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月刊The Lawyers 2011年1月号(第135回)

3. Cancer Research Technology, Ltd. 対
Barr Laboratories, Inc.事件

No. 2010-1204(November 9, 2010)

この事件で、CAFCは地方裁判所の判断を覆した。地方裁判所は侵害訴訟において、審査過程での懈怠及び不公正な行為を理由に、特許権は権利行使不可能であると判断した。地方裁判所は審査経過での懈怠を理由に特許権が権利行使不可能であると判断したが、CAFCは、侵害被疑者に損害を与えたという証拠が無い限りは、この点について地方裁判所が法律適用上の誤りを犯したと判断した。

また、地方裁判所は発明者が特許庁において詐欺の意図を持って振る舞ったと判断したが、CAFCは、この点について地方裁判所が法律適用上の誤りを犯したと判断した。

ガン研究所(Cancer Research)の米国特許第5,260,291号(291特許)は、テトラジン派生化合物の属(genus)、及び、この化合物を使用して癌を治療する方法をクレームしている。

291特許の最初の明細書は、1982年8月23日に提出され、13のテトラジン派生化合物を開示しており、動物のデータに基づいて、有用な抗腫瘍作用を有するものとしてこれらの化合物を特定している。

1983年から1991年の間、審査官は有用性欠如を理由にクレームを繰り返し拒絶した。出願人は拒絶理由に応答するのではなく10回の継続出願を行った。1991年、ガン研究所は特許出願の所有権を取得してさらに別の継続出願を行い、審査官による有用性欠如の拒絶理由に対して初めて応答した。

ガン研究所の主張は、最初の明細書中に記載された動物のデータに関する開示がヒトでの有用性を立証するのに十分であるというものであった。審査官はクレームが許可可能であると考え、特許は1993年11月9日に発行された。

291特許が審査されている間、クレームされたテトラジン化合物のうちの1つであるテモゾロマイドが、ヒトの臨床試験の段階に進み、2種類の脳腫瘍の治療用としてFDAに承認された。テモゾロマイドはTemodar(登録商標)として販売されている。291特許には、1006の特許権存続期間の延長、及び、小児排他性期間(pediatric exclusivity period)が認められ、2014年に満了する。

2007年、バー(Barr)はANDAを申請し、FDAによるTemodar(登録商標)のジェネリック薬の承認を求めるとともに、291特許の有効性を攻撃するパラグラフW証明書を提出した。

ガン研究所は、バーが特許権を侵害したとして訴訟を提起した。バーは、審査過程での懈怠及び不公正な行為を理由として特許権が権利行使不可能であるとして、反訴した。

裁判官による審理の後、地方裁判所は、審査過程での懈怠及び不公正な行為を理由に291特許の特許権は権利行使不可能であると判断した。バーは、11回の継続出願、10回の出願放棄、及び10年近くに亘り実質的な審査が行われなかったことに起因する遅延は不合理であり、説明できないと主張し、地方裁判所はこの主張に同意した。

地方裁判所はまた、ガン研究所が特許庁に対して極めて重要な情報を開示することをしなかったと判断し、さらに、発明者が詐欺を意図してデータを隠蔽したと判断した。地方裁判所はバーに有利な終局判決を下しため、ガン研究所は控訴した。

控訴審においてCAFCは、審査過程での懈怠の法理を適用するには、審査過程での不合理で説明できない遅延、及び、侵害被疑者に対して損害を与えたという認定の両方が必要であると判断した。

また、CAFCは「損害を立証するためには、侵害被疑者は中用権(intervening rights)の証拠(即ち、侵害被疑者または他者が、遅延期間中に、クレームされた技術に投資していたか、これを実施していたか、またはこれを使用していたということ)を示さなければならない」と判断した。

CAFCは、バー及び他者のいずれも、1982年から1991年の間に、テモゾロマイドや何らかのクレームされたテトラジン化合物を開発したりこれに投資したりはしていなかったと判断した。

CAFCは、2003年に法の下でANDAを申請する権利を与えられたバーですら2007年までそのようなことを行っていなかったと指摘した。それゆえ、バー及び他者のいずれも、291特許の発行が1993年まで遅延したことによって損害を被ってはいない。むしろ、特許審査の遅延の唯一の結果は、ガン研究所が特許権存続期間延長の全体を可能にすることができなかったということである。

というのも、特許権がハッチ・ワックスマン法の下で延長された場合には排他性に関して14年の上限があるからである。したがってCAFCは、地方裁判所が審査経過での懈怠を理由に特許権は権利行使不可能であると考えた点について、中用権の証拠が無い限りは、地方裁判所が法律適用上の誤りを犯したと判断した。

また、控訴審においてCAFCは、発明者がクレームされた化合物に関するデータを開示しないことにより特許庁を欺こうとしたと地方裁判所が判断した点、並びに、地方裁判所が詐欺の意図を推定するために重要性に関する自己の判断にのみに依拠した点について、地方裁判所が法律適用上の誤りを犯したとも判断した。

CAFCは、発明者が291特許の明細書の開示と矛盾するデータを公開したことを示す証拠によっては、それ単独で、発明者が特許庁を欺くことを意図して自己の研究を隠蔽したということを立証できなるものではないと説明した。

その理由として示されたことは、重要性と意図とは別々の要件であり、重要性の要件だけに基づいて詐欺の意図を認定することはできないからである。むしろ、CAFCは、291特許の審査の間に様々な文献でデータを迅速に公開したことは、詐欺の意図に関する推論と矛盾すると認定するとともに、この証拠から等しく合理的に導かれる推定は、全データの公開は自己の科学者としてのキャリアにとって重要であると発明者が考えていたがテトラジン化合物の特許性にとっての潜在的な重要性を認識してはいなかったという推定にすぎないと判断した。

したがって、CAFCは、発明者が詐欺の意図を持って振る舞ったと地方裁判所が判断した点、並びに、地方裁判所が不公正な行為を理由に291特許の特許権は権利行使不可能であると考えた点について、地方裁判所が法律適用上の誤りを犯したと判断した。

ガン研究所の判決でCAFCが明らかにしたことは、審査過程での懈怠に関する不公正な行為に基づく防御を行うには、審査過程における不合理で説明できない遅延に由来する損害を別に認定する必要があるということである。加えて、この損害は侵害被疑者が被ったものでなければならず、説明できない遅延の結果として公衆に与えた内在的な損害だけであってはならない。

この判決のポイント

この事件で、CAFCは、審査過程での懈怠及び不公正な行為を理由に特許権は権利行使不可能であると判断した地方裁判所の判決を覆した。CAFCの判断により明らかになったことは、審査過程での懈怠に関する不公正な行為に基づく防御を行うには、審査過程において発生した不合理かつ説明できない遅延がもたらす損害を認定する必要がある。

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