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月刊The Lawyers 2008年8月号(第107回)

1. Aventis 対
Amphastar Pharmaseuticals and Teva事件

No. 2007-1280 (May 14, 2008)

- 特許出願手続きにおける不公正な行為が認定された事件 -

CAFCは、米国再発行特許第RE 38,743号(以下743特許)と米国特許第5,389,618号(以下618特許)の特許権は、不公正な行為のために行使できないとした地方裁判所の判決を維持した。

これらの特許は、アベンティス(Aventis)が登録商標Lovenoxのもとで市販している血栓症(血液凝固)を防ぐ低分子量ヘパリン(LMWH)の組成に関するものである。

また、CAFCは、アベンティスが出願手続き中に米国特許商標庁(以下、USPTO)を欺く意図を有していたと地方裁判所が判断したことについて裁量権の濫用はなかったと判断した。

743特許は618特許の再発行特許である。アベンティスは、米国内において登録商標Lovenoxを付与し、欧州内において登録商標Clexaneで医薬品を市販している。この医薬品は血液凝固を防ぐとともに、特に、リスクの高い手術中において、大量出血の可能性を最小限に抑える効果を有している。

この特許の明細書には、クレームされている組成の半減期が増加していることを示した一連の実験結果が記述されている。

618特許の審査経過では、このクレームは、欧州特許第0040144(以下144特許)に基づき新規性がないか、または、この文献から自明な発明であるとして拒絶された。

とりわけ、審査官は、クレームに記載されている分子量の範囲内に144特許も含まれ、クレームされているLMWHの組成と本質的に同一であると考えられるLMWHの組成を144特許が教示していると主張した。

これに対して、アベンティスは、明細書の実施例6は半減期の増加を示しているが、これはクレームされている組成と従来技術の組成とが構造において異なることの証拠であり、したがって、これらの組成は本質的に同一ではないと主張した。

しかしながら、アベンティスは、クレームされている組成の半減期の増加を示す例が、従来技術の組成の試験における投薬量と異なる投薬量を用いていたことを開示していなかった。その代わりに、アベンティスは、アベンティスの研究者であるアンドレ・ウザン博士の2通の宣言書を提出した。

この宣言書は、クレームされている組成を40mg投薬した場合と、従来技術の組成を不特定量投薬した場合とで統計的に顕著な相違があるという結果を示したものだった。

地方裁判所は、クレームされている組成が、従来技術の組成よりも長い半減期を有しているというアベンティスの主張は特許性を評価する材料であると認定するとともに、「異なる投薬量で半減期を比較することについて信用できる説明がないこと」をアベンティスは知り得たのであり、また、「同じ投薬量での比較においては半減期にほとんど違いがないことが示されているから」、欺く意図が強く推定されると認定した。

最終的に、重要性と意図の証拠を比較考量して、地方裁判所は、618特許の特許権は行使できないと判断した。

地裁判決に対する1回目の控訴審において、CAFCは、「特許性を判断する上で重要な」情報を公表しないことは「重要な情報の非開示に該当する」と認定したが、欺く意図について判断する前に審理を終結して、事件を地方裁判所に差し戻した。

差し戻し審において、地方裁判所は、従来技術の組成の投薬量を開示しなかったとしてアベンティスの主張を斥けた。

事実と情況を総合的に考慮して、ウザン博士の意図的な不作為がなければ、618特許は特許性が認められなかっただろうと地方裁判所は判断した。このため、地方裁判所は、618特許と743特許は不公正な行為のため特許権を行使できないという判決を下した。

2回目の控訴審では、アベンティスは、まず、半減期の比較によって意図していたのは、米国特許法第103条(非自明性)の拒絶理由を解消するために特性の相違を示すことであって、米国特許法第102条(新規性)の拒絶理由を解消するために組成の違いを示すことではなかったのであるから、従来技術の組成の投薬量を開示しなかったことは許容されるべきだと主張した。

しかし、CAFCはアベンティスのこの主張を斥けて、半減期の比較は第102条の拒絶理由を解消するために組成の相違を示すことを意図していたとする地方裁判所の判決に明らかな瑕疵はなかったと認定した。

次に、アベンティスは、様々な投薬量で半減期を比較することはLMWHの分野では標準的な手法であることを示す証拠を除外したことには、地方裁判所の判断に明らかな瑕疵があると主張した。

しかし、CAFCはこの主張も斥けて、臨床的に関連する投薬量を用いた業界の慣行に関する証拠は、半減期の比較が新規性の拒絶理由ではなく、非自明性の拒絶理由を解消するために用いられた場合にのみ、その関連性が認められると認定した。

さらに、アベンティスは、様々な投薬量で半減期を比較していることを審査官に伝えたことを示すウザン博士の宣誓書を考慮しなかったことにも、地方裁判所の判断に誤りがあると主張した。

しかし、CAFCはこの主張も斥けて、投薬量の情報が意図的に公表されなかったことを示す十分な証拠があり、出願手続き中にアベンティスが不注意による誤りを犯したことは、開示しなかったことの重要性に何ら影響を及ぼさないと判断した。

このようにして、CAFCは地方裁判所による不公正な行為の認定を維持して、743特許と618特許の特許権は行使できないという判決を下した。

レイダー判事は、少数意見の中で、不公正な行為は「詐欺および欺瞞の極端な場合」においてのみ認められるべきだと主張している。

レイダー判事は、USPTOを欺く意図の明白で説得的な証拠を認定することができなかったからである。特に、裁判所は以前よりもゆるやかな情況証拠から意図を推定するようになってきているとレイダー判事は述べている。

また、レイダー判事は、618特許が発行される前に、ウザン博士は、全ての基礎データを2回目の宣誓書と共に特許商標庁に提出して、誤りを自分で明らかにして訂正したことも主張している。

さらに、再発行の手続き中に削除された実施実施例6を除く、元の全ての独立クレームで743特許が発行されたため、「半減期のデータは特許性の判断に全く必要でない」と述べている。

本事件は、欺く意図を認定する際の不公正な行為の基準をCAFCが下げているという、最近のCAFC判決の傾向を際だたせている。

一般に、不公正な行為を主張する当事者は、重要性と欺く意図に関する各論点を明白で説得的な証拠で立証しなければならない。

不公正な行為による防御はほとんど全ての特許事件において主張されていることについて、20年前に、CAFCは「特許制度の災厄」であると述べていた(Burlington Indus. 対 Dayco Corp. 事件、849 F. 2d 1418, 1422 (fed. Cir. 1988))。

そして、キングスダウン事件(Kingsdown Med. Consultants, Ltd. 対 Hollister, Inc. 事件、863 F. 2d 867, 876(Fed. Cir. 1988)(大法廷))では、拒絶されたクレームが後に継続出願において修正されずに組み入れられた場合において、CAFCは、地方裁判所による不公正な行為の認定の維持を拒み、「不公正な行為は、特許出願手続きにおける誤り、失敗、過失の全ての場合において救済となるわけではない」と述べていた。

しかし、キングスダウン事件以降、CAFCは、不公正な行為を認定するための重要な不作為の範囲を拡大している。この傾向は本事件でも継続された。不公正な行為に関する最近のCAFC判決は、USPTOへの情報の開示に関して、特許実務家は非常に広範な手法をとるべきであることを強く示唆している。

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