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月刊The Lawyers 2009年4月号(第115回)

1. Boston Scientific, Inc. 対 Cordis Corp.事件

No. 2008-1073 (January 15, 2009)

- 自明性の判断基準(組合せの自明性) -

この事件では、実質的に、1つの先行技術文献の中に隣接して図示された実施例の限定事項を組み合わせたに過ぎない特許クレームが、自明性を理由に無効であるか否かについて審理された。

Boston Scientific Scimed, Inc.およびBoston Scientific Corporation(合わせて以下、「ボストン」)は、表面に非血栓性コーティングを施した、薬剤溶出性金属製ステントに関する米国特許第6、120、536号(以下、536特許)を所有していた。ボストンは、Cordis Corporation ならびにJohnson & Johnson(合わせて以下、「コーディス」)が536特許のクレーム8を侵害したと主張し提訴した。

536特許のクレーム8は、管状の本体と開口格子状の側壁を有する金属製ステントを規定した従属項である。器具の側壁は、溶出する薬剤を含む下層と、溶出物質を実質的に含まない、長期血栓性を保つ上層の2つの材質層でコーティングされている。

コーディスは、製造工程の初期の段階では溶出物質を包含しないトップコートを有する、薬剤溶出性ステントを製造していた。しかしながら、ステントが患者の体内に埋め込まれるときに、トップコートは、ステント内の薬剤のうち、ある程度の割合の薬剤を含有することになる。

裁判当事者は「血栓性」という文言の意味について争っていたが、コーディスはそのステントとむき出しの金属製ステントが同程度の血栓形成性である証拠を出した。

裁判においてコーディスは、訴えられた器具は長期非血栓性ではなく、実質的に溶出物質を含んでいると主張し、さらに、536特許は米国特許第5,545,208号(ウルフ特許)及び第5,512,055号(ドム特許)を含む先行技術を考慮すれば自明であり、特許無効であると主張した。

辞書の定義に基づき、地方裁判所は「血栓性」という文言を「血栓もしくは血液凝固を引き起こす」と解釈し、長期血栓性物質を「生物学的に活性な物質を放出する間およびその後の期間に及んで血栓を形成しない物質」と解釈した。

地方裁判所は、非血栓性の適切な解釈は、基材としての金属製ステントの血栓形成性には着目しないと判示した。さらに、536特許の「substantially free(実質的に含まない)」という限定は、薬剤が移植前にトップコートに拡散することができることを意図していると認定した。

こうして裁判所は、コーディスの薬剤溶出拡張用ステントは非血栓性であり、実質的に溶出物質を含まず、従って536特許を侵害すると結論付けた。

地方裁判所の陪審員は、自明性に関するコーディスの主張を拒絶し、侵害被疑品のステントはクレーム8を侵害していると認定した。地方裁判所は、コーディスの、無効性に関する法律問題としての判決(JMOL)の申し立てを却下し、コーディスは536特許を侵害したと判示して、陪審員の非自明性の認定に基づく判決を下した。

CAFCは地方裁判所の「非血栓性」の限定に関する解釈に同意した。クレーム文言の意味を識別するために536特許明細書の文言に注目し、特許の目的はステントによる血栓形成を最小にすることであり、この目的を考慮すれば辞書の定義を採用することは合理的であると認定した。

さらに、地方裁判所が辞書の定義を採用したことは、その定義が特許明細書と矛盾しない限りにおいて妥当であると述べた。

CAFCはさらに、「長期」血栓性を解釈するために明細書と審査経過に注目した。そして、「長期」とは、非血栓の状態が2週間以上の「期間」であり、その期間が「生物学的に活性な物質の放出中および放出後」に及ぶと認定した。

しかしながら、CAFCは536特許は自明性を理由に無効であると認定した。自明性は法律問題であることを理由に、陪審員による自明性の解釈を覆審的判断基準(de novo)で審理した。陪審員がその結論の基となる実質的証拠を持っていたか否かを判断するために、その認定の基となったボストンに最も有利な事実の認定について審理した。

これらの基準に基づき、CAFCは陪審員は特許が自明ではないことを結論付ける実質的証拠を持たなかったと結論付けた(注))。

CAFCは、図面の中に、分離した非血栓性トップコート層を有する薬剤溶出ポリマーで形成されたポリマーステントの図面と、薬剤溶出ポリマーをコーティングした金属製ステントの図面を隣接して図示しているウルフ特許のみに基づいた。

CAFCは最高裁KSR判決の、「もし当業者が予測可能なバリエーションを実施できるならば」特許性はない、と述べた部分(注2)を引用して審理した。

KSR事件を考慮してCAFCは、2つの図面を組み合わせることで、分離した、薬剤のないトップコートを有する薬剤溶出する金属製ステントについて述べたクレーム8の発明に至ることは自明であると結論付けた。

この事件は、すべてのクレームされた特徴が、1つの先行技術文献で隣接して図示された実施例に開示されていることから自明であるとして特許が無効になる可能性があることを教示した点で興味深い。

こうして、この判決は、先行技術中の関連した特徴の物理的近接性が重要な役割をすることを示すことによって、特許の自明性の認定の基準を示した。

このような状況においても、最高裁KSR判決に基づきこれらの特徴を組み合わせる理由を示すことが必要である。


(注1) Richardson-Vicks, Inc.対Upjohn Co.事件 122 F. 3d 1476, 1479 (Fed. Cir. 1997). 陪審員の事実認定がdeterminative ではなく、引例が発明が自明であることを示している場合に、陪審員による自明性に関する法律の認定は却下されると判示した事件

(注2) KSR Int'l Co.対Teleflex Inc.事件 127 S. Ct. 1727 (2007)

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