月刊The Lawyers 2009年10月号(第120回)
1. Agilent Technologies, Inc. 対
Affymetrix, Inc.事件
No. 2008-1466 (June 4, 2009)
- 抵触審査において明細書の記載要件に疑義がある場合に
クレーム解釈の基礎とすべき明細書をどのように特定するかを扱った事件 -
アジレント(Agilent)は米国特許第6,513,968号(以下、シェンブリ特許)を取得したが、アフィメトリックス (Affymetrix)は自身が先にその発明の主題を発想したと考えていた。
そこで、2003年2月にアフィメトリックスはシェンブリ特許のクレームを自身の米国特許出願第10/619,244号(以下、ベセマー出願)へコピーし、どちらが優先するのかを決定するための抵触審査を提起した。
裁判において、地方裁判所は、ベセマー出願は米国特許法第112条第1項に定める記載要件を満たしているとして、アフィメトリックスの略式判決の申請を認め、アフィメトリックスが優先することを認めた。
CAFCは、地方裁判所のクレーム解釈は、シェンブリ特許ではなくベセマー出願を誤って参照したとして、地方裁判所の判決を破棄し、略式判決においてベセマー出願は記載要件を満たしていないとして、地方裁判所の判示をも破棄した。
係争対象のクレームは、小さな流体サンプルの上で多様な遺伝子分析を行うことを可能にする「マイクロアレイ交配」技術に関するものである。
そのサンプルは、マイクロアレイと完全に接触するよう混合される。その混合方法は、チャンバーへ向かう小さな気泡によって混合される液体を含む密閉チャンバーを利用してなる。シェンブリ特許の請求項20は、この混合方法をクレームしている。
抵触審査において、シェンブリ特許の請求項20はベセマー出願へコピーされた。控訴審における基本争点は、アフィメトリックスがベセマー出願の中で記載要件を満たしているか否かであった。
CAFCはまず、シェンブリ特許とベセマー出願の二つのうちのどちらの明細書が、抵触審査における係争対象のクレームを適切に説明しているか審理した。二つの相違する判決、In re Spina, 975 F. 2d 854 (Fed. Cir. 1992) 及び Rowe 対 Dror, 112 F. 3d 473 (Fed. Cir. 1997)は、以前にこの問題を扱っている。
Spina事件の裁判では、記載要件に疑義がある場合には、コピーされたクレームはコピー元の特許に照らして検討されるべきであるとした。Rowe事件の裁判所は、当事者どちらか一方のクレームが先行技術に照らして特許性があるかどうかが争点である場合に、裁判所は、クレームが登場する方の明細書を踏まえてクレームを解釈しなければならないと判示した。
換言すれば、第102条(新規性)または第103条(非自明性)に疑義があるならば、クレームは元の特許または特許出願の明細書を踏まえて解釈される。ここでの裁判の争点は、ベセマー出願が記載要件を満たしていたかどうかであったために、CAFCはSpina判例を適用した。
CAFCは、従って、地方裁判所の判断は誤りであり、クレーム解釈のための適切な参照先は、元々のシェンブリ特許の明細書であると判示した。
シェンブリ特許の開示を踏まえたベセマー出願のクレームの適切な解釈に基づき、CAFCはベセマー出願が記載要件を満たしているかどうかの問題を審理した。記載原則は、特に継続出願提出時のクレーム補正における新規事項を排除する。
アジレントは、ベセマー出願が、密閉チャンバーへと流体を導き、そして流体を混合させるために気泡を用いる方法の実施例を含んでいないと主張した。
アフィメトリックスは、ベセマー出願が渦状の密閉チャンバーが実施例において、気泡についての明確な記載を含んでいないことを認めた。そこで、アフィメトリックスは、渦状チャンバーが本質的に気泡を発生させ、気泡により発生した空隙が混合を促進させるであろうことは、当業者も知っていたであろうと主張した。
CAFCは、参照される記載が、問題となっている特性を間違いなく示唆していることを当業者なら認識できるのであれば、それは本質的な内在する性質であると述べた。In re Oelrich, 666 F.2d 578, 581 (CCPA 1981)。
渦状チャンバーは、気泡の発生に役立つ空隙を含むかもしれないとのアフィメトリックスの主張は、内在的性質を立証するには不十分であった。アフィメトリックスは、他にその主張に関する十分な証拠開示をしなかった。
従ってCAFCは、重要事実の争点は存在せず、ベセマー出願は記載要件を満たしていないと判示した。こうして、CAFCは地方裁判所の判決を破棄し、アジレントの略式判決に対する反訴を認めた。
この事件は、抵触審査において明細書の記載要件に疑義があるクレーム解釈において、どの明細書が参照されるべきかを明確にした点で重要である。
CAFCは、コピーされたクレームは、それがコピーされた元の特許または特許出願の明細書に照らして審理されるべきであると判示した。
CAFCはまた、明細書が本質的にクレームをサポートするためには、開示物が必然的にクレームした発明の主題に帰結しなければならないことを確認した。