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月刊The Lawyers 2008年8月号(第107回)

2. Mangosoft 対 Oracle事件

No. 2007-1250 (May 14, 2008)

- クレーム解釈の基本ルールを確認した事件 -

CAFCは、コンピュータネットワークシステムと共有メモリシステムとサービスを提供する方法とに関する米国特許第6,148,377号(以下、377特許)の特許権をオラクルが侵害していないと判断し、控訴を棄却した。

ここでの唯一の争点は、クレーム文言である「ローカル」を含むクレームの解釈であった。CAFCは、「ローカル」についての地方裁判所の解釈は特許の本質的な審査経過によって裏付けられていると判断した。

マンゴソフトは、オラクルが販売しているリアル・アプリケーション・クラスターズ(RAC)ソフトウェアが377特許の特許権を侵害しているとして、オラクルを相手に訴訟を提起した。

地方裁判所は、問題となっていたクレームの文言について分析し、オラクルが377特許の特許権を侵害していないと認定した。

「ローカル」という文言に関して、地方裁判所は「コンピュータ装置を修飾する場合の『ローカル』は、たとえばコンピュータのバスを介して、直接的に単一のコンピュータのプロセッサに取り付けられているコンピュータ装置(ハードディスクドライブなど)のことを意味する」とした(Mangosoft, Inc. 対 Oracle Corp., No. 02-CV-545, Slip or. At 20(D.N.H. 2004年9月21日))。

地方裁判所は、「ひとつのコンピュータにとって『ローカル』であるハードディスクは、ネットワーク上の他のコンピュータによって共有またはアクセスされうる」と言及し、「ローカル」メモリ装置を「共有」メモリ装置、「ネットワーク化」メモリ装置及び「遠隔」メモリ装置と区別し、「ローカル」を直接的であろうと間接的であろうと何らかの形でコンピュータにリンクされているコンピュータメモリ装置のみを要件とするように解釈するマンゴソフトの要求を斥けた。

控訴審において、マンゴソフトはフィリップス事件(Phillips 対 AWH Corp., 415 F. 3d 1303 (Fed. Cir. 2005)(全員法定))で示された考えに相反し、「ローカル」という文言の解釈はオラクルが提出した専門辞書にのみ由来しているので、地方裁判所はその文言を正しく解釈していないと主張した。CAFCはマンゴソフトの主張を受け入れなかった。

まず、CAFCは、地方裁判所の「ローカル」の解釈がクレーム文言と一致したものであることを認定した。たとえば、請求項1には、「複数のコンピュータであって、前記複数のコンピュータのそれぞれが自己に結合されたローカル不揮発性メモリ装置を含み」と書いてある。

請求項1は、それぞれローカル不揮発性メモリ装置はネットワーク上でノードを備えるコンピュータに「結合され」、「共用アドレスメモリ空間」は「前記複数のローカル不揮発性メモリ装置」を横断し、これらのコンピュータノードを通じてマッピングすることを要件としている。従って、クレームの文言そのものがマンゴソフトの文言に対する広い解釈とは一致しなかった。

発明の概要の欄に複数のローカル不揮発性メモリ装置を含むメモリ装置が記載されているように、このクレーム解釈は明細書によってサポートされている。

本質的に遠隔的なネットワークメモリ装置とは対照的に、「ローカル」装置が個々のコンピュータに直接取り付けられたものであることを、明細書、図面及びその説明が表している。

CAFCは、特許の審査経過において、地方裁判所のクレーム解釈の根拠を発見した。審査経過において、クレームに「ローカル」という限定を加えた補正の際に、マンゴソフトは、「ローカル」の文言を加えることは、ネットワーク上の個々のコンピュータと区別することを暗示していると審査官に説明していた。特に、マンゴソフトは、「ローカル(略)不揮発性メモリ装置(たとえば個々のネットワークコンピュータに取り付けられたハードディスク)が、そこへマッピングされた共用アドレスメモリ空間の一部を有すること」が先行技術には開示も示唆もされていないと審査官に主張していた。クレームはこの補正と意見に基づき特許査定されている。

最後に、CAFCは、たとえ地方裁判所の判決時にフィリップスの判例がなかったとしても、クレーム解釈は完全に本質的な審査経過と辞書に一致し、しかも裏付けもあるため、これまでの慣例に完全に適合していると結論づけた。

CAFCは、フィリップス事件で示されたクレーム解釈の手法を基本的に採用しており、マンゴソフト事件において大幅にクレーム解釈のルールを変更したり、クレーム解釈の新たな方法論を提示したりすることはなかった。

訴訟当事者と特許出願人の双方は、クレームの意味を確定するための最優先の証拠として明細書に注意を払う必要がある。また、問題となっているクレームに与えられた究極の解釈が本質的証拠に基づいている限りにおいては、特許権侵害訴訟で辞書への言及が禁じられていないことを理解すべきである。

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