月刊The Lawyers 2009年1月号(第112回)
1. In Re Bernard L. Bilski and Rand A. Warsaw
No. 2007-1130 (October 30, 2008)
- 特許の保護対象―方法発明の判断基準 -
CAFCは、クレームされた発明の主題が特許の対象ではないことを理由とした、審査官の特許出願に対する拒絶査定を維持した特許抵触審判部(以下、BPAI)の審決を支持した。
上訴人の出願は、商品取引におけるリスクヘッジ方法について特許を求めたものである。いわゆる「商品プロバイダー」として知られている仲介人を通して、買い手、売り手が商品価格の大きな変動から自身を守るための方法が提案されている。しかしながら、クレームは実体のある商品に関する取引に限定されておらず、オプション契約を含むほど広義であった。
審判官は、米国特許法第101条に基づく特許性のある発明の主題を構成しないとの理由で出願を拒絶した。審査の段階では、審査官はいわゆる「技術性」テストに依存し、発明が特定の装置において実施されず、単に抽象的なアイディアに関連するものであるために、特許されないと理由づけをした。
BPAIはこの審査官の処分を支持したが、審査官が「技術性」テストに依存したこと、及び、特定の装置における実施を要求したことは誤りであったとした。
それにもかかわらず、BPAIは「物理的でない経済的なリスクとコモディティ プロバイダー、消費者及び市場参加者の法的責任」の転換は、第101条における特許性の基準を満たさないと結論づけた。
大法廷での判決の中で、CAFCは第101条における「方法」という文言の意味と上訴人の発明がその意味の範囲内にあるか否かを検討した。
CAFCは関連性のある最高裁判決の再検討から始め、「自然法則、自然現象もしくは抽象的アイディア」に関係する場合には、「方法」に特許性はないと言及した(注1)。
重要なことには、この解釈の根底にある論理的根拠は、特許のクレームは他者による基本原則の利用を妨げるべきではないということである。
しかし、特許のクレームはそのような基本原則を用いた特定の出願を包含する可能性がある。ゆえに議論とされるのは、上訴人の特許クレームが公による基本原則の利用の妨げとなるかどうか、また、特定の適用のみに限定されているかどうかである。
この問題を解決するために、CAFCは第101条における「方法」クレームの特許性を判断する基準として「機械もしくは変換 (machine-or-transformation test)」テストを採用した。このテストは Gottschalk 対 Benson 事件(注2)の中に含まれる文言に基づいて選ばれた。
この基準のもとでは、方法クレームは(1)特定の機械あるいは装置と連携している、(2)特定のものを異なる状態あるいはものに変換している場合に特許対象である。もしこの2つの条件のどちらかひとつが満たされれば、基本原則に関するクレームされた方法は、基本原則を用いた他の出願を他者が利用する妨げとならないので、第101条の下、特許対象である。
「機械もしくは変換」テストの確立に際して、CAFCはクレームが第101条を満たすかどうかの決定に用いられた他の基準に立ち返った。
第一にCAFCは過去の事件で採用されたいわゆる Freeman-Walter-Abele テストを再検討し、このテストは不適当であると考えた。
次に、CAFCは画期的な事件であった State Street Bank 及び Trust Co. 対 Signature Financial Group, Inc. 事件(注3)で用いられた「有益で、具体的な実体のある結果」基準を検討し、この基準もまた、第101条におけるクレームの特許性の判断については不十分であると結論づけた。
この基準の却下の際にCAFCはそれでもなお、ビジネス方法クレームは、「機械もしくは変換」テストを満たすという条件で特許対象であると述べた。
更に、CAFCは審査官が参照した「技術性」テストを、不明確で法的根拠を持たないとして却下し、最後に第101条における分析は、方法が十分な「物理的ステップ」を有するかのどうかの決定を含まないことを明確にした。
この立場をとり、CAFCは「機械もしくは変換」基準は、方法が特許対象であるか否かを決定するためだけに用いられる限定的なテストであることを確認した。
この「機械もしくは変換」テストの適用にあたり、上訴人のクレームが機械や装置に限定されていなかったことから、CAFCはクレームがテストの「変換」部分を満たすかどうかについてのみ検討する必要があった。
テストの「変換」部分を上訴人の特許出願に適用する上で、CAFCは開示された方法は「機械もしくは変換」テストにおいて物を変換するには不十分であると判断した。
特に、出願人の方法の根底にあるビジネスリスクは、物理的な物や実体、もしくは物理的な物や実体を表すものに関するものではなかった。
CAFCは、したがって、出願人のクレームはコンピュータとの連携がない、または十分な変換ができない「単なる精神的プロセス」と結論づけた。
CAFCは上訴人のクレームは「機械もしくは変換」テストのどちらの条件も満たさないと結論づけ、クレームが特許可能な対象ではないとする決定を支持した。
この事件は、米国特許法第101条のもと、方法クレームが特許対象であるか否かを判断するためのもっとも信頼できる基準として、「機械もしくは変換」テストがCAFCにより確立されたために重要である。
CAFCは他の基準の妥当性を却下し、商品取引におけるリスク回避に関するクレームの拒絶を支持する中で「機械もしくは変換」テストを適用した。
(注1) Diamond 対 Diehr 事件, 450 U.S. 175, 185 (1981)
(注2) 409 U.S. 63, 67(1972)
(注3) 149 F.3d 1368(Fed. Cir. 1998)