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月刊The Lawyers 2011年2月号(第136回)

1. Nuance Comm’ns, Inc. 対
Abbyy Software House事件

No. 2010-1100 (Novemver 12, 2010)

2008年2月19日にニュアンス(Nuance)は、カリフォルニア州中央地区裁判所にアビーUSA(Abbyy USA)とレックスマーク(Lexmark International, Inc)に対して訴えを提起した。中央地区裁判所はこの事件を北地区裁判所へ移管した。

アビーUSAがアビー・ソフトウェアの完全子会社であることを知った後に、ニュアンスは訴状を訂正して、アビー・プロダクションとアビー・ソフトウェアを被告に追加した。

2009年5月7日、モスクワにおいて現地の令状送達者がアビー・プロダクションへ訴状を送達し、アビー・プロダクションの経営者は文書を個人的に受け取った。しかし、ニュアンスは、ヘーグ条約で要求される送達を実行するためにロシア当局を経由しようとしなかった。

2009年6月25日、アビー側の両被告は、対人管轄権の欠如による訴え却下の申立てを行い、アビー・プロダクションはまた、不適切な召喚状の送達による訴え却下を要求した。

証言聴取を行わず、かつ当事者が証拠開示を交換せずに、地方裁判所は当事者の主張を却下し、被告アビーがカリフォルニア州の居住者に特定の活動を意図的に指示したことも、ニュアンスの主張がこれらの活動に起因または関連することも、記録は示していないと判断した。

さらに、地方裁判所は、ヘーグ条約に従って適切に訴状がアビー・プロダクション宛に送達されなかったと判断し、さらにアビー・ソフトウェア宛に不適切に訴状が送達されたと職権で判断した。地方裁判所の意見はアビー・ソフトウェアへの訴状の送達方法を説明しなかった。

被告アビーの裁判地との接点を評価する際に、CAFCは、アビー・ソフトウェアがアメリカ、日本、ロシア、ドイツ、ウクライナ、イギリス、サイプレスおよび台湾にオフィスを有する国際企業であることに注目した。

CAFCは「アメリカの市場を征服」できるとアビー・ソフトウェアのCEOが述べているトレードシークレット・マガジンの記事を引用した。この記事の中で、アビー・プロダクションのCEOは、アメリカにおけるソフトウェア製品の立ち上げは、ニュアンスにより提起された訴訟に対する報復と位置づけていた。

さらに、ソフトウェアライセンスに従ってアビー・プロダクションがソフトウェアを開発し、マスターコピーをアビーUSAへ提供し、次いでアメリカにおいてソフトウェアを使用・販売・複製・配布・市販する権利を許可したとCAFCは判断した。

特許事件における対人管轄権の行使を地方裁判所が適切に拒絶したかを判断する際には、連邦巡回法が適用されるため、CAFCは対人管轄権に関する下級裁判所の決定を検討し、根本的な事実認定について明白な誤りの有無を検討した。

固有の対人管轄権が存在するかどうかを判断するために、CAFCは(1)被告が裁判地の居住者に活動を意図的に指示したか、(2)訴えがこれらの活動に起因または関連するか、及び(3)対人管轄権の決定は合理的且つ公平か、に着目している。

当事者はまだ証拠開示に関与しておらず、管轄に関する記録も存在しないため、CAFCはすべての事実争議をニュアンスに有利になるように解決した。よって、却下の申立てを逃れるためにニュアンスに必要だったのは、管轄の一応の主張だけだった。

対人管轄権の分析の最初の段階をアビー・プロダクションへ適用する際に、CAFCはPieczenik 対 Dyax事件(265 F.3d 1329, Fed. Cir. 2001:以下、ピチェニック事件)における自身の判断と区別した。この事件もまた、裁判地の外側で締結された法廷所在地の法に支配されないライセンス契約を含んでいた。

