1116 (S.D.N.Y. 1970)

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