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月刊The Lawyers 2010年9月号(第131回)

2. In re Zimmer Holdings, Inc.事件

No. 2010-938 (June 24, 2010)

- 真正な営業の所在地を参考に裁判地を決めた判決 -

CAFCは、Zimmer Holdings, Inc.、Zimmer, Inc.、及び Zimmer US, Inc.(以下、まとめて「ジンマー」)によって提出された移送の申立てを承認し、テキサス州東部地方裁判所からインディアナ州北部地方裁判所へ裁判を移送することを命じた。

メディディア(MedIdea)はジンマーに対し、テキサス州東部で訴訟を提起し、ジンマーが人工股関節置換手術及び人工肩関節置換術に関する自己の特許を侵害したと主張した。

メディディアは主要な営業所をテキサス州ロングビューに持ち、ジンマーは主要な営業所をインディアナ州ワルシャワに持つ。ジンマーはインディアナ州北部及びミシガン州東部の裁判地はテキサス州よりも便利なので、行政訴訟法(28 U.S.C.) 第1404条(a)に基づき、このいずれかへ事件を移送する申し立てを提出した。

ジンマーの主張は、メディディアはテキサス州で営業するようには登記されておらず、メディディアのオフィスを彼らの弁護士の別のクライアントと共有しているので、メディディアはロングビューの住所において実際には何の営業も行っていないというものであった。

ジンマーの指摘によれば、メディディアはミシガン州に対して大きな結び付きを有してそこに登記されたオフィスを保持しており、8人の証人候補がインディアナにおり、そして、証拠の多くがインディアナまたはミシガン州から来ると考えられる。

ジンマーの申立てに対して決定を下すのに際して、地方裁判所は、メディディアのテキサス州のオフィスが「真正なる営業上の目的を持っているのか、或いは裁判管轄を操作する戦術であるのか」を判断するために「当事者の営業上の決定を精査すること」を拒否した。

そして、地方裁判所は、メディディアが主要な営業所をロングビューに持っていると判断した。また、テキサス州の裁判所は、ロングビューでのメディディアの所在地からすれば、インディアナでの審理に出席するジンマーの証人の利便性とも均衡しているので、当事者の利便性はいずれの裁判管轄にも偏ってはいないと考えた。

更に、地方裁判所は、ジンマーが自己の書類をテキサス州へ移動させることが著しく不便であるということをジンマーは示していないし、不自由なく移動させることが不可能な文書をジンマーは何ら特定していないと感じた。

最後にテキサス州の裁判所が強調したことは、別の被告に対してメディディアが提起した実質的に同様の技術に関する特許訴訟がテキサス州東部で進行中であるということである。そして、テキサス州の裁判所は移送の申立てを却下した。

CAFCにおいて、メディディアは、自分の主要な営業所の所在地での訴訟の選択は尊重されるべき権利であると主張した。しかしながら、Hoffman-La Roche(注1)の事件においてそうであったように、メディディアは、訴訟を見越して自己の特許審査ファイルのコピーをミシガンからテキサスのオフィスへと移送した。それゆえ、メディディアの主要な営業所は、つい今しがたの、短命の、そして訴訟のための作為的なものである。

その結果CAFCが考えたことは、本件は、原告がオフィスを分散することにより作為的に裁判管轄を確立しようとして制度の悪用を試みるという古典的な事例だということである。更に、移送の動議を却下した地方裁判所の決定についての支配的要因の1つは、他の訴訟が同じ法廷で同時係属していることであった。

CAFCは、メディディアの訴訟が共に訴訟の初期段階であったとしても、ふたつの事件にはほとんど重複が無いと考えた。更に、ふたつの事件は1つの重複する特許が関係しているだけであり、両方の訴訟に関与する被告はおらず、両事件は大きく異なるディスカバリー、並びに、審理を伴うことになることが想定される。これらの要因に基づき、CAFCは地方裁判所の決定を取り消した。

この判決のポイント

この事件は、法廷地漁りとしてのテキサス東部地区裁判所の悪用を減らすことにCAFCが関心を持っていることを示した。そして、本件は、被告が不便な裁判地から脱出することを容易にするであろう。

この決定は、特許訴訟を多く受け付けようとしている他の裁判所に対しても意味を持ち、この決定内容からして関連する事件が同時にその裁判所に係属しているといった要因や、被告側証人が比較的近所にいる(Nintendoの事件とは違ってジンマーの証人は日本に住んでいる訳ではない)といった要因を踏まえても移送を許可したという点で、最近の裁判地移送事件であるNintendo事件(注2)から更に踏み込んだ事件である。


(注1)In re Hoffmann-La Roche Inc., 587 F.3d 1333 (Fed. Cir. 2009)

(注2)In re Nintendo Co., 589 F.3d 1194 (Fed. Cir. 2009)

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