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月刊The Lawyers 2009年3月号(第114回)

2. TS Tech USA Corp.事件

Slip Op. Misc. Docket No. 888 (December 29, 2008)

- 被告の事情を考慮して裁判地の移管を認めた事件 -

リア(Lear Corporation)は2007年9月14日に、テキサス州東地区地方裁判所においてTSテック(TS Tech)に対し訴訟を起こした。リアは枢着された車両用のヘッドレストアセンブリに関する特許権侵害を主張していた。

リアによると、TSテックは侵害品である枢着ヘッドレスト部品を製造し、本田技研工業株式会社に提供していた。

2007年12月27日に、TSテックは裁判地をオハイオ州南部へ移管するよう申し立てた。TSテックは証拠のほとんどがオハイオ州南部にあり、主要な証人はオハイオ州、ミシガン州またはカナダ在住で、当事者のどちらもテキサスにおいて法人格を取得しておらず、またテキサス州東部にオフィスがないので、オハイオ州南部の方が好都合だと主張した。

リアは移管に反対し、侵害品とされるヘッドレストを搭載した一部のホンダ車はテキサス州東部を含む全国で売られているので、裁判地は適当であると主張した。

テキサス州地方裁判所は、TSテックが「テキサス州東部における訴訟提起というリアの選択に従うよりも遙かに大きな」(注1)当事者の不都合を示さなかったと説明し、裁判地移管を認めずリアを支持した。むしろ、地方裁判所はテキサス州東部の市民はその事件を地元で傍聴できることに「重要な関心」(注2)を持っていると述べた。

これに対し、TSテックはテキサス州東部と無関係であるにもかかわらず、事件の移管を拒否したことは地方裁判所による裁量権の濫用であると主張し、職務執行令状を求める申し立てをした。

CAFCはこの事件の判決に第5巡回区法を適用した。更に、TSテックが職務執行令状を要求したので、CAFCは「明らかに誤った結果」(注3)を生んだ移管の拒否における明白な裁量権の濫用の証明を求めた。

第5巡回区では、裁判地を移管するか否かを決める際に、「公的」と「私的」要因を比較検討する(注4)。「私的」要因とは

(1)証拠への近づきやすさ

(2)証人の出廷を確保するための強制的手続きの利用可能性

(3)証人の出廷に係る費用、そして

(4)裁判を簡易で、便利で費用がかからないものとする他の検討材料

を含む(注5)。「公的」要因とは

(1)裁判の過度な集中からくる行政上の問題

(2)地元で事件が判決されることへの地元の関心

(3)裁判所の事件に対する精通度、そして

(4)法律の対立、外国法の適用回避

を含む(注6)

CAFCは、第5巡回区法の下、地方裁判所がリアの裁判地の選択を連邦民事訴訟法第1404条a項の下の明らかな要因として扱ったことは判例を無視したものであるとした。

移管に対するひとつの要因として原告の選択を評価したことにより、地方裁判所はこの決定に過剰な敬意を与えたとしたのである。

第5巡回区でのVolkswagen AG, 371 F.3d 201, 205 (5th Cir. 2004)事件において、証人の裁判出廷費用の計算のために「100マイル」ルール(注7)が確立された。このルールは100マイルをこえる裁判地に対し、証人の不便さは移動した距離と直接的に比例し増加するとされている。

CAFCはテキサス州で裁判が行われると、オハイオ州で行われる場合より証人は約900マイルも多く移動する必要があると認定した。CAFCは第5巡回区の下の100マイルルールを無視したことは、地方裁判所の明らかな誤りであるとした。

更にCAFCは、地方裁判所が証拠源へのアクセスは中立であると評価したことに誤りがあったと認定した。

地方裁判所は、ほとんどの書類は電子化されているので、テキサス州で裁判をするための費用は取るに足らないと認定した。しかし、CAFCは、オハイオ州のほうが全ての実体的な証拠により便利にアクセスできると説明した。

ただいくつかの証拠源へのアクセスが少し便利であるというだけで、この要因の重要性を無視してはならないと、CAFCは結論付けたのである。

公共の利益を考慮にいれ、CAFCはテキサス州東部とは適切な関係がなかったために移管しないとした地方裁判所の判決には誤りがあったと裁定した。

唯一の根拠はTSテックのヘッドレスト部品を搭載した一部の車が東部で売られていたということだった。

CAFCによると、訴えられた車はアメリカ合衆国全土でも同様に売られていたため、その他の裁判地で売られていた車と同じくテキサス州東部で車が売られていたことも説得力がなかった。故に、CAFCはリアに有利なこの要因の評価は地方裁判所の誤りであると判決したのである。

最後にCAFCは、TSテックはオハイオ州への移管拒否における地方裁判所の明らかな裁量権の濫用の説明という困難な責務を果たしたとした。

CAFCは、地方裁判所による誤りはVolkswagen, 545 F.3d 304 事件と同一であり、その事件は移管されるべきであったと説明した。そのために、CAFCは職務執行令状を与え、地方裁判所に事件をオハイオ州南地区へと移管するように命じた。

この事件は、被告の不便さに基づきCAFCがテキサス州東地区からの移管を命じた点で重要である。故にこの事件は、テキサス州東地区から別の裁判地へと移管しようとする被告に希望を与えるものといえる。

TSテック事件におけるCAFCの見解を踏まえて、テキサス州東地区で起こされる事件は少なくなると予見する識者もいる。


(注1) TSテック USA Corp., Slip Op. Misc. Docket No. 888, at 3 (Fed. Cir. Dec. 29, 2008)事件

(注2) 同判決

(注3) 同判決5ページ

(注4) Volkswagen of Am., Inc., 545 F.3d 304, 315 (4th Cir. 2008)(大法廷)事件

(注5) Piper Aircraft co. 対 Reyno, 454 U.S. 235, 241 n.6 (1981)

(注6) Volkswagen, 545 F.3d 315ページ

(注7) TSテック USA Corp., Slip Op. Misc. Docket No. 888, 6ページ

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