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月刊The Lawyers 2010年5月号(第127回)

3. SEB S.A. 対
Mongtgomery Ward & Co., Inc.事件

Nos. 2009-1099, -1108, -1119 (February 5, 2010)

- 海外から米国国内へ侵害品を販売する行為が侵害教唆になりえる -

SEBは、フライパンが底部からリングによって分離されている、安価なプラスチックの外殻もしくはスカートを有するフライ鍋を開示、クレームした米国特許第4,995,312号(312特許)の特許権者である。

SEBはそのフライ鍋を販売し、「クールタッチ」の特徴を備えた鍋として宣伝しており、米国内でフライ鍋の侵害品を販売する複数の被告を提訴していた。

SEBはさらにその仕入先であるペントアルファ(Pentalpha)を被告として提訴した。ペントアルファは香港で侵害被疑品のフライ鍋を製造し、米国国内の顧客に対し、香港または中国本国の本船渡し(FOB)条件で出荷した。フライ鍋の開発において、ペントアルファはSEBのフライ鍋を香港で購入し、その「クールタッチ」の特徴をコピーした。

ペントアルファは、弁護士による侵害に関する鑑定を依頼した。その弁護士は、26の特許を分析し、それらの特許クレームのいずれもペントアルファのフライ鍋の特徴を述べていないと結論付けた。しかし、ペントアルファは、SEBのフライ鍋をコピーした事実を弁護士に伝えていなかった。

SEBは仮差し止めの判決を受け、CAFCはそれを支持した。そこでペントアルファはフライ鍋の設計を変更し、リングをスカートと鍋から6ブロックもしくはリングセグメント分だけ分離して設置した。続いて地方裁判所は、設計変更されたフライ鍋は312特許の少なくともクレーム1を均等論に基づき侵害している事実を、SEBが裁判において立証する可能性が高いと認定して、その設計変更したフライ鍋も差し止め対象に加える申し立てを認める判決を下した。

地方裁判所は、次に陪審裁判を行った。陪審員は、ペントアルファはオリジナル及び変更後のフライ鍋が312特許のクレーム1を故意に侵害したと認定した。さらに陪審員は、ペントアルファが他者に対し、両方の型のフライ鍋による312特許の侵害を誘導したと認定し、適切な特許権使用料として465万ドルの賠償額を裁定した。

地方裁判所は、被告のうちの1社との和解金を相殺し、賠償額を200万ドルに減額したが、その他のペントアルファによる裁判後の様々な争点の申し立てを却下した。

また、地裁は、SEBによる賠償額の増額の申し立てを当初認めたが、後にSeagate Technologies, Enhanced Damages Opinion, 2008 WL 4540416, at *4におけるCAFC判決を考慮して、この申し立てを却下した。両当事者はこれらの申し立てに対する判決について控訴した。そのいくつかについて以下、要約する。

ペントアルファは、均等論に基づく非侵害の法律問題としての判決の申し立てを地方裁判所が却下したことに対し、審査経過禁反言に基づき控訴した。CAFCは、ペントアルファが証拠開示手続終了時点でこの理由の法律問題としての判決を申請していなかったので、「明らかな不公正行為を防ぐ目的がない限り、その申し立ては認められない」と述べた。

CAFCはそのような不公正行為は明らかになっていないと結論付けた。ペントアルファの主張は、SEBがスカートの温度を調整する対流冷却機能に依拠したフライ鍋を否定していたことに基づいていた。たとえ審査経過禁反言が正しかったとしても、分別ある陪審員であれば、それでもペントアルファの改良したフライ鍋はこの目的の対流冷却機能に依拠していなかったと結論付けるであろう、とCAFCは述べた。

CAFCは、SEBの専門家であるヴァン・ホルン氏が「ある熱気の漏出」について証言していたが、これは、ペントアルファの改良されたフライ鍋が外殻の温度を調整する対流冷却に依拠していたと陪審員に認定させるものではない、と述べた。

したがって、改良されたフライ鍋の操作に関する実質的な質問、およびヴァン・ホルン氏の対流冷却に関する曖昧な証言から、CAFCは、陪審員の均等論に基づく侵害認定を支持する上で何ら明白な不公正行為は見つけられなかった。

ペントアルファはさらに、ヴァン・ホルン氏がフライ鍋の設計における専門家ではなかったことを理由に、侵害に関する証人から除外されるべきであると主張した。CAFCはこの主張を却下した。CAFCは、ヴァン・ホルン氏の知識と技術的経験に加え、USPTO上層部における豊富な経験についても要約して述べ、証拠提出の許容性ならびに「方法と指令」の判断を地方裁判所の解釈に従った。

ペントアルファはまたさらに、米国特許法第271条(a)項(直接侵害)および(b)項(侵害の誘導行為)に基づく地方裁判所の判決に対し控訴した。直接侵害に関し、ペントアルファは、米国外での商品の販売を米国内で申込むことは、第271条(a)項における「販売申込み」の規定に違反していないことを、地方裁判所は陪審員に説示すべきであったと主張した。

ペントアルファはさらに、販売が米国内で行われたかどうかを判断する上で、「その製品がどこから出荷されて、どこ向けに輸送されたか」に関し地方裁判所が誤って陪審員に説示を与えたと主張した。

