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月刊The Lawyers 2010年4月号(第126回)

2. i4i Ltd. Partnership 対 Microsoft Corp.事件

No. 2009-1504 (December 22, 2009)

- 自明性に関する評決前申立ての提出の重要性に焦点を当てた事件 -

控訴審において、Microsoft Corporation(以下、「マイクロソフト」)は、地方裁判所のクレーム解釈、侵害及び有効性に関する陪審の事実認定、陪審による2億4000万ドルの損害賠償額の裁定、並びに地方裁判所による差止命令に対して異議を申し立てた。

i4i Limited Partnership(以下、「i4i」)は、他の企業のためにソフトウェアをカスタマイズするソフトウェア・コンサルティング企業である。i4iは、マークアップ言語を含む文書を編集するための改良された方法の発明をクレームした米国特許第5,787,449号(以下、449特許)を取得した。

マークアップ言語は、テキストのコンテンツに関する情報またはテキストを、どのように表示すべきかに関する情報を提供するタグ(メタコードという)を用いる。

449特許で請求された発明は、メタコードを記憶するデータ構造(メタコード・マップという)と、文書のコンテンツ(マップ・コンテンツという)を記憶するデータ構造とを含む。i4iのソフトウェア製品の一つは、マークアップ言語XMLを含む文書を編集するようにマイクロソフト・ワード(Microsoft Word)の機能を拡張する、ワードへの「アドオン」ソフトウェアである。マイクロソフト・ワードの特定のバージョンは、XML編集機能を有する。

i4iは、2007年に、カスタムXMLを処理する能力を有する任意のマイクロソフト・ワードに関する、マイクロソフトによる製造、使用、譲渡の提供、販売及び輸入が449特許を侵害したと主張する訴状を提出した。

地方裁判所は、侵害、故意及び有効性の点で法律問題としての判決を求めるマイクロソフトによる申立てを却下した。陪審は、449特許は有効であり、マイクロソフト・ワードは449特許を侵害しており、マイクロソフトの侵害は故意であると認定し、2億4000万ドルの賠償額を裁定した。

控訴審において、CAFCは、マイクロソフトが異議を唱えた「個別の(distinct)」という文言に関する地方裁判所のクレーム解釈をまず審理した。

マイクロソフトは第1に、「個別のマップ記憶手段」または「個別の記憶手段」における「個別の」という文言は、メタデータ・マップとマップ・コンテンツとを、別々のファイルに記憶することを要求しており、第2に、この文言が、メタコード・マップとマップ・コンテンツとを独立して操作することを要求すると主張した。

マイクロソフトの第1の主張に関して、クレームは、「ファイル」という文言を用いておらず、かつ、明細書はファイルを用いた記憶が発生しない実施形態を記載しているために、「個別の」という文言は、分離したファイルで記憶することを要求しない、とCAFCは判断した。

マイクロソフトの第2の主張について、クレームは独立して操作することを言及しておらず、かつ、独立した操作を欠くシステムを、明細書が排斥しているようには見えないとCAFCは述べた。従ってCAFCは、独立して操作することが発明に有利であるように見えたとしても、それはクレーム要件ではないと結論づけた。

自明性及び新規性に関するマイクロソフトによる有効性の異議申立てに関して、CAFCは、マイクロソフトが自明性に関して法律問題としての判決を求める評決前申立てを提出しなかったため、自明性に関する事実認定の再検討を求める自己の権利をマイクロソフトが放棄したと認定した。

そして、CAFCは、マイクロソフトによる控訴における自明性の主張すべてが、マイクロソフトに不利な解決されるべき事実上の問題を伴うと述べて、自明性に関する陪審評決を支持した。

新規性に関して、S4と呼ばれる先行するソフトウェア・プログラムの販売は、米国特許法第102条(b)に基づく販売による不特許事由により、449特許は無効になるとマイクロソフトは主張した。

