月刊The Lawyers 2009年3月号(第114回)
1. Sundance, Inc. 対
Demonte Fabricating Ltd.事件
Nos. 2008-1068, -1115 (December 24, 2008)
- 技術的問題について専門家として証言するための適格性の基準が示された事件 -
サンダンス(Sundance, Inc.)は、格納式の分割されたカバーシステムに関する米国特許第5,026,109号(以下、「109特許」)を有している。109特許に係る発明は、トラックの荷台を含む構造物またはコンテナに使用される。
サンダンスは、ミシガン州東部地区の地方裁判所において、請求項1についての特許権侵害を主張して、デモンテ(DeMonte Fabricating, Ltd.)を提訴した。
地方裁判所において陪審員は、請求項1は侵害されたが、米国特許法第103条の自明性の規定から特許は無効であると認定したのに対し、サンダンスは、109特許は自明でなく無効ではないとする法律問題としての判決を求め、地方裁判所はこの申し立てを認めた。
デモンテは、KSR International Co. 対 Teleflex Inc.事件(127 S. Ct. 1727 (2007))を引用して、自明性に関する再審理を求めたが、地方裁判所はこの申し立てを却下し、デモンテは特許権侵害と非自明性に係る判決について控訴した。
地方裁判所の審理において、デモンテは、109特許が自明であるか否かを判断する際に陪審員が使用するための、米国特許第4,189,178号(以下、「クラマロ」)と米国特許第3,415,260号(以下、「ホール」)の2つの先行技術文献を提出していた。
クラマロはトラック用の格納式カバーシステムを開示しており、両当事者は、クラマロには分割されたカバーの記載がないことに同意し、ホールが多数の「柔らかいスクリーン部」(注1)を有するカバーシステムを記載していることについても同意した。さらに、ホールはトラックカバーとして使用されることを意図していた。
これらの事実から、陪審員は109特許の請求項1は自明であると認定した。しかし、KSR事件で最高裁判所が判決を下す前に、地方裁判所は、109特許が自明であると陪審員が判断するための証拠が十分でないため、この認定を法律問題であるとして破棄した。
地方裁判所はまた、「長期間待望された未解決のニーズ」と「模倣」の二次的考察も引用して、非自明性の認定をした(注2)。
CAFCはまず、デモンテ側の特許法の専門家であるブリス氏の証言について検討した。デモンテは、米国特許商標庁の実務や手続、非侵害、特許の無効性、および不正行為について見解を述べているブリス氏が作成した専門家報告書を提出した。
サンダンスはこれに異議を申し立て、ブリス氏は本発明に関する適切な技術的バックグラウンドを持っていないと主張した。
地方裁判所はブリス氏が証言することを許可し、そこでブリス氏は、特許権の非侵害、特許の無効性、および自明性判断の基礎をなす事実について議論して、109特許の請求項1は自明だったと結論づけた。
結果として、CAFCは、ブリス氏は自分の見解を裏付ける技術的な専門知識を持っていないため、侵害または特許の有効性に関して証言するための適格性を有していなかったので、地方裁判所がブリス氏に証言を許可したことは裁量権の濫用に該当するという判決を下した。
CAFCは、ブリス氏が109特許の技術的主題に関して「いかなる経験も有していない」(注3)と指摘した。このため、CAFCは、ブリス氏が複雑な技術的詳細に関する問題について特許を議論することは不適切であると結論づけたのである。
このような証言は、陪審員が証拠を理解し、問題の事実について判断することにおいて、何ら助けとなり得ない、それどころか、このような宣誓は、「弊害を招き事実認定者を混乱させる」(注4)だけであり、したがって、CAFCは、ブリス氏は技術専門家として適格でもないのであるから、非侵害と特許の無効性に関する問題についてブリス氏が証言することを地方裁判所が許可したことは裁量権の濫用に該当するという判決を下した。
ただし、CAFCは、専門家としての適格性は、証人に当業者以上の知識を有することを要求しないと説明した。CAFCはむしろ、当業者の知識を持つ証人は、専門家証言を提出するための適格性が認められることが多いと判断した。
ブリス氏の証言を許可したことにつき地方裁判所が裁量権を濫用したと認定した後で、CAFCは、下級裁判所の法律問題としての非自明性の判決を維持するか否かの問題について審理した。
ブリス氏の証言を除外した後で、CAFCは、自明性有りの認定を裏付ける専門家証言は残っていないと結論づけた。しかし、この「技術は単純である」(注5)ため、CAFCは、地方裁判所の非自明性の認定をとにかく覆したものの、法律問題として、109特許の請求項1は自明であるから無効であるという判決を下した。
CAFCは、クラマロは格納式のトラックカバーを開示しており、それとは別に、ホールはセクションからなるカバーを開示していると説明した。これらをひとまとめにすると、クラマロとホールを組み合わせたものは、109特許の請求項1のすべての発明特定事項を満たしているとCAFCは認定した。
さらに、クラマロとホールはそれぞれ他方とは独立にその機能を実現していたのであるから、その発明は「109特許に係るトラックカバーの発明当時、当該技術分野の当業者にとって不可避的に自明だった」(注6)だろうということになった。
このようにして、CAFCは、請求項1は法律問題として非自明であるとした地方裁判所の判決を覆し、結果として、CAFCは特許権侵害の問題について検討する必要がなかった。
この事件は、特許弁護士は、その資格と別に技術専門家として適格性が認められない限り、技術的問題について証言できないかもしれないことを示した点で重要である。
また、その技術分野の通常の能力しか持たない者も専門家証言を行う適格性を有しうることをCAFCが示したという点からも、本件は重要である。
(注1) Sundance, Inc. v. Demonte Fabricating Ltd., No. 2008-1068, -1115, slip op. at 3 (Fed. Cir. Dec. 24, 2008)
(注2) 同判決4ページ(Sundance, Inc. v. DeMonte Fabricating Ltd., No. 02-73543, 2006 WL 2708541, at *5 (E.D. Mich. Sept. 20, 2006) を引用)
(注3) 同判決8ページ
(注4) 同判決9ページ
(注5) 同判決14ページ
(注6) 同判決17〜18ページ