月刊The Lawyers 2009年4月号(第115回)
2. Kinetic Concepts, Inc. 対
Blue Sky Medical Group, Inc.事件
No. 2007-1340 (February 2, 2009)
- 明細書の実施例の記載とクレームの解釈 -
この事件で、Kinetic Concepts, Inc. KCI Licensing, Inc. KCI USA, Inc.及びWake Forest University(まとめて以下、KCI)はテキサス州西部地方裁判所において、Medela AG Medela Inc. Richard S. Weston and Blue Sly Medical Group, Inc.(まとめて以下、被告)に対し米国特許法第5,636,643号(以下、643特許)及び第5,645,081号(以下、081特許)の特許侵害を主張し訴訟を起こした。
被告は、自明性及び不明瞭性のために特許は無効であり、権利行使できないとして反訴した。陪審員は、特許は有効で権利行使でき、また特許侵害はないと認定した。地方裁判所は、両当事者のJMOLに対する事後申し立てを認めず、陪審評決による判決に移った。KCIと被告の双方は控訴した。
どちらの特許も、陰圧もしくは減圧と言われる吸引を用いた創傷の治療に関するものである。
643特許は、この事件において争点となっている両特許の説明に役立つものであり、吸気ポートを含むシールとカバーによって被覆される創傷の上のスクリーン配置を開示する。吸気ポートは減圧もしくは陰圧を生み出す真空システムに接続されている。
この事件で争点となったのは「創傷」という文言の解釈であった。審理において、地方裁判所はその文言の解釈をせず、かわりに「創傷」の使用の解釈もしくは文言の「率直な意味」の検討を陪審員に委ねた。
被告は、陰圧もしくは減圧を用いて「創傷」を治療することが開示されていると主張する4つの先行技術文献を示した。
そのような文献のひとつであるthe Chariker-Jeter システムは、創傷にチューブを取り付け、創傷をガーゼで覆い、そのガーゼを覆い、チューブの一端をシールで封じ、チューブのもう一方の端に吸引を行うことに関する。
このシステムは、通常内部の負傷(「ろう」)の治療に用いられていたが、ある場合においては他の目的に用いられることもあった。
2つめの先行技術であるDavydov 文献は、授乳婦の乳腺炎の治療法であり、胸に小さな傷口を作り、その傷口を覆うようにカップが置かれ、そして感染した部分を抜き出すために吸引が行われるという方法を記載した2つの記事より構成されている。
3つめの先行技術文献では表面の創傷から水分を抜くために吸引が用いられており、4つめの文献は皮膚移植に用いられる吸引に関するものである。
クレームの解釈に関して、被告は地方裁判所が「創傷」を解釈しなかったことは破棄できる誤りであったと主張し、CAFCに率直で普通の意味と矛盾しない文言の定義を採用するよう求めた。
被告によると、「創傷」という文言は表面と内部の両方の負傷を示す。被告は、Chariker-Jeter とDavydov の文献において開示されている方法は創傷をこの定義に見合うように扱っており、ゆえにKCIの特許は不明瞭性のため無効であると主張した。
KCIは、被告の解釈は法律問題として誤っており、普通の人は「創傷」の意味を理解するので、地方裁判所が誤ちを犯した範囲内において、解釈をしなかったことは無害であると反論した。KCIは、CAFCは陪審評決と一致するやり方で狭義に「創傷」を解釈するべきであると主張した。
CAFCは643特許の中で用いられているような「創傷」はChariker-Jeter とDavydov によって意図されている肌でない創傷を除くと解釈した。
643特許のクレームは広く書かれていたにもかかわらず、CAFCは解釈を導くために明細書を検討し、肌の創傷のみが記載されていたので、クレームも同様に限定されると述べた。従ってCAFCは地方裁判所が「創傷」の解釈について指示を与えなかったことは無害であるとして、KCIに同意した。
CAFCは更に、被告側の自明性に関する主張の基礎であった先行技術文献の範囲と内容は、陪審員によって判断されるべき事実上の問題であり、陪審員は先行技術文献のどれも「陰圧による創傷の治療」(注)について開示していないとする実体的な証拠を持っていたと判断した。従って、地方裁判所がJMOLを認めなかったことは適切であったとした。
反対意見の中で、ダイク(Dyk)巡回判事は「創傷」に対する多数派の狭義の解釈に反論した。彼は、地方裁判所がその文言を解釈しなかったことは明らかな誤りであり、クレームと明細書中に明確な定義がない場合に、多数派が医学辞典を頼りにしなかったことは同じように誤りであると主張した。
明細書には多くの実施例が記載されていた一方で、ダイク判事は実際にこれらの実施例は肌の下まで達する創傷の記載を含んでいたこと、さらに、その内容に関らず、実施例に記載されたものが全てであると評価すべきではないことの両方を強調した。
これらの理由により、彼は「創傷」の定義は先行技術文献に記載の創傷を含むように解釈されるべきであり、故に特許権は自明性のために無効であるとされるべきだと説明した。
この事件は、表面上では広いと思われるが明細書の観点から見ると狭いクレームの取り扱いについて重要な事件である。実際のところ、ダイク判事はこのやり方において明細書はクレームの文言を限定すると見なされるべきではないと主張している。
特許実務者は、明細書の中に実施例を記載するときには、明細書中に用いられている単語が特許クレームの文言を限定しないよう留意すべきである。
(注) Graham 対 John Deere Co. of Kan. City事件、383 U.S. 1, 17 (1966)