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月刊The Lawyers 2009年7月号(第118回)

3. Abbott Laboratories 対 Sandoz, Inc.事件

No. 2007-1400 (May 18, 2009)

- プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて特許権侵害が認められる要件 -

アボット(Abbott Laboratories)対サンドズ(Sandoz, Inc.)事件では、CAFCの控訴審判部は、地方裁判所のクレーム解釈と非侵害の略式判決を維持した。

さらに、「プロダクト・バイ・プロセス」クレームの解釈につき、大法廷において、三名の裁判官の反対意見があるほか裁判官全員一致で判示された。

アボットは耳感染症の治療薬であるセフジニルの形態に関する、米国特許第4,935,507号の特許権者である。事件に関係するクレームは例えば、以下のとおりである:

「請求項5.7-[2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-ヒドロキシイミノアセタミド]-3-ビニル1-3-セフェム-4-カルボン酸(シン異性体)をアルコールに溶解し、加温下において当該溶液を緩やかに攪拌することを継続し、当該溶液を室温まで冷却してスタンドさせることにより得られる、結晶性7-[2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-ヒドロキシイミノアセタミド]-3-ビニル1-3-セフェム-4-カルボン酸(シン異性体)。」

地方裁判所は、Atlantic Thermoplastics Co. 対 Faytex Corp.事件(「アトランティック・サーモプラスチック事件」)判決(注1)を引用して、問題のクレームは「プロダクト・バイ・プロセス」クレームであり、サンドズのプロダクト(物)は、クレームで規定される方法とは異なる方法で製造されているから、特許権を侵害しないと判示した。アボットは控訴して、逆の判決であるScripps Clinic & Research Foundation 対 Genentech, Inc.事件(「スクリプス・クリニック事件」(注2))の反対の判決によれば、問題のクレームは他の方法で製造されたセフジニルをその特許の技術的範囲に含むと主張した。

CAFCは、本事件によって、アトランティック・サーモプラスチック事件判決とスクリプス・クリニック事件判決との間の長年にわたる矛盾を解決することにした。

ミッチェル判事、ブライソン判事、ガヤルサ判事、リン判事、ダイク判事、プロスト判事、及びムーア判事が同調するレイダー判事の意見(ニューマン判事、メイヤー判事、及びローリー判事の反対意見が付されている(注3))により、CAFCは、スクリプス・クリニック事件とアトランティック・サーモプラスチック事件とにおける別々の合議体の間の見解の相違の歴史を検討した。

やや特殊だが、この争点は大法廷において、自発的に、即ち裁判所の独自の判断で取り上げられたが、これは、問題のクレームは、地方裁判所によって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームであると誤って解釈されたというアボットの主張に基づいている。

控訴審では、大法廷の合議体は、アトランティック・サーモプラスチック事件のテストを採用した。CAFCは、まず、過去の最高裁判例(注4)について「広範なサポート(extensive support)」を検討した。

これらの事件において最高裁判所は一貫して、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム中のプロダクトを規定するために用いられるプロセス(製造方法)の文言はクレームを解釈する上で「法的効力のある限定」を構成する旨判示してきたと、CAFCは判示した。

CAFCによれば、このような見解は、CAFCの前身の裁判所である関税特許控訴裁判所(Court of Customs and Patent Appeals)が出した多数の判決や、CAFCが創設される前に地方の控訴裁判所が出した見解によっても支持されているという。

CAFCは、これらの裁判例のいくつかは、提訴されたプロダクトが実際に、クレームされたプロダクトであるか否かの問題を取り扱っていると言及した。

このようにして、CAFCは、「被告の物品を製造するために[特許クレームの]プロセスが用いられたこと、または、当該物品は他のプロセスによって製造することができないことが立証されない限り、被告の物品は、[特許クレームの]プロセスに係るものであると認定することはできない(注5)」と判示した、コックラン事件の最高裁判決に依拠している。

CAFCはさらに、「特許クレームに含まれる各エレメントは特許発明の技術的範囲を定める要素である」と判示したワーナー・ジェンキンソン事件(注6)も引用した。

したがって、CAFCは、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈に関するとして、スクリプス・クリニック事件の判断を否定した。

判決の理由において、CAFC合議体の多数意見は、クレームされたプロダクトがそれを生産可能なプロセスの参照によってのみ規定できる「例外的事例」において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームのプロセスに限定すべきではないとする主張は、「不必要かつ論理的に不合理」であろうと説明した。

合議体の多数意見は、米国特許法第112条第6パラグラフを引用して、このような主張は、発明者がその発明として主張した事項の範囲を超えて、特許発明の保護範囲を拡張することになるだろうと判示した。

反対意見において、ニューマン判事(ローリー判事及びメイヤー判事も同意)は、合議体の多数意見の見解は、「裁判例と実務の長い蓄積を覆すものである」と特徴付けた。

ニューマン判事は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実務及び裁判例の歴史を検討し、多数意見で言及された事件の独自の分析も行った。反対意見のローリー判事も、最高裁判決例と他の裁判所の裁判例に関する独自の見解を述べた。

ローリー判事はまた、最高裁判所の最近の判決例はCAFCの「明確な基準」のテストに大きく反しており、「明確な基準は役に立つが、審理にあたっては異なる状況も考慮すべきである」とも述べた。

アボット事件判決は、約20年続いたCAFCの裁判例における矛盾を解決するものであり、非常に重要である。

現在では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、クレームに記載されたプロセス工程によって生産されるプロダクトを技術的範囲に含むと解釈しなければならない。

専門家はすでに、アボット事件判決を製薬、化学、及びバイオ技術の各分野において大きなインパクトを持つだろうと認識している。このような専門家の何人かは、現在では、却下されたスクリプス・クリニック事件の基準下における場合よりも、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの価値は低下しているという見解を示している。

他の専門家は、アボット事件判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに列挙された工程と実質的に均等な方法によりプロダクトを製造しているかもしれない状況においては、特許権者が均等論に基づいて訴訟を提起することを全く妨げないと述べている。


(注1) 974 F.2d 1299 (Fed. Cir. 1992).

(注2) 927 F.2d 1565 (Fed. Cir. 1991).

(注3) Schall裁判官は大法廷の意見に参加しなかった。

(注4) The Court Smith 対 Goodyear Dental Vulcanite Co.事件、93 U.S. 486, 493 (1877)(「したがって、詳細なプロセスは、プロダクトを構成する材料と同様に、本発明の一部として実施される。」); Goodyear Dental Vulcanite Co. 対 Davis事件、102 U.S. 222, 224 (1880)(「特許権侵害を構成するためには、…義歯床の材料と…義歯床を生産するプロセスとの両方が採用されなければならない。」); Merrill 対 Yeomans事件、94 U.S. 568 (1877); Cochrane 対 Badische Anilin & Soda Fabrik事件、111 U.S. 293 (1884) (「コックラン事件」); The Wood-Paper Patent事件、90 U.S. 566, 596 (1874); Plummer 対 Sargent事件、120 U.S. 442 (1887); Gen. Elec. Co. 対 Wabash Appliance Corp.事件、304 U.S. 364 (1938).

(注5) コックラン事件、296.

(注6) Warner-Jenkinson Co. 対 Hilton Davis Chemical Co.事件、520 U.S. 17 (1997).

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