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月刊The Lawyers 2008年7月号(第106回)

1. Zenith Electronics 対
PDI Communications事件

No. 2008 WL 1734195 (April 16, 2008)

- 黙示のライセンスが認められるための基準が示された事件 -

ゼニス(Zenith Electronics)対 PDI Communication Systems, Inc. 事件において、CAFCは、原告と製造業者との間で広範な特許ライセンスが締結されている場合、そのライセンスから黙示のライセンスが推定されることは明らかであるため、第三者の購入者による特許権侵害の成立は妨げられると判示した。

ゼニスは、リモコン装置が配線で接続されているテレビ受像機の動作方法を対象とする複数の特許を保有していた。テレビ受像機は、配線でリモコン装置と接続され、リモコン装置からのデジタル信号を利用する。

このような配線接続の装置は、無線のリモート制御システムの代わりに病院内で用いられており、「ピロー・スピーカー」として知られている。

ゼニスの発明の以前は、信号は、ピロー・スピーカーによって、三線式インタフェースを用いてアナログ信号としてテレビへ送られていた。

ゼニスの方法は、既存の三線式インタフェースを使用してデジタル信号の送信を可能にするものであり、機能性が高められるものである。

ゼニスはその特許を、デジタル・ピロー・スピーカーを製造して流通させている3つの企業にライセンスした。

これらのデジタル・ピロー・スピーカーは、ゼニスのデジタル制御コードを用いてゼニスのテレビで動作するように、特別に設計されている。

被告のPDIは、ゼニスのライセンシーからデジタル・ピロー・スピーカーを購入し、ゼニスの制御コードを使用するデジタル・ピロー・スピーカーと互換性のあるテレビを設計・販売した。

これに対して、ゼニスは、その方法に係る特許権を侵害したと主張してPDIを相手方とする訴訟を提起したのであった。

地方裁判所は、PDIに非侵害の略式判決を下し、ゼニスはこれに控訴した。この略式判決で、ゼニスがピロー・スピーカーの製造者に付与した明白なライセンスに基づいて、ゼニスはPDIに黙示のライセンスを付与したと地方裁判所は認定した。

通常、黙示のライセンスによる防御は、特許権者、あるいは、そのライセンシーが特許発明とともに使用する特許されていない製品を販売するときに認められるものである。このような場合に問題となるのは、通常、その販売が特許発明の実施をするためのライセンスをも付帯させているか否かである。

CAFCは、Met-Coil Sys. Corp. 対 Korners Unlimited, Inc.事件(803 F.2d 684, 686, Fed. Cir. 1986)において、黙示のライセンスが認められるか否かを判断するための2つの要件を特定している。

第1の要件は、販売された製品が、特許発明を侵害せずには使用できないことである。これは、組合せによる特許製品に対する独占的権利が放棄されていることの推定を認めるものである。

ここで、被告が立証する責任があるのは、特許発明を侵害しない使用態様が全く存在しないことである。一方、第2の要件は、販売状況から、ライセンスの付与を推定すべきであることが明らかなことである。

CAFCは、ゼニスはPDIに対してその技術を使用するための黙示のライセンスを付与したと認定した地方裁判所の判決を維持した。そして、ピロー・スピーカーは特許権を侵害しない使用が可能であるというゼニスの主張を、CAFCは、本件の審理に無関係であるとして認めなかった。

CAFCは、Jacobs 対 Nintendo of Am., Inc. 事件(370 F.3d 1097, 1102, Fed. Cir. 2004 以下、任天堂事件)の当裁判所の判決を引用した。

CAFCは、この事件では、任天堂に傾きを検知する部品を販売した会社に対して制限のないライセンスを付与したことによって、特許されている傾きを検知するテレビゲームのコントローラを使用するための黙示のライセンスが原告から任天堂に付与されていると認定している。

任天堂事件では、CAFCは、傾きを検知する部品について特許権を侵害しない何らかの使用が存在するかどうかについては検討せずに、ライセンスの条項を参照しただけであった。

ゼニス事件では、さらに、ゼニスとライセンシーとの間に締結されたライセンス合意書は、ゼニスの特許権を侵害するような態様で使用されるピロー・スピーカーのシステムの販売を製造業者に対して許可しているともCAFCは認定した。

製造業者に対するゼニスのライセンスの条項は、製造業者が「任意のピロー・スピーカー・ユニットを製造し、使用し、販売し、あるいは、破棄すること、・・・、(ゼニスの特許権の)範囲に含まれるピロー・スピーカー・ユニットを製造業者が使用または販売すること」を許可している。

このライセンスは、ピロー・スピーカーはゼニスのテレビとともに使用するためにだけ販売することができるという明白な放棄条項を含んでいないため、CAFCは、これは制限された販売であるというゼニスの主張を認めなかった。

本事件は2つの理由で注目すべきである。1つ目の理由は、第1の要件に全く触れず、初期の販売の状況にのみ注目して、黙示のライセンスによる防御に係る従来の基準を修正した2回目のCAFC判決であることである。

このことは、将来の事件においても、裁判所は販売の条項のみに注目し続けることを示唆している。このようにして、CAFCは、第1販売の法理と呼ばれる(特許消尽論と呼ばれることもある)公平の法理を適用することによって導くことができていた結論と同じ結論を導いたのであった。

第1販売の法理は、商品が制限なく販売されたあとの、特許されている商品に対する特許権者の支配を制限するものである。

CAFCは、LG Electronics, Inc. 対 Bizcom Electronics, Inc.事件(453 F.3d 1364, 1369, Fed. Cir. 2006)において、第1販売の法理は方法の使用に係る特許には適用されないことを判示した。

しかし、本事件においては、ゼニスの特許権を侵害したと考えうるのは、被告による、ピロー・スピーカーの使用であるから、CAFCは、ゼニスの方法特許に対して、第1販売の法理を事実上拡張している。

2つ目の理由は、ピロー・スピーカーの製造業者に対するライセンスが明白な制限を含んでいた場合にゼニスは勝訴できたか否かの問題について、CAFCは判断を示さなかったことである。

CAFCは、ライセンス中にそのような制限が存在した場合は、ライセンスの範囲を制限するゼニスの意図の証拠となったであろうと言及したにすぎなかった。

なお、この問題は、Quanta Computer 対 LG Electronics 事件(453 F.3d 1364, Fed. Cir. 2006, cert. granted, 128 S. Ct. 28, Sept. 25, 2007, No. 06-937以下、Quanta 事件)において、現在、合衆国最高裁判所で係争中である。

カンタ(Quanta)事件では、LGとそのライセンシーのインテルとの間における明白な使用の制限によって、インテルから製品を購入した第三者から特許発明の実施料を受け取る権利がLGに認められうるか否かについて、最高裁判所が判断を示すとみられている。

地方裁判所は、第1販売の法理を適用して、第三者の購入者であるカンタに対してその主張を認める略式判決を下している。

しかし、CAFCはこの判決を覆し、当事者がライセンスを明白に制限しているときは、当事者はより制限された実施料についても交渉していると推定すべきであり、第1販売の法理は適用すべきではないと判示した。

このCAFC判決が最高裁判所によって覆されるならば、特許のライセンス方法に大きなインパクトを与えるだろう。

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