マイクロソフトは特に、マイクロソフトが提示したS4ソフトウェア・プログラム単体の発明者の証言による新規性の一応の証拠を、i4iは反証できなかったと強く主張した。

しかし、S4ソフトウェア・プログラムの発明者は、そのプログラムがクレームの方法のすべてのステップを実行するわけではない、という証言を行ったため、CAFCはマイクロソフトの主張を却下した。

CAFCはまた、特許の有効性への攻撃に対抗する、発明者の証言による実証は必要ないと説明し、さらに、分別ある陪審員が、明確かつ説得力のある証拠によって、S4ソフトウェア・プログラムの販売によって449特許の新規性が失われないという結論を下すに十分な証拠が記録内に存在すると判断した。

CAFCは、陪審員は提示された証拠に基づいて合理的に侵害認定したとして、侵害の一般評決を維持した。侵害の検討において、CAFCは、XMLファイル形式でカスタムXMLを含む文書を開き、編集し、保存するユーザは、クレームされた方法のステップを実行するということをi4iの専門家が証言したと認定した。マイクロソフトは、ワードがこのように使用されることに同意した。

損害賠償額の裁定の検討において、CAFCは、損害賠償額に関する法律問題としての判決を求める評決前申立てを、マイクロソフトが提出しなかったと説明した。結果として、新たな審理申立ての否認に適用される「明確に示す過剰性(clear showing excessiveness)」基準のもとで評決を見直すことは制限されると判断した。

CAFCは、損害賠償に関する法律問題としての判決を求める評決前申立てを提出していたとすれば、損害賠償裁定額の合理性をCAFCが分析できたため、「結果は異なっていたかもしれない」と述べた。

しかしながら、より慎重な基準を適用することによって、裁定された賠償額が証拠により支持される最高額を超えなかったため、CAFCは、マイクロソフトには損害賠償額に関する裁判を受ける権利がないと判断した。

eBay Inc. 対 MercExchange, L.L.C.(547 U.S. 388 (2006))事件に記載された要因の適応において地方裁判所が裁量権を乱用したかどうかを分析することによって、CAFCは差止命令の付与及び範囲について審理した。

差止命令は、マイクロソフトが差止命令の発効日以降にWord製品の販売及び輸入を行うことを基本的に禁止したが、差止命令の効力発効日前に販売またはライセンス付与されたWord製品の侵害について適用しなかった。

eBay要因の審理において、CAFCは、侵害に寄与し得るi4iへの過去の損害に基づいた地方裁判所による回復不能の被害の認定に同意した。

第2要件に関して、i4iが被った市場シェアの損失は金銭的な損害の推定を困難にするため、法律において不適切な救済であるという認定をCAFCは支持した。

第3要因、すなわち履行困難の均衡は、i4iの業務は特許発明に関連する製品に集中しているものの、特許発明はMicrosoft Wordの多くの機能のうちのただ一つに過ぎないため、i4iに有利に働いた。公共の利益に関する要因について、CAFCは公共の混乱を最小化する差止めの見込まれる範囲を判断したのである。

従って、CAFCは地方裁判所により出された差止命令の付与及び範囲を支持した。しかしながら、差止命令に応じるのに5ヶ月要するとマイクロソフトが強く主張したため、CAFCは差止命令の効力発生日を60日後から5ヶ月後へ修正した。

i4i事件におけるCAFCの判示は、控訴審において生まれる個別の争点に関して法律問題としての判決を求める評決前申立ての提出損ねの可能性を、侵害被疑者に喚起している点で重要である。

各個別の争点に関して、法律問題としての判決を求める評決前申立てを提出していない限り、CAFCは審理においてより慎重な見直しを行うだけであり、これは多くの場合に陪審評決を支持する結果となるだろう。

この判決はまた、地方裁判所の侵害事件において侵害被疑者に対する差止命令を勝ち取る特許権者の最近の例を提供する。

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