1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2009年
  4. 3. Line Rothman 対 Motherswear International 事件

月刊The Lawyers 2009年5月号(第116回)

3. Line Rothman 対
Motherswear International 事件

No. 2008-1375 (February 13, 2009)

- 発明時にその発明を実施していた専門家が存在しない事実が
自明性の判断に及ぼす影響 -

この事件では関連技術が予測可能であると判断された場合の、自明性に基づき特許無効とする基準が争点となった。Line RothmanとGlamourmom, LLC.(合わせて以下、グラマーマム)は、授乳期の母親用の、外から見えない胸部サポートを備えた授乳着をクレームした、米国特許第6,855,029号(029特許)の特許権を所有していた。グラマーマムは、Motherswear International(マザースウェア)の製品によって029特許のクレーム1、5及び12が侵害されたと主張し、マザースウェアといくつかの他の企業に対し、ニュージャージー地区地方裁判所に提訴した。マザースウェアはこれらの侵害の主張を否認するとともに、クレームが新規性、自明性、先行発明により無効であるとして反訴した。マザースウェアは、さらに、029特許の審査過程において、グラマーマムの不公正行為があったと主張した。陪審員はマザースウェアの侵害を認定せず、029特許は不公正行為により権利行使不能であると認定した。地方裁判所はグラマーマムの法律問題としての判決(JMOL)の申し立てを却下し、陪審評決を地方裁判所の判決として登録した。控訴審において、CAFCは、グラマーマムの侵害の主張を拒絶した地方裁判所の判決を支持し、不成功に終わったグラマーマムの自明性の評決に対する反論は、追加の特許有効性及び侵害についての不要な主張であったと認定し、さらに、地方裁判所によるグラマーマムの不公正行為の認定を破棄した。

029特許のクレーム1は、滑らかな外観で、フルサポートの授乳用ブラジャーを隠す外側のカップが無い授乳着であって、好ましくはタンクトップやアンダーシャツの内側に授乳用ブラを内装した授乳着を記載している。授乳着の目に見える外側の部分の重要な要素は外側のフラップであり、「ストレッチ性素材のラップ」の前部セクションから上方に延在し、「内側の授乳用フラップと肩のストラップに接続し、スムースな単一の授乳着の外観をもたせた」という点であった。隠された授乳用ブラは、「伸縮性のある胸部バンド、ソフトカップフレーム、内側の授乳用フラップ、及び裏地」から構成されていた。029特許が2005年に登録された後、グラマーマムは、「授乳用ブラを備えたタンクトップ」と同様の製品を製造販売していたマザースウェアを提訴した。

CAFCは、グラマーマムによって提出された3つの主張に関する地方裁判所の自明性の判断について焦点を当てて審理した。グラマーマムの第一の主張は、グラマーマムの製品はその発明の時点で自分には「想像つかなかった」というマザースウェアの専門家による証言は、発明の時点において当業者にとって、授乳着を想像できず、自明ではなかったことを認めるに等しい、というものであった。CAFCはAmazon.Com, Inc. 対 Barnesandnoble.com, Inc.事件(注1)における過去のCAFC判決に基づき、この主張を退けた。アマゾン事件において、CAFCは、自明性の適切な判断基準は、「特定の専門家がその当時、自身の実際の知識に基づいて何を実現したか」ではなく、特許出願当時に「仮想の当業者が引用例から何を得たであろうか」である、と判示した。(注2)CAFCはこれを類推適用し、マザースウェアの専門家自身の「発明の功績」は、自明性の判断において殆ど関連がないと認定した。むしろ、CAFCは、グラマーマムの発明が、先行技術の属する知識を持つ仮想の当業者にとって自明であったか否かを判断しなければならない。自明性の判断をする上でマザースウェアの専門家証言を陪審員が考慮するかしないかは自由であったが、証言自体は争点を解決する手がかりとはならなかった。

グラマーマムの自明性に関する第二の主張は、マザースウェアが陪審員に対し、授乳着業界の専門家であれば、グラマーマムの発明当時、タンクトップと授乳着を組み合わせることは自明であったという結論を裏付ける実質的証拠を提供しなかった、というものであった。CAFCはこの主張を否定した。CAFCは、授乳着の構成は「予測可能な」ものであると判断した。すなわち、「公判の記録が、予測可能な結果をもたらす周知の要素を組み合わせる動機付けがあったことを明らかに示している」のであれば、クレームされた発明は自明である(注3)。グラマーマムがクレームした発明が完全に通常の想定された方法で実現された先行技術から構成されていたことを示す証拠によって、「その分野における予見性及び期待が確認された」。CAFCは、さらに、発明が成立した時点でこの種類の構成を使用することは一般的であったことを専門家証言が示していたと述べた。こうしてCAFCは、公判記録がタンクトップと授乳着を組み合わせる動機付けの認定を裏付けている、と判示した。

最後に、グラマーマムは非自明性の主張の裏付けとして、いわゆる二次的考察を頼りとした。グラマーマムは、クレームされた発明についてライセンスを受けようとする業界の意欲、商業的成功、およびクレームされた発明に対する顧客および業界からの称賛があることの証拠、ならびに、非自明性の事実に基づく証拠として、マザースウェアによる模倣であることの証拠を提出したと主張した。CAFCは、二次的証拠は非自明性の単独の証拠となるが、陪審員は二次的考察の証拠を考慮し重み付けすることを正当に指示されていたとして、陪審員の認定を覆すことを拒絶した。

さらに、CAFCは、地方裁判所によるグラマーマムの不公正行為の認定を破棄した。CAFCは、裁判記録には、グラマーマムが重要な情報を提出せずに米国特許庁を騙す意思があったことを示す証拠もなければ、029特許の審査手続きの間に重要事実を積極的に提示しなかったことを示す証拠もないと判示した。こうして陪審評決は破棄された。

この事件は、自明性の判断において考察すべき事項を明らかにしている点で興味深い。特に、発明当時に当該発明を実施した専門家が存在しないことは、自明性の手がかりとはならないことを示したことは注目すべきである。さらに、予見可能な技術であると判断される領域において、また、クレームされた発明が周知の要素で構成されているならば、裁判所はこれらの要素を組み合わせる理由をより容易に見出すであろう。


(注1) 239 F. 3d 1343, 1364 (Fed.Cir. 2001)

(注2) 同判決

(注3) Glamourmom事件, No. 2008-1375, 11ページ(KSR Int’l Co. 対 Teleflex Inc.事件、127 S. Ct. 1727, 1731, 1740-1741 (2007)を引用)

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2009年
  4. 3. Line Rothman 対 Motherswear International 事件

ページ上部へ