ピチェニック事件は法廷所在地のロングアーム法のもとでの分析を含み、このロングアーム法はカリフォルニア州のロングアーム法とは異なり法の正当な手続により要求されるものの範囲に及ばないとCAFCは判示した。

さらに、ニュアンスおよびアビーの両被告とは異なり、ピチェニック事件の当事者は証拠開示を行っており、管轄の争点に関する証言聴取が開かれていた。CAFCはさらに、ピチェニック事件における争点のライセンスは無関係の当事者間での独立当事者間取引を含み、姉妹会社であるアビー・プロダクションおよびアビーUSAから区別されると判示した。

最後に、管轄が存在するとピチェニック事件の原告が主張した唯一の根拠はライセンスであり、CAFCはトレードシークレット・マガジンの記事がライセンス単体よりも有力な証拠を提供すると判示した。

第2の段階で、アビーUSAを通じてカリフォルニア州で販売された被疑ソフトウェアの所有権をアビー・プロダクションが保持するという事実は、ニュアンスの主張が裁判地で指示された活動に関連することを立証するのに十分であるとCAFCは判断した。

さらに、製品がカリフォルニア州で購入されるだろうという期待とともに製品を供給したのだから、アビー・プロダクションはWorld-Wide Volkswagen Corp. 対 Woodson事件(444 U.S. 286、1980)での「ストリーム・オブ・コマース」法理を惹起し、従ってこの要因は対人管轄権の認定を裏付けるとCAFCは言及した。

3番目の段階で、アビー・プロダクションは自身の製品がどこに向けられているかを知っており、カリフォルニア州との接点が「そこでの裁判所に持ち込まれるだろうことが合理的に予期されるべきもの」であったため、対人管轄権は合理的且つ公平であるとCAFCは認定した。

CAFCはアビー・ソフトウェアに関して詳細な分析を行わなかったが、アメリカを含むいくつかの国にオフィスを有することを自身のウェブサイトで主張しているのでアビー・ソフトウェアは単なる持ち株会社ではないというニュアンスの主張は限られた証拠により裏付けられると言及した。しかしながら最終的に、CAFCはアビー・ソフトウェアの関与の範囲が不明確であると認定した。従って、CAFCは却下の申立てを認めた地方裁判所の判決を破棄し、管轄に関するさらなる証拠開示について差し戻した。

最後に、適切な送達の争点に関して、ヘーグ条約は訴訟当事者に受信側国家の当局を通じて要求を送信することを要求するとCAFCは言及した。

しかしながら、ロシア連邦は訴訟当事者によりロシア当局へ送信された要求文書の受け入れを拒否。文書は単に未捺印のまま戻され、よってヘーグ条約を遵守する試みは無益である。

従って、ニュアンスはヘーグ条約に従って送達を試みる必要は無く、事件の継続をアビー・プロダクションに通告し、応答の機会を与えることが合理的に計画されているため、アビーUSAに関する送達形式は許容可能であると結論付ける連邦民事訴訟規則4(h)(2)が適用されるとCAFCは判断した。

CAFCはさらに、下級裁判所が自己の発意で不適切な送達のためアビー・ソフトウェアを却下したことは不適切であると判断した。

この事件は、域外の企業なり個人にアメリカの管轄が及ぶ可能性があることを判示した点で重要である。被告がアメリカ国内の第三者と事前の関係を有するならば、この第三者を通じた接触は、アメリカの裁判所に十分な管轄を付与する可能性があることを明確にした。この事件はまた、アメリカの姉妹会社への送達のような代替の送達を含む「国際合意により禁止されていない他の手段により」送達を指示することについて、連邦裁判所は自由裁量権を有することを再確認した。

この判決のポイント

この事件は、域外の企業なり個人にアメリカの管轄が及ぶ可能性があることを判示した点で重要である。被告がアメリカ国内の第三者と事前の関係を有するならば、この第三者を通じた接触は、アメリカの裁判所に十分な管轄を付与する可能性があることを明確にした。

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