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月刊The Lawyers 2008年7月号(第106回)

3. PSN Illinois, LLC 対 Ivoclar Vivadent, Inc.事件

No. 2008 WL 1946550 (May 6, 2008)

- 細書中の記載とクレームの解釈 -

PSN Illinois, LLC 対イヴォクラー(Ivoclar Vivadent, Inc.)事件において、CAFCは適切なクレーム解釈は、明細書とクレームの全体の分析を必要とする旨の考えを再び明らかにした。

PSNは、歯の陶材被覆加工方法に関する自社特許に対する非侵害の略式判決に対し控訴した。

争点のクレームに記載された最後の工程は、「前記陶材被覆復元物から前記歯像を侵食剥離し、前記復元物を前記歯に装着する準備ができているようにすること」を要件としている。

「装着の準備ができている」という文言は、明細書の中ではっきりと定義づけられていなかった。地裁は、被告であるイヴォクラーの方法は、患者の歯の上に装着される前に、被覆物に実質的な更なる最終作業が行われるものであり、「装着の準備ができている」というクレームの要件を備えないと判断した。

CAFCは、型から被覆物を取り外した後のあらゆる最終工程の実行を不当に排除したことを理由に、地裁の「装着の準備ができている」という、定義されていない文言の解釈が狭すぎると認定した。明細書中の「発明の要約」には、斜面をつけたり、研磨するといった幾つかの最終工程を、被覆物を型から取り外した後、装着前に行ってもよいことが記載されていた。

地裁は、「発明の特徴」の1つとして挙げられた明細書中の別の記載にのみ依存していた。この記載は、最後の工程が、歯像から被覆物を侵食剥離する前に行ってもよいというものであった。

CAFCは、この特徴は、1つの好適な形態にすぎないと認定した。その理由として、CAFCはひとつは「発明の要約」の中の記載と、好適な形態を記述するために用いられた許容語の「may」という記載との、相反する両方を引用した。

CAFCはまた、当業者であれば、装着前に幾つかの最終作業が行う必要がある場合であっても、被覆物は「装着の準備ができている」に該当すると理解できる、との専門家の証言を採用した。

CAFCは、Philips 対 AWH, Corp., 415 F.3d 1303, 1327(2004)事件の全員法廷の判決における、クレームはそれ単体ではなく、クレームと明細書全体の関連において解釈されなければならない、との考えを繰り返し表明した。

一般的にこれは、特許クレームが、開示されている全ての実施例を包含するように解釈されるべきであることを意味している。しかしながら、CAFCは、全てのクレームが、全ての記載された実施例をカバーするという解釈の採用については注意を促した。

CAFCの見解は、開示された実施形態は、許可されたが権利行使されていない他のクレームの範囲内にあることもあり、また、開示された実施形態は、審査の過程でクレームがキャンセルされることにより放棄され得る、というものである。

CAFCは、権利行使されていないクレームもしくは、キャンセルされたクレームは、ある実施形態が、権利行使されたクレームの範囲外であることの「証明力のある証拠」になり得ると述べた。

しかしながら、CAFCは、地裁の非侵害判決は支持した。問題となった処理は、ただの「最終」工程ではなく、更なる実質的な工程を装着前に必要としていたからである。

したがって、広義に解釈したとしても、結果として生じる被覆物は「装着の準備ができている」に該当しないとされた。

CAFCはまた、「装着の準備ができている」の要件をこのように解すると、均等論上の侵害も成立しないとした。

PSN Illinois 事件で、CAFCは特許のクレームは明細書中に開示された特定の実施形態によって不当に限定されるべきではないとの考えをあらためて表明した。

訴訟当事者及び特許出願人のどちらも、書面による発明の記載の中で、限定する文言の使用に関して注意すべきである。

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