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月刊The Lawyers 2008年6月号(第105回)

1. Amgen, Inc. 対
International Trade Commission事件

Nos. 2007-1014, 2008 WL 724242 (March 19, 2008)

- 第271条(e)(1)のセーフ・ハーバーの規定が適用される範囲が示された事件 -

アムジェン(Amgen, Inc.)対 ITC(International Trade Commission、米国国際貿易委員会)事件では、医薬品を販売するための認可をFDA(Food and Drug Administration、食品医薬品局)から得るために必要とされる情報と合理的に関連性のある試験において特許医薬品が用いられる場合、合衆国内で特許されている製法により外国で製造された特許医薬品を合衆国内へ輸入することをITCは差し止めることはできないと、CAFCの合議体は過半数で決定した。

このような判決を下す際に、CAFCは、まず、米国特許法第271条(e)(1)のいわゆる「セーフ・ハーバー(安全地帯、すなわち免責)」の規定を、製法特許の特許権侵害に係るITCによる分析に適用した。さらに、CAFCは米国特許法第271条(e)(1)の規定が適用される範囲それ自体についてより一般的に考察した。

アムジェンは、特許された製法を用いてロシュ(Roche)が国外で製造したとされる、遺伝子組み換え型エリスロポエチン(EPO)とその派生物の合衆国内への輸入をITCが差し止めることを求めて、訴訟を提起した。

アムジェンは、特許されている製法によって海外で製造されたEPOを輸入することは、関税法の第337条に違反すると主張した。

これに対し、ロシュは、米国特許法第271条(e)(1)の適用により、輸入EPOは特許権侵害から免除されると主張して、非侵害の略式判決を求めた。

ここで、米国特許法第271条(e)(1)は、「医薬品の製造、使用、または、販売を規制する連邦法に基づき、開発と情報の提供に合理的に関連する場合にのみ使用されること」の条項により、侵害の責任からの「セーフ・ハーバー」を規定している。

輸入されたEPOは、合衆国内でEPOを販売するための規制認可を得るためにFDAへ提出することが必要な情報と合理的に関連する試験のために使用されており、それゆえ当該EPOは米国特許法第271条(e)(1)の規定により特許権侵害から免除されると、ロシュは主張した。

これに対して、たとえ第271条(e)(1)の免除規定が地方裁判所の訴訟で第271条(g)の侵害に対する防御として適用されたとしても、ITCで審理される事件における製法特許の特許権侵害には適用されないとの理屈で、アムジェンはこれに対して反論した(米国特許法第271条(g)は、合衆国の製法特許を用いて外国で製造された製品を合衆国内へ輸入することは、2つの例外を除いて、侵害に該当することを規定している)。

アムジェンは、第1に、「1988年に第25章に第271条(g)を追加する際に、連邦議会は、『この条項による修正によって、1930年関税法の第337条における任意の救済手段を特許権者から剥奪することはできない(1930年関税法の第337条の規定によりITCは救済を行う)』と明言した」と主張した。

第2に、Kinik 対 United States International Trade Commission事件(362 F.3d 1359, Fed. Cir. 2004)のCAFC判決では、第271条(g)の侵害の例外は、地方裁判所には適用されるが、ITCで審理される事件には適用されないと判示したが、その判決は、関税法における製法特許の特許権侵害は、第271条(e)(1)の「セーフ・ハーバー」の規定に影響されないことを確認するものであるとアムジェンは主張した。

第3に、アムジェンは、第271条(e)(1)の文言は「特許された発明(patented invention)」の輸入についてのみ(特許権侵害からの)免除を認めているが、特許発明を使用して外国で製造された製品の輸入については認めていないと主張した。

ITCはアムジェンの主張を拒絶し、CAFCの過半数もこれに合意した。

CAFCの過半数は第271条(g)の立法過程を引用して、当該条文の制定時には、合衆国内で特許された製法により製造された製品を第271条(e)(1)のセーフ・ハーバーの範囲内で使用するために輸入することにまで、(第271条(g)が)及ぶことは意図されていなかった旨が上院の報告に記載されており、「所定の行為は特許権侵害を構成せず、当該法律は過去に決定された法目的を変更するものではないことが、以前、連邦議会において決定された」と判断した。

