月刊The Lawyers 2009年6月号(第117回)
3. In re Marek Z. Kubin and
Raymond G. Goodwin
No. 2008-1184 (April 3, 2009)
- 「自明の試み(Obvious to try)」の適用に関する基準を明確化した事件 -
In re Marek Z. Kubin and Raymond G. Goodwinの事件において、Kubin及びGoodwin(以下、併せて「控訴人」)は、特許審判及びインターフェアレンス部(以下、「審判部」)の決定に対して控訴した。
その決定は、米国特許出願第09/667,859号(以下、859出願)の請求項が特許法第103条(a)の下で自明であり特許法第112条第1パラグラフの下で記載不備(lack of written description)があるとして、これを拒絶するものであった。CAFCは、審判部の決定を支持した。
859出願は、蛋白質の特定領域をコードするヒト遺伝子の単離及び配列決定をクレームするものである。具体的には控訴人は、Natural Killer Cell Activation Inducing Ligand(以下、「NAIL」)として知られる蛋白質(ポリペプチド)をコードするDNA分子(ポリヌクレオチド)をクレームしている。
クレームされた発明にとって特に重要なのは、発明者がクレームする、NAILとCD48として知られる蛋白質との間の結合関係の発見である。
米国特許第5,688,690号(Valiante)及び2 Joseph Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 43-84 (2d ed 1989)(Sambrook)の組み合わせによる教示によって859出願の請求項は自明であると審判部は考えた。CAFCは、実質的な証拠がこの結論を支持しているということに同意した。
CAFCは次に、特許法第103条の下での自明性に関する法律問題についての審判部の分析について検討した。審判部はKSR International Co. 対 Telefex Inc.事件(注1)を適用して、控訴人の請求項に記載の発明は革新的な成果としてえられたものではなく、むしろ通常の技術及び常識から得られる成果に過ぎず、特許法第103条の下で自明であると認定した。
審判部の判断を検討するに際して、CAFCは特に、KSR事件を踏まえてCAFCの以前の判決であるDueul事件判決(51 F.3d 1552 (Fed. Cir. 1995))を考慮した。
CAFCによれば、自明性の問題を扱う際に請求項の構成要素の組み合わせが「自明の試み(obvious to try)」であるか否かを裁判所は考慮することができないというDeuel事件判決における示唆に対して、最高裁はKSR事件判決において疑義を投げかけた。
自明性に対する形式的過ぎるアプローチに最高裁が賛成しなかったことを説明するに際して、CAFCは、KSR事件における分析を、Deuel事件判決の7年前のO'Farrell事件判決におけるCAFCの論理付けについての分析と比較した。
O'Farrell事件判決において、CAFCは「自明の試み」ということがしばしば、特許法第103条の下での自明性と誤って同等視されていたと警告した。
今回の事件では、CAFCは、発明者が「従来技術の組み合わせの可能性を伴って提出されたボードに対して単に比喩的なダーツを投げただけである場合、裁判所は自明性に関する後知恵の主張に屈してはならない(注2)」と警告した。
裁判所はまた、「『自明の試み』であることが、新しい技術又は実験の有望分野と思われる一般的方法を探求することであって、その場合の従来技術とは、クレームされた発明の特定の形態、又はそれをどのように達成するかに関する一般的な指針を与えるものに過ぎない(注3)」場合に、「自明の試み」は特許法第103条の下での自明性と同等ではないと強調した。
「自明の試み」ということの適切な適用はそれゆえ、当業者が「有限の特定された予見可能なソリューション」から「既知の選択肢」を追求する(KSR事件、550 U.S. at 421)場合に、特許法第103条の下での自明性が現れることである。
また、CAFCは、O'Farrell及びKSRの両事件では、自明性の認定をサポートするためには、従来技術の組み合わせが成功するとの合理的な期待のみが要求されると解釈した。
CAFCは、KSR事件における最高裁の認定、及びO'Farrell事件におけるCAFCの以前の認定が直接的に検討中の事件を示唆すると考えた。
開示された文献は、NAILと同一の蛋白質と、NAIL用の商業的に入手可能なモノクローナル抗体と、NAILに関するDNA配列を取得するための明示的な指示とを教示しており、その上、当業者は「クレームされた発明を導出するに際して従来技術の教示を踏まえて完全に『合理的な成功の期待』(注4)」を持ったであろうと、CAFCは考えた。
そのような合理的な成功の期待だけが、特許法第103条の下での自明性のために要求されるものである。
CAFCは、KSR事件を「予見可能な技術」に限定することを拒否することにより、生命工学における予見不可能な技術をKSR事件の範疇から排除することを拒絶した。
それに際して、CAFCは、自明性に対して形式的過ぎるルールを与えることを拒絶し、また、教示の全集合を無関係と見なしたり技術の先進領域における当業者の顕著な能力を軽視したりするようなやり方で特定の科学分野のための自明性の法的検証をカスタマイズすることを拒絶した。
この事件は、多種多様な科学分野に跨るようにCAFCによるKSR事件判決の適用を拡大し、更に、最近の最高裁判決の下での「自明の試み」に関する基準を明確化したので、重要である。この事件はまた、O'Farrell事件のような以前のCAFCの事件に対してKSR事件によって適用されたものとしての「自明の試み」に対する復活した分析についてのCAFCの是認も述べている。
(注1) 550 U.S. 398 (2007).
(注2) Marek Z. Kubin, et al.事件、No. 2008-1184 (Fed. Cir. Apr. 4, 2009) at *14, O'Farrell引用、853 F.2d at 904.
(注3) 同判決at *15, In re O'Farrell引用、853 F.2d at 903.
(注4) 同判決at *16, O'Farrell引用、853 F.2d at 904.