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月刊The Lawyers 2011年2月号(第136回)

2. Western Union Co. 対
MoneyGram Payment Sys., Inc.事件

No. 2010-1080 (December 7, 2010)

この事件においてCAFCは、米国特許第6,488,203号(203特許)、第6,502,747号(747特許)、及び、第7,070,094号(094特許)に関し、特許は有効で、かつ特許侵害ありと認定した地方裁判所の陪審評決による判決を破棄した。

ウェスタンユニオンは、送金実行システムに関する203特許、747特許、094特許の権利者である。

094特許クレームは、送金を受け取るシステムに関する。203特許は1999年10月26日に出願され、電子取引履行装置(ETFD)を用いた送金方法をクレームしていた。従来の送金システムとは異なり、203特許は送金者による送金情報(例えば受取人情報及や送金額)の伝票記入を必要としない。

203特許のクレーム1は、顧客が電話でカスタマーサービスへ連絡するシステムをクレームしている。顧客は送金の詳細をカスタマーサービスの担当者に伝え、その担当者は取引の詳細をコンピュータに入力する。次に顧客は取扱店(retail location)へ入金し、そこで取次人(Agent)はコンピュータから取引明細を取り出す。

従属クレーム12は、送金業者の従業員が取引識別コードを提供する、という限定を加え、従属クレーム16は、送金者から集金し、集金したことをデータベースに通知し、取引が完了したものとして記録する、との限定を更に加えている。

747特許は203特許の継続出願であり、インターネットベースの通信を送金システムに用いることを付加している。

係争特許を自明性により無効と認定した際、CAFCは先行技術であるオーランディ・バルタ(Orlandi Valuta)のシステムに注目した。オーランディ・バルタのシステムは、1997年初頭には実用化されており、このシステムも顧客による伝票記入を必要としない送金システムであった。

オーランディ・バルタのシステムでは、顧客はカスタマーサービスと電話上で取引を開始する。カスタマーサービスは顧客から得た情報をコンピュータシステムに入力し、取引情報を取扱店へFAX送信し、そこで取次人は顧客からの支払いを承認する。取引コードは取扱店宛FAXシートに表示される。

2000年、被告のマネーグラムは伝票不要の送金システムの使用を開始した。2003年に係争特許の存在を知った後、マネーグラムは、取引中に顧客の希望額をファイルデータベースに格納しないシステムに設計変更した。

2007年、ウェスタンユニオンはテキサス州西部地区地方裁判所に提訴した。陪審裁判は2009年に行われ(注1)、陪審員は、マネーグラムが設計変更したシステムは、2つの特許の一部のクレームを均等論に基づき侵害していると認定した。

設計変更前のシステムについて陪審員は、設計変更前のシステムに対してのみ侵害が主張されたクレームだけでなく、設計変更後のシステムに対して侵害が主張されたクレームと同一クレームも文言上侵害していると認定した。更に陪審員は、変更前のシステムは094特許のクレーム2を均等論に基づき侵害していると認定した。

裁判の後で、地方裁判所は、文言上の侵害に関する法律問題としての判決(JMOL)を求めたウエスタンユニオンの申し立てと、特許非侵害及び自明性に関するJMOLを求めたマネーグラムの申し立ての両方を却下した。

地方裁判所は、マネーグラムはキーパッド装置に基づく自明性を明確に主張しなかったので、バルタ・システムに基づく自明性に関する主張を放棄していたと判示した。更に、先行技術であるバルタのシステムはETFDターミナルあるいは取引確認コードを使用しておらず、当業者であればこれら2つの限定をバルタ・システムに組み合わせることは自明であったと述べた。

CAFCは改めて審理を行い、マネーグラムがバルタ・システムに基づく自明性の主張を放棄していなかったと判示し、「通り一遍倒の申し立てであっても、それが規則50(a)の目的、即ち、当事者の法的立場を裁判所に注意喚起すること、及び、反対の立場の当事者に対し証拠の不十分さを通知する、という目的に適う限り、JMOLの争点を維持するには十分である。(途中引用部分省略)」と述べた。

マネーグラムは全ての主張されたクレームについて全体的に自明性があると主張したのであるから、マネーグラムはJMOLの主張を放棄していないとCAFCは述べた。

特許の自明性を判断するにあたり、CAFCは以下の4つの事実について質問した。(1)先行技術の範囲と内容、(2)先行技術と争点のクレームとの差異、(3)当業者のレベル、及び(4)商業的成功、長い間待望されていたが未解決であったニーズ、及び他の不具合といった関連する二次的考察である。

CAFCは、バルタ・システムを考慮すると、ウエスタンユニオンが主張するクレームは、法律問題として自明であったと認定した。CAFCはクレームされた発明の、(1)ETFD、(2)インターネットの使用、(3)送金者によって使用するために構築された「コード」、という3つの要素について言及した。

ウエスタンユニオンは、クレームされたETFDは、単純なキーパッド以上のものであると述べた。しかしながら、バルタ・システムとETFD及びインターネットとを組み合わせることが自明であったかどうかを判断する上で、CAFCは、数字キーパッドはウエスタンユニオンから既に入手可能になっていると記載した特許明細書に注目した。

CAFCは、Leapfrong Enters., Inc. 対 Fisher-Price, Inc.事件(注2)において、自明性は「現代のエレクトロニクスを古い機械装置に適用することが近年、一般的である」という理由に一部基づくことができると結論付けた過去の判例を適用した。

従って、明細書に記載された先行技術の電子キーパッドをバルタ・システムと組み合わせる動機があったとCAFCは判示した。更に、主張されたクレーム中にインターネットベースの通信を付加したことは、同様に当業者には自明であったと認定した。

コードの使用に関しては、CAFCは、バルタ・システムは処理に対応するコードの使用を教示していたと認定した。バルタ・システムは取扱店において処理を調べるためにコードを使用することは教示していなかったが、当業者にとって、コードをそのように使用することは自明であった、とCAFCは判示した。

また、CAFCは、ウエスタンユニオンは自社の商業的成功とクレームした発明との結びつきを立証しなかったので、非自明性の二次的考察に関する証拠は、非自明性の陪審評決を裏付けることとは関係ない、と判示した。CAFCは「不十分な二次的考察は一般的に、自明性の強力な証拠を覆すことはない」と述べた。

この判決は、現代のコンピュータやインターネット技術を、ファクシミリ装置の様な旧式の機器に適用することによって自明性を見出そうとするCAFCの意思を示している。

CAFCは、特許明細書中で引用したキーパッドを含む組み合わせに基づき発明の自明性を判断しているので、出願人は、既存のコンポーネントや装置を明細書中に記載し、クレームした発明とそれを組み合わせて使用できるなどと記載した場合、その記載が、代用もしくは組み合わせによる自明性の問題を生む危険性がある点に注意を払わなければならないことをこの事件は明らかにした。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、地方裁判所の判決を破棄してウエスタンユニオンの特許は明細書に記載された公知の技術から自明と判断し、特許の無効を判決した。この事件は、コンピュータやインターネットの活用を要素とする発明の自明性を、従来例の装置(旧式の機器)を鑑みて判断する傾向にCAFCがあることを示した。CAFCは、単なる置換以上のレベルを発明に求めている。


(注1)2009年8月、地方裁判所は、設計変更したマネーグラムのシステムは、094特許のクレームを侵害していないという略式判決を下した。更に、公判中、ウエスタンユニオンは203特許の継続出願である米国特許第6、761、309号(309特許)の侵害の主張を取り下げた。

(注2)485 F.3d 1327 (Fed. Cir. 2007)

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