CAFCは、第271条(a)項は、ペントアルファの香港における販売を必ずしも除外するものではないと述べた。CAFCは、ペントアルファによる販売が海外で行われたことを示す唯一の証拠は、製品が米国の顧客向けに香港または中国本土からFOB条件で出荷されたことであると述べた。

CAFCは、過去の判決Litecubes, LLC 対 N. Light Prods., 523 F.3D 1353 (Fed. Cir. 2008)において、単に製品がFOBで出荷されたという考えを拒絶し、第271条が意図する「販売」の場所は製品が出荷された場所でなければならないと述べていた。

記録によると、ペントアルファは米国顧客向けの米国商標をフライ鍋に添付し、北米の電気器具としてフライ鍋を製造し、ペントアルファと米国の顧客との間のインボイスは、全て米国向け出荷を示していた、とCAFCは述べた。

最後にCAFCは、「ペントアルファは陪審員向け説明に対する反対意見の証拠を記録上指摘しなかった」と述べた。こうして、判決の取り消しは、「基本的な誤り」があってそれを地方裁判所が見つけられなかった場合のみ、適用可能な州法に基づき可能である。

侵害の誘導行為に関して、CAFCは、DSU Med. Corp. 対 JMS Co., 471 F.3d 1293, 1304 (Fed. Cir. 2006)(全員判決)の判決に基づき、原告は被疑侵害者が特許を知っていたことを示さなければならないと述べたが、「特許に対する認識」要件の境界については述べなかった。

CAFCは、民事訴訟における「明確な意思」とは、「被疑者がその違法行為の要素の存在について認識するリスクを積極的に無視することを許容するほど狭義ではない」、と別の裁判所が判示していたことを指摘した。

さらに、認識されるリスクの意図的無関心の基準は、実際の知識とは異なるが、実際の知識の一形態である、と述べた。こうして、「特許権者が、侵害被疑者が争点の特許を実際に知っていたという直接的な証拠を示さなかったとしても、侵害の誘導行為の主張は可能である」とした。

次にCAFCは、ペントアルファが侵害品を米国の顧客に対し販売していた時期に特許を実際に知っていたことを示す直接的証拠が、裁判記録になかったとしても、間接的証拠が陪審評決を裏付けていると結論付けた。

ペントアルファがSEBのフライ鍋を香港で購入して「外装以外は全てコピーし」、侵害調査を弁護士に依頼したが、弁護士に自社の製品がSEBの製品に基づいていることを伝えなかった」という証拠を、陪審員は聴取したと、CAFCは述べた。

CAFCは、「コピー行為を弁護士に知らせなかったことは、多くの状況において故意に無視したことを強く示唆する」ものであり、この事件では、裁判記録が、ペントアルファが特許に精通している重要な証拠を示していることから、その示唆は実に強力であり、ペントアルファはその明らかな無関心に関する十分な弁明の証拠を提示しなかった、と理由を述べた。

この判決は、誘導行為に必要な知識の種類の限界を示すものではない、と注意喚起しながらも、この事件では、「SEBがフライ鍋を保護する特許を所有している危険性を故意に無視したという結論を、記録は十分に立証している」と結論付けた。

またペントアルファは、SEBの製品のいくつかはSEBの特許番号を適切に明示しておらず、SEBが特許表示に関する書類の提出を拒否したことを理由に、賠償額は減額されるべきであると主張し、賠償額の裁定に対しても控訴した。

CAFCは、ペントアルファが、地方裁判所からの証拠開示手続きを時宜に請求しなかったこと、および、裁判においてSEBが特許表示の慣例に関する供述書を提出したときに、それらの書類を時宜に要求しなかったことにより、ペントアルファは「明らかにその争点に対する権利を喪失した」と結論付け、その主張を却下した。

最後に、CAFCは、ペントアルファによる新たな裁判の申し立てを地方裁判所が却下したことに対する控訴を却下した。

ペントアルファは、SEBは合理的な特許権使用料を受け取る権利があるにすぎないにもかかわらず、SEBの弁護士はSEBの利益に関する主張を不当に最終弁論で行ったと主張した。

CAFCは、合理的な特許権使用料を決定するために検討される仮定の交渉と密接に関係した「成功する期待」に基づく主張を、陪審員が弁護士から聴取することを排除する理由はないと述べた。

CAFCはさらに、「ペントアルファには、SEBが供述した粗利益が単なる予想であり、その額の商業的成功は収められず、仮定の交渉はもっと低い額になったはずであることを陪審員に対し強調することによって応答する機会があった」と述べた。

故意侵害の争点に関するSEBの反訴に関し、CAFCは、Seagate事件の判決において、「故意侵害の立証のためには、特許権者は、侵害者が自身の行為が有効な特許の侵害行為に該当するという、客観的に高い可能性があるにも関わらずその行為を行った、という明確な説得力ある証拠を提示しなければならない」と判示していた。

しかしながらCAFCは、「重要なことに、SEBはこの裁判所に故意侵害に関する新たな裁判の申し立てをしなかった。申し立てていたならば、本法廷は、Seagate事件の分析に基づき地方裁判所が下したであろう故意侵害に関する陪審評決を踏まえて申し立てを認めていたであろう」と述べた。

SEBは、故意侵害の証拠は非常に強力であり、地方裁判所は増額された賠償額や弁護士費用の裁定を誤って破棄した、と代わりに主張したが、CAFCは、「証拠はSEBが法律問題としての故意侵害の認定を裁判で受ける権利があるほど強力ではない」と認定してその主張を退けた。

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