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月刊The Lawyers 2010年1月号(第123回)

3. 318特許侵害訴訟

Nos. 2008-1594, 2009-1070 (September 25, 2009)

- 薬品を使用した病気の治療方法の出願に関し
明細書の実施可能要件を取り扱った事件 -

原告である Janssen Pharmaceutica N.V., Janssen L.P. 及び Synaptech, Inc.(まとめて「ジャンセン」)は、Teva Pharmaceuticals USA, Inc.,Teva Pharmaceutical Industries, Ltd., Mylan Pharmaceuticals, Inc., Mylan Laboratories, Inc., Dr. Reddy's Laboratories, Inc., Dr. Reddy's Laboratories, Ltd., Barr Laboratories, Inc., Barr Pharmaceuticals, Inc., Purepac Pharmaceutical Co., Actavis Group 及び Alphapharm Pty Ltd. (まとめて「被告」)を含む幾つかのジェネリック製薬会社に対して、被告が第4章証明を提出したことに基づいて、ハッチ・ワックスマン法の下で米国特許第4,663,318号(以下318特許)を侵害したとして訴訟を提起した。

318特許は、ガランタミン(galantamine)を用いてアルツハイマー病を治療する方法に関する。

318特許の出願時に、ガランタミンはアセチルコリンを破壊する酵素であるアセチルコリン・エステラーゼを抑制するものとして知られていた。

当時の研究者達は、アルツハイマー病の兆候と、脳内で神経伝達物質であるアセチルコリンのレベル低下との相関関係に注目していた。研究者達はまた、アルツハイマー病の治療法を開発する際に、主として中枢神経系の重要性に焦点を合わせていた。

318特許の明細書は、長さが1頁を少々超えているだけの短いものであった。この明細書は、ヒトまたは動物にガランタミンを投与する試験の結果を記述した6つの科学論文の要約を提供している。この試験の意義に関する説明は存在しなかった。

この明細書はまた、アセチルコリンの欠乏を正常化可能な薬品がアルツハイマー病の治療に関する合理的な期待を有するであろうと結論付けるひとつの先行技術文献を引用していた。

しかしながら、この明細書は、これら6つの研究の何らかの結果をガランタミンがヒトのアルツハイマー病を治療する可能性に結び付ける分析や見解を、何ら提供していなかった。

審査段階で、PTOは318特許の請求項を自明性により拒絶した。特に、審査官は、明細書中で引用された動物の研究を考慮して自明性により請求項を拒絶した。

出願人は、引用された研究における動物の脳は(アルツハイマー病を持つ脳とは違って)正常であり、これらの研究はアルツハイマー病とは無関係な環境で行われており、これらの研究はガランタミンがアルツハイマー病の治療に有用であろうということを予言不可能である、と説明することにより拒絶理由に対して応答した。

発明者はまた、ガランタミンを用いた治療がアルツハイマー病を患っている人々の状態を改善する結果につながることを示すものと期待される実験が進行中であると述べた。しかしながら、これらの実験結果は、318特許の発行後まで入手可能にならず、PTOに提出されることはなかった。

318特許の発行後、発明者はジャンセンに特許をライセンスした。数年後、ジャンセンは、軽度から中程度のアルツハイマー病の治療にガランタミンを使用する承認をFDA(Food and Drug Administration)から得た。

2005年2月、被告は幾つかの簡略新薬承認申請(ANDA)を提出し、ジャンセンはハッチ・ワックスマン法の下での特許侵害について被告に対して訴訟を提起した。被告は、318特許が新規性欠如、自明性、及び実施可能要件欠如により無効であるとする略式判決を求めて反訴した。

訴訟は併合され、被告は318特許の請求項1及び4の侵害を認めた。318特許の有効性に関する裁判官裁判が行われた。地方裁判所は、318特許は新規性欠如でもないし自明でもないと考えたものの、明細書が有用性の立証に失敗しており、明細書及び請求項がガランタミンについて十分な投薬量の情報を与えていないことを理由に、318特許は実施可能要件欠如により無効であると考えた。ジャンセンはCAFCに控訴した。

CAFCは最初に、ジャンセンが有用性の立証に失敗したとする被告の主張を扱った。CAFCは、新しい治療方法をクレームする特許出願は一般的に実験結果によってサポートされると考えた。

CAFCは更に、特許可能とするためには、実験は発明者によって行われる必要はなく、ヒトでの実験を必要とする訳でもないと考えた。

CAFCは、318特許の有効性をサポートするために提示された実験結果を検討し、アルツハイマーのような状態を治療するためのガランタミンの使用を含む実験結果が(動物であれ生体外であれ)特許発行前に存在しなかったという事実に注目した。

結論に到達するために、CAFCは、318特許の出願明細書において要約された先行技術の動物実験が有用性を立証するということをジャンセンが主張しなかったという事実に依拠した。

実際に、発明者及びその他のジャンセンの証人は、被告による自明性の抗弁に応答する間に、本発明の有用性はこの先行技術の実験によっては示唆され得ないと述べた。

CAFCはまた、318特許の発行前にDr. Davisが申し出た実験を退け、地方裁判所は出願時に入手可能ではなかった実験結果を考慮することを適切に拒絶したと述べた。

控訴審においてジャンセンは、状況によっては提案された治療を実験しなくても有用性は立証可能であり、むしろ分析に基づく論理的思考によって立証される場合もあると主張した。

この主張の裏付けとしてジャンセンは米国特許商標庁の特許審査基準を示した。更に、先行技術の実験に関する説明が、神経系におけるガランタミンの効果を立証する証拠を説明しており、これらの効果をアルツハイマーの治療モデルに結び付けることによってこれらの効果が治療上妥当であるということを明らかにしているということを理由に、318特許の明細書は分析に基づく論理的思考によって有用性を立証していると主張した。

しかしながら、CAFCはジャンセンの主張を退け、そのような見解は明細書のどこにも記載されていないと述べ、ガランタミンの有用性の示唆を明示的な記載の代替とすることができたとしても、当業者が明細書からそのような示唆を得られるであろうとする証拠は存在しないと考えた。

CAFCはまた、ジャンセンの専門家による宣誓供述書を退けた。CAFCは、アルツハイマーの治療におけるガランタミンの使用が、確実な有用性を保証するのに必須のこととしてではなく、単なる提案としてしか記載されてないのを理由に、この宣誓供述書は説得力がないと考えた。

CAFCはまた、特許出願当時、発明者及び他の多数の者は、ガランタミンが機能するという確信がなかったことを認めた発明者の宣誓供述書を強調した。

従って、CAFCは、明細書が仮説とその仮説の確度を判定する実験案を述べていると判断した。CAFCは、そのようなサポートは有用性の立証に不十分であると考え、それゆえ、318特許を無効であるとした地方裁判所の判決を支持した。

318特許訴訟におけるCAFC判決は、薬品用法特許において、その特許が有用性要件を満足するために含むべき情報の種類を教示している。

CAFCは更に、発明の有効性の判断材料として実験結果を考慮するには、その実験結果が特許発行前に入手可能でなければならないことを確認した。これらの判示は、特許権者ならびに特許無効を主張する者両者に関係するものである。

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