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月刊The Lawyers 2009年10月号(第120回)

2. Ecolab Inc. 対 FMC Corp.事件

No. 2008-1228 (June 9, 2009)

- 審査経過における化学物質の言及の仕方に関連して
権利放棄に該当するか否かの基準を扱った事件 -

この事件では、地方裁判所は以下の陪審評決に基づいて終局判決を下した。

(1)エコラボ(Ecolab, Inc.)は、FMC(FMC Corporation)の有する米国特許番号第5,632,676号(以下、676特許)の特定のクレームを侵害した。

(2)FMCは、エコラボの有する二つの特許、米国特許番号第6,010,729号(以下、729特許)及び同第6,113,963号(以下、963特許)の特定のクレームを故意に侵害した。

(3)エコラボが行使した各特許の特定のクレームは新規性なしまたは自明性を理由に無効である。

エコラボとFMCの双方は、差止命令の申し立てを含む数多くのトライアル後の申し立てを提出した。地方裁判所はトライアル後の申し立てをすべて略式で説明なしに却下した。エコラボとFMCの双方がCAFCに控訴した。

CAFCは、(i)729特許の請求項7は無効であるという法律問題としての判決(「JMOL」)を求めるFMCの申し立てを却下したこと、(ii)差止命令を求める申し立てを評価する際に適切な分析を実施しなかったこと、に基づき地方裁判所に誤りがあると認定した。

エコラボとFMCの双方は、病原菌を減少させる化学薬品を牛肉及び鶏肉の加工業者に販売している。エコラボは鶏肉用のInspexx100と牛肉用のInspexx200とを製造している。FMCはFMC-233を販売している。エコラボとFMCの双方が、牛肉処理及び鶏肉処理の両方において過酢酸(PAA)を化学消毒剤として確立した特許を取得した。

エコラボは自身の729特許、963特許及び286特許を侵害するとしてFMCを訴えた。エコラボの有する各特許は、牛肉の表面に直接的に適用されるPAAのみまたは他の過酸を伴うPAAを対象としていた。

FMCは、1977年に発行され鶏肉の消毒方法をクレームとする自身の676特許を、エコラボが侵害しているとして反訴した。

FMCは、自身の676特許の審査経過において、他の同様の意見とともに、「過酢酸は消毒溶剤内の唯一の抗菌剤である(注1)」と記載した。しかしながら、地方裁判所は審査経過における権利放棄を適用することを拒否した。

CAFCは、特許開示内容と審査経過との全体的な文脈において読み取る限り、FMCの記載が権利放棄に当たるとの解釈を合理的に行うことはできないことに同意し、そのように認定した。

審査経過を合理的に読み解けば、これらの記載が誇張または誤りであり、FMCが「この誤りを認識して二度と繰り返さず、または誤った論拠を利用することはない(注2)」と結論付けることが可能であると裁判所は認定した。

エコラボは、676特許における全ての例でPAAは単独の抗菌剤として用いられているため、FMCの676特許クレームの範囲はPAAを唯一の抗菌剤として含む構成に制限されると反論した。

CAFCは、676特許のクレームはPAAで「実質的に構成される」生成物の使用を包含すること、及び審査過程と明細書内に開示された例とのいずれを通じても「実質的に構成される」という用語の一般的な意味をFMCの開示内容は変更してないということを認めた。

従って、他の抗菌剤を併用してPAAを含む生成物をクレームが包含するという地方裁判所の判定は適切であったとCAFCは認定した。

FMCの有する676特許のクレームは「鶏肉の消毒方法」に焦点を当てていた。676特許では、「消毒する」という用語が「人間による取り扱い及び消費に対して安全なレベル(注3)」に細菌を減少すると記載されていた。従って、エコラボは、Inspexxを使用しても生の鶏肉の人間による消費に対して安全にすることはできず、安全のためには調理が必要となるため、この生成物は侵害を構成しないと反論した。

この定義は地方裁判所の解釈において採用された。地方裁判所が、「調理」要素を「消毒する」という用語に組み込むことによって、676特許で説明された「消毒する」の明確な定義を破棄したとエコラボは反論した。

CAFCは、PAAで処理された鶏肉が生のままでの消費において安全であることをクレームが要求していないと認めた。

構内検査官はPAAで後処理された鶏肉が「人間による消費に適する」かどうかを判定するだろうし、このような判定は鶏肉が未調理の状態において「人間による消費に適する」ことを要求しないだろうということをエコラボ自身の専門家が認めた後に、CAFCはこの結論に到達した。

FMCは、エコラボの有する729特許の請求項7が新規性なしまたは自明性を理由に無効であり、963特許の請求項25-28が自明性により無効であると反論した。

CAFCは、729特許のクレーム7の無効性という点についてJMOLを許諾するかどうかを判定するためにすべての証拠を審理した。

裁判所は、先行技術により各クレーム要素が新規性を有しないことを詳述する広範な鑑定書を検討した。裁判所はまた、先行技術のLabadie文献を検討し、Labadieに開示された処理を用いてクレーム7を実施するのに過度の実験は必要ないと認めた。裁判所は、他の合理的な可能性があるという理由だけで陪審評決に対してこの判決が代替することはないとしても、陪審の認定は実質的な証拠に裏付けられていないと結論を下した。

従って、唯一の合理的な結論は、Labadie文献により729特許のクレーム7には新規性がないと裁判所は認定した。

そして、CAFCは、FMCによる自明性の反論に対処し、KSR Int'l Co. 対 Teleflex Inc.事件、127 S. Ct. 1727, 1731 (2007) を事実に適用した。

裁判所は、先行技術であるBender文献に発見された、食肉を消毒するために肉に抗菌溶液を高圧力で噴射する方法を検討し、BenderをPAA消毒についての676特許の開示と組み合わせることは当業者にとって容易であり、この組み合わせは予期可能な結果を生み出すに過ぎないと認めた。従って、裁判所は963特許のクレーム25-28は自明性により無効であると判断した。

最後に、下級裁判所の裁量権の濫用として、CAFCは終局的差止に関する地方裁判所の命令を無効にした。

地方裁判所は、申し立てを棄却する理由を記載せずに、差止救済を求めるFMCによる申し立てを決定していた。結果として、CAFCは、地方裁判所が差止救済を認める際にeBay要因を全く用いておらず、これらの要因に関する事実認定を行っていないと認めた。

CAFCは最初の事例においてeBayの公正な要因を分析することを拒否し、地方裁判所は衡平法第一審裁判所としての独占的な役割を有すると記載した。従って、裁判所はこの事件を地方裁判所に差し戻した。

この事件は、審査経過において「唯一の」成分として物質を参照しただけでは、審査経過における権利放棄にはならない場合があるという理由で重要である。これは特に、組成物が当該成分により「実質的に構成される」ことをクレームの文言が要求する場合に当てはまる。

この事件はまた、差止め救済を認めるかどうかを判定する際に、地方裁判所がeBay要因に対処することを全く怠った場合には、裁量権の濫用となることを示したという理由で注目に値する。


(注1) Ecolab, Inc. 対 FMC Corporation事件、No. 2008-1228, Slip Op. at 7 (Fed. Cir. June 9, 2009)(引例省略)

(注2) 同判決8ページ

(注3) 同判決9ページ

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