月刊The Lawyers 2009年1月号(第112回)
2. Floyd M. Minks 対 Polaris Industries, Inc.事件
Nos. 2007-1490, -1491 (October 17, 2008)
- 陪審評決による賠償金の減額 -
CAFCは地方裁判所の賠償金に関する判決を破棄し、賠償金の新たな審理に事件を差し戻し、更に、侵害ならびに故意侵害の陪審評決、及び、弁護士費用に関する地方裁判所の裁定を支持した。
ミンクス(Minks)は、後進スピード・リミッター、すなわち、オール・テライン・ビークル(全地形万能車、以下、ATV)を後進方向に操作したときの速度を制限する回路に関する、米国特許第4,664,080号(080特許)を所有していた。
ミンクスは、電気部品の製造販売会社であるミンクス・エンジニアリング(Minks Engineering, Inc.)の社長である。ポラリス(Polaris Industries, Inc.)はATVのメーカーであり、ミンクス・エンジニアリングからほぼ40年にわたり電気部品を購入していた。
2002年、ポラリスとのライセンスに関する交渉の後、ミンクスはポラリスがATVに後進スピード・リミッターを組み入れていることを発見し、それはミンクスの特許を侵害していると判断した。
こうして、2004年、ミンクスはポラリスに侵害警告書を送付し、ポラリスに対し、080特許の特許権侵害を主張して提訴した。
事実審において陪審員は、ポラリスは侵害警告書を2004年11月23日に受領し、080特許を故意に侵害しており、ミンクスは129万4620ドルの特許使用料の賠償金を受け取る権利があると認定した。
ポラリスは賠償金の減額を申立て、地方裁判所は陪審員による賠償金の裁定額を27万904ドル80セントに引き下げた。この金額は陪審員の故意侵害の認定を受けて賠償金を2倍にしたものであった。
賠償金の裁定額を引き下げるにあたり、地方裁判所は、賠償金は米国民事訴訟法規則第50条に基づく法律問題として減額することが可能であることを理由として、原告に対し賠償金の新たな審理を提案しなかった。
控訴審における主たる争点は、賠償金に関する新たな審理を原告に提案することなく、陪審員の裁定した賠償金を地方裁判所が減額したことが、合衆国憲法修正第7条に基づき妥当であったか否かという点であった。
憲法修正第7条の再審査条項は、「陪審員によって審理された事実は、コモンローの規則(注1)以外に、米国のいかなる法廷において再審理されない」と述べている。
憲法修正第7条の文言は、2つの判例法を生み出しており、この事件でCAFCは、この状況がその2つの判例のどちらに該当するかを明らかにすることを求められた。
第一の司法解釈によれば、もし裁判所が、陪審員による賠償金の裁定を証拠による立証がされていない認定を前提として減額していたならば、賠償金に関する新たな審理の提案をしなかったことは憲法修正第7条に違反する(注2)。
第二の司法解釈によれば、陪審員が法的誤りを理由に賠償金の裁定に至ったならば、憲法修正第7条は、裁判所が原告に賠償金に関する新たな審理を提案することなく、独自の裁定額を課すことを認めている(注3)。
地方裁判所は、第二の司法解釈がこの事件に適用されると判断したが、控訴審においてCAFCは、地方裁判所の判決を認めず、事実審の裁判官は第一の司法解釈に従うべきであり、原告に新たな審理を提案すべきであったと結論付けた。
CAFCは、陪審員によって算出された合理的な特許使用料の根拠が無くなるような法的原則を、地方裁判所は示さなかったと認定した。
CAFCによれば、地方裁判所は、合理的な特許使用料の金額に関する証拠の再審理に従事するものであり、陪審員の裁定は立証されていなかったと結論付けた。
合理的な特許使用料の決定は Georgia-Pacific Corp. 対 U.S. Plywood Corp. 事件(注4)において示された一連の要因に基づいていたことから、地方裁判所による賠償金の再評価は法律的理由ではなく証拠理由に基づかなければならなかったとCAFCは理由付けた。
CAFCは、例えとして、地方裁判所は、設定された特許使用料に関するミンクスの証言は、合理的な特許使用料の分析に情報を与えるものであるから、これを再評価しなければならなかったと述べた。
更にCAFCは、特許発明が非特許製品の販売に寄与した範囲は、合理的な特許使用料の要素であることから、地方裁判所は、当事者間の過去の取引に関する証拠を再審理しなければならなかったと認定した。
最後に、ミンクスとミンクス・エンジニアリングとの間の特許使用料の取り決めに関する証拠は、合理的な特許使用料の決定に関係することから、地方裁判所はこの証拠も再評価しなければならなかったと述べた。
従って、憲法修正第7条は、原告に新たな審理を提案することなく、陪審員による証拠の評価を地方裁判所が独自の評価に置き換えることを禁ずるものである。
この判決に至る上で、CAFCは、この事件の事実を Tronzo 対 Biomet, Inc. 事件(注5)における事実とは区別した。
Tronzo 事件では、CAFCは、原告に新たな審理を提案することなく賠償金の陪審員による裁定額を大幅に減額した事実審判決を支持していた。
Tronzo 事件では賠償金の陪審員による裁定額をサポートする有効な証拠を原告が何も示していなかったのに対し、ミンクスは、合理的な特許使用料の価値に関する少なくとも幾つかの証拠を提示していたと理由付けて、CAFCはこの判決を調整した。
したがって、CAFCは、地方裁判所が原告に対し賠償金に関する新たな審理を提案することなく、裁定を却下したことは不当であったと結論付けた。
ミンクス判決は、特許事件における賠償金の裁定額の変更が、原告に賠償金に関する新たな審理の権利を与えるかどうかの指針を示した点で重要である。
この事件は、事実の再評価に基づく賠償額の変更によって、賠償金に関する新たな審理の権利が特許権者に与えられることを示した。
(注1) 合衆国憲法修正第7条
(注2) Hetzel 対 Prince William County 事件, 523 U.S. 208,211 (1998)
(注3) Johansen 対 Combustion Engineering, Inc. 事件 170 F.3d 1320 (11th Cir. 1999)
(注4) 318 F. Supp 1116 (S.D.N.Y. 1970)
(注5) 236 F. 3d 1342 (Fed. Cir. 2001)