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月刊The Lawyers 2011年1月号(第135回)

1. AstraZeneca LP 対 Apotex, Inc.事件

No. 2009-1381, -1424 (November 1, 2010)

この事件において、CAFCはアストラゼネカ(AstraZeneca)の米国特許第6,598,603号及び第6,899,099号(以下、603特許及び099特許)の方法クレームとキットクレームによってカバーされており、アストラゼネカが米国食品医薬品局(以下、FDA)の承認を受けて製造、供給しているFDAに認可されたブデソニド薬のジェネリック版をアポテックスが売り出すことを禁止する仮差し止め命令を認めた地方裁判所の決定を支持した。

アストラゼネカは、ブデソニド製品をカバーし、オレンジブックに掲載されている603特許及び099特許を所有している。603特許及び099特許は、一日一回のブデソニド組成物の投与に関する方法クレームと、ブデソニド組成物もしくは懸濁薬のいずれかを含むキット、及び噴霧による一日一回の投与することをラベルが指示している製品に関する特許である。

この特許権は一日一回の投与に関するものであるが、ブデソニド製品に添付されているラベルには、薬を一日に一回、もしくは二回投与してもよいと記載れていた。ラベルはFDAによって貼付することを要求されている。このラベルはまた、過度な使用による副作用を防ぐために、投薬量を最低有効量まで減らすか、もしくは「用量設定を減らす」よう患者に警告していた。

アポテックス(Apotex)は、一日二回の使用を目的とするブデソニドのジェネリック版を製造して販売するためにFDAの認可を求める医薬品簡略承認申請(以下、ANDA)を提出した。

ANDAのほかに、アポテックスは603特許及び099特許でクレームされている一日一回の使用法に関する認可を求めていないこと、及び提案するジェネリック版のラベルは、一日一回の投与について言及しないことを主張するセクション8の宣誓書を提出した。しかしながら、そのラベルには、アストラゼネカのブデソニド製品のラベルと同様に、FDAによって義務付けられた用量の削減に関する文言が記載されている。

FDAがアポテックスのANDAを認可した翌日、アストラゼネカはアポテックスに対し特許権侵害の確認判決訴訟を提起して、アポテックスにブデソニド薬のジェネリック版の供給を禁止する仮差し止め命令を申請した。

地方裁判所は、以下の理由により、仮差し止め命令を認めた。アポテックスは方法クレームが先行技術文献により新規性がないことを立証できず、アポテックスのラベルが誘導侵害の意図がなかったとする証拠が不十分であったこと、さらに、仮差し止め命令が認められなかった場合にアストラゼネカは回復不可能な損害を被ると考えられたからであった。

しかしながら、地方裁判所は、キットクレームの特許が無効である点でアポテックスに同意した。アポテックスは地方裁判所が仮差し止め命令を認めたことに対して控訴し、アストラゼネカはキットクレームを無効とした地方裁判所の見解に対して上訴した。

控訴審において、CAFCはまず、603特許の方法クレームがリポソームを含むブデソニド製剤を開示する先行技術により新規性なしとするアポテックスの主張を考慮に入れて、「ブデソニド組成物」という文言に関する地方裁判所の解釈を審理した。

CAFCは、明細書の中で定められた定義と、一日一回の投与に関するアストラゼネカの方法クレームは、もしブデソニド組成物がリポソームを含んでいる場合には効果がないとの専門家証言に基づき、地方裁判所が、方法クレームに記載された「ブデソニド組成物」は「リポソーム」を除外するものとして文言を適切に解釈したと認定した。したがって、CAFCは、リポソームを含むブデソニド製剤を開示する先行技術はアストラゼネカの特許を阻害するものではないと結論づけた。

次にCAFCは、一日二回用の製品としてアストラゼネカのブデソニド製品を開示した先行技術である広告により、アストラゼネカの特許発明は新規性を欠くとするアポテックスの主張について審理し、この広告が発行された時には、当業者であっても広告の中で説明されている一日一回の服用を指示する投薬のアドバイスを理解せず、さらに一日一回のブデソニドの投与が安全で有効であることは周知でなかったと証言したアストラゼネカの専門家証言を考慮した。

したがって、CAFCは、一日一回の投薬を指示していなかったこと、及び、一日一回の投薬を許容していなかったことを理由に、この広告がアストラゼネカの特許に対して先行技術とならないと結論づけた。

誘導侵害に関して、CAFCは、アポテックスが故意に侵害を誘導し、他者による侵害を促す明確な意思を持っていたことを地方裁判所が正しく結論づけたと認定した。

CAFCは、ラベルによって生じる可能性のある侵害の争点をアポテックスが承知していたにもかかわらず、アポテックスがジェネリック製薬を流通させる計画を推し進めたと判断した。

さらに、CAFCは、例えば(1)パラグラフ3の証明書を提出してアストラゼネカの特許権が失効するまでジェネリック製薬の供給を待つこと、(2)パラグラフ4の証明書を提出して主張されたクレームの特許権侵害と無効について争うこと、(3)アポテックスのラベルの修正に関してFDAが拒否したことについて控訴すること、(4)適切性の申し立てもしくは特許権を侵害する使用を指示しない異なった薬の長所に関する新薬承認申請書類のいずれかを提出することなど、アポテックスには他の選択肢が存在したと指摘した。

CAFCは、FDAが特許権侵害の問題の調停者ではないため、投薬量の削減に関する文言は一日一回の投薬を指示しないとするFDAの要求に対して、アポテックスがそれに依存したことは誤りであると指摘した。ゆえに、CAFCは、アストラゼネカが裁判において誘導侵害を証明できるとした地方裁判所の認定を支持した。

CAFCは、仮差し止め命令の申請を認めなければ、アストラゼネカは3つの種類の回復不可能な損害を被るであろうと判断した地方裁判所の認定も支持した。

第一に、CAFCはアストラゼネカの薬のジェネリック版を販売する独占権をテヴァに認める和解契約の影響に基づいてアストラゼネカが受ける損害を計算することは不可能であると判断した。第二に、もしアポテックスのジェネリック製薬の販売開始がアストラゼネカの薬を市場から撤去させる原因となった場合に、アストラゼネカはその評判や営業権について数量化不可能な損害を被ると判断した。第三に、市場にジェネリック製薬が登場した結果としての一時販売中止がもたらす損害もまた甚大であり、これもまた数量化不可能であると判断した。

最後に、CAFCはキットクレームにおいて言及されているブデソニドの懸濁薬は先行技術の中にあって周知であり、一日一回以上の投与をしないように指示するラベルは、新しくて自明でない製品を創造するためのブデソニド懸濁薬とともには作用しないので、キットクレームの特許は無効であると認定した。

したがって、CAFCはキットクレーム特許を無効と決定した地方裁判所の判決を支持した。

アストラゼネカ対アポテックス事件において、CAFCは訴えられた侵害者が潜在的な特許権侵害の問題を承知していたため、まだ薬のジェネリック版の供給には着手していないにも関わらず、誘導侵害の意思の認定を支持した。CAFCは潜在的な特許権侵害を回避する訴えられた侵害者の選択肢に対して特別な注意を払った。

この判決のポイント

この事件では、侵害被疑者が潜在的な特許権侵害を承知していれば、誘導侵害の意思を認定できるという重要な判決がでた。とりわけ、CAFCは、侵害被疑者が潜在的に特許権侵害を回避するための選択肢を有していたか否かを判断の基準とすることが判示された。

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