1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2009年
  4. 3. Takeda Chemical Industries,Ltd. 対 Mylan Laboratoies, Inc.事件

月刊The Lawyers 2009年2月号(第113回)

3. Takeda Chemical Industries,Ltd. 対
Mylan Laboratoies, Inc.事件

No. 2008-1124 (December 30, 2008)

- イーベイ(eBay)事件で明示された基準に基づいて
差止命令を下すか否かを判断した事件 -

この事件では、最近下されたeBay Inc. 対 MercExchange, LLC事件(547 U.S. 388 (2006))の最高裁判決によって示された差止命令を下す基準が採用された。

差止命令の基準として、慣例となっている「4つの要素」テストの要件を満たしていることが必要である。

4つの要素とは、(1)継続した侵害行為により特許権者が回復不能な損害を被るおそれがある、(2)法律での救済が不十分、(3)特許権者と侵害者との間の不利益の衡平のために差止命令が必要である、(4)差止命令によって公益が損なわれない、である。

アキュームド(Acumed)は、上腕骨の骨折治療に使用する整形外科用の釘の種類の一つである近位上腕骨用釘(proximal humeral nail:以下、PHN)に関する米国特許第5,472,444号(以下、444特許)を所有している。

アキュームドはその代表的製品としてPolarusという釘を販売している。アキュームドは、ストライカー(Striker)のT2 PHNという商品が444特許を侵害していると主張して、2004年4月、オレゴン州地区地方裁判所に提訴した。

陪審員は裁判において、ストライカーが444特許を故意に侵害したと認定し、賠償額を算定した。2006年2月、地方裁判所は、一度、特許侵害及び特許の有効性が認定されたならば、特別な事情が無い限り仮差止めが認められると推定して、差止命令を下した。

ストライカーの控訴審の途中で、eBay Inc. 対 MercExchange, LLC 事件の最高裁判決が下され、最高裁はその判決において、特許紛争における差止命令の裁定には、従来からの4つの要素テストをしなければならないと判示した。

2007年4月、CAFCは故意侵害の認定は支持したが、イーベイ最高裁判決を考慮して差止命令の判決を破棄し、差し戻した。

2007年11月、地方裁判所はイーベイ判決による4つの要素テストを行い、再度、差止命令を下した。ストライカーはこれに対し控訴した。

CAFCは、地方裁判所が必要とする要素を考慮するならば、裁量権の濫用があった場合のみ、差止命令は破棄されると述べた。

4つの要素とは、(1)継続的侵害行為によって回復不能な損害のおそれがあるか否か、(2)法律によって可能な救済が不十分であること、(3)特許権者と侵害者との間の不利益の衡平のために差止命令が必要であるか否か、(4)使用差止によって公益が損なわれるか否か、である。

最初の2つの要素は実質的に重複するので、CAFCはそれらを1つにまとめて審理した。

アキュームドは過去に自社の特許を他の製造業者にライセンスしていたことから、ストライカーは、もしライセンスを取得していたならば回復不能な損害はなかったと主張した。

しかし、ストライカーは世界の整形外科器具製造の一流企業であり、Polarus 釘はアキュームドの代表的製品であることを理由に、地方裁判所は過去のライセンシーはストライカーとは区別されると判示した。

CAFCは、「過去のライセンスの意志」(注1)は、自動的に回復不能な損害が無いことを立証するものではないことを理由に、裁量権の濫用なしと認定した。

CAFCは続けて、「特許付与の基本的特質は、競合者による特許侵害を排除する権利を付与することである」(注2)と述べた。

不利益の衡平の要素について、ストライカーは、もし差止命令が下されたならば治療に釘を必要とする患者が非常に困るであろうと強く主張した。

CAFCは、患者の不利益は無関係であるとして、この主張を退け、これを否認した。そうではなく、不利益の衡平は原告と被告との間だけに適用されるものであると説明した。

従ってCAFCは、ストライカーは、自社の製品が特許侵害することを知りながら、それを販売することを選んだのであるから、特許権者が常に勝訴すると立証した。

第4に、ストライカーは、アキュームドの釘がストライカーの釘よりも品質が低く安全性も低いと主張し、効果の低い治療によって公益はもたらされるものではないと主張した。

アキュームドは、裁判において、Polarus におけるこのような欠陥は、改良された設計によって最小限に抑えられたと証拠提示していたことから、地方裁判所はこの主張に同意しなかった。

更に、Polarus を侵害しない数多くの代替品が存在すること、並びに対公益性との関係で差止請求権の発行が裁量権の範囲内であることを認めた。

更にCAFCは、地方裁判所は、潜在的な健康上の問題の結果を考慮するための証人の信憑性を評価する最適な立場にあったと述べた。こうしてCAFCは、ストライカーに対する差止命令の判決を支持した。

この事件は、最近のeBay Inc. 対 MercExchange, LLC.最高裁判決によって示された差止命令の基準を適用した点で興味深い。また、裁判所が一般大衆の健康に関与する産業においても、侵害した競合者に対する差止命令を下したことも興味深い。


(注1) Acumed LLC, 対 Stryker Corp., No. 2008-1124, 7ページ(Fed. Cir. Dec. 30, 2008)

(注2) 同判決6ページ

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2009年
  4. 3. Takeda Chemical Industries,Ltd. 対 Mylan Laboratoies, Inc.事件

ページ上部へ