さらに、Merck KgaA 対 Integra Lifesciences I, Ltd. 事件(545 U.S. 193, 2005以下、メルク事件)とEli Lilly & Co. 対 Medtronic, Inc. 事件(496 U.S. 661, 1990以下、イーライリリー事件)において、最高裁判所がこれを「広範に言及された連邦議会の法目的(broadly stated congressional policy)」と明言したことをCAFCは指摘した。

なお、メルク事件では、「(第271条(e)(1)の範囲に含まれる)規制行為の免除は妨げられないことを連邦議会は意図していたと説明」しており、また、イーライリリー事件では、第271条(e)(1)は医薬品と獣医学上の製品についてしか規定していないが、当該規定が医学上の装置にまで拡張されている。

さらに、「メルク事件とイーライリリー事件の両方において、医薬製品の連邦上の規制認可を進める上での特許に基づく障壁を除去するという連邦議会の目的が、最高裁判所によって強調された。

このような判例における目的と適用によれば、侵害訴訟が地方裁判所でなされたか、あるいは、ITCでなされたかによって、第271条(e)(1)の免除を選択的に認めたり認めなかったりすべきではない」このようにして、ITCで審理される事件においてもセーフ・ハーバーの規定は製法特許に適用されるとしたITCの判決を、CAFCは維持したのであった。

ただし、FDAによる申請認可日の前にロシュが行った全ての試験が第271条(e)(1)のもとで(特許権侵害から)免除されるとしたITCの承認は適正ではなかったと判示して、CAFCは、本事件をITCに差し戻した。

ロシュに対して訴訟を提起する時までに、ロシュの合衆国内における関心が、規制認可に関する試験から、侵害の分析や、市場開拓の試行、訴訟に関係した行動に関する試験へと移っていったとアムジェンは主張していた。

そして、アムジェンは、このような行為は第271条(e)(1)の免除の適用を受けるのにふさわしくないと主張していた。

それにもかかわらず、ITCは、ロシュがFDAに申請をした後のロシュの行為についてのアムジェンの主張を否定し、FDAがそれを承認する前はこれらの行為は免除されると判断した。CAFCは、次のように述べて、これは誤りであると合意したのであった。

「連邦認可の申請が完了した後に使用されたものも含めて、ITCの行政裁判官は、輸入されたEPOの全てが特許権侵害から免除されると判断した。しかし、メルク事件では、免除することを主張された全てのすべての研究について別個の調査が必要であるとして、最高裁判所は、免除に対して注意深い境界を設定した」

このようにして、CAFCは、「疑義が合理的に想起される各研究の免除の状態について検討するために」、本事件をITCに差し戻した。

CAFCは、さらに、医薬品の販売がFDAの認可のために切迫しているが、販売または販売の申し出はまだ行われていない事件の裁判管轄権をITCは有していないとしたITCの判決にも誤りがあると認定した。

また、CAFCは、CAFCとITCの裁判例を指摘して、ITCは不公正な行為をその初期段階で防止することが委任されており、また、市場の後発医薬品へ適用する状況で、特許権侵害が直近かつ現実に行われることが明らかであるが、まだ行われていない場合に、確認判決の裁判管轄権は地方裁判所に長く付与されていると指摘した。

基本的には、ITCの「任務は、特許権侵害をもたらす不公正な行為を防止および是正することであり、あらゆる種類の不公正な慣習を防止するのに十分なほどその範囲は広いものである」と、CAFCは言及した。

したがって、「特許権侵害行為が合理的に発生しそうであることが示されたならば、ITCの責務と権能は適正に実施される」

本事件で強調すべきことは、医薬品を市場に持ち込むことを奨励するような特許法の解釈を支持する政策が、CAFCから強く表明されたことである。

ITCで審理される製法特許に係る訴訟に第271条(e)(1)のセーフ・ハーバーの規定が適用されることと、ITCはそのような事件を遡及的に(すなわち、医薬品の販売または販売の申し出の前にまで遡って)審理できることがCAFCで判示されたことによって、特許権者にとって、ITCでの救済が地方裁判所のものより低くなったことが明らかになった。

このため、革新的な製薬会社は、ITCでの救済をあまり期待できないと思うであろう。しかし、同時に、この免除には制限があり、規制情報の提出に関係しない行為は、実際には、特許権侵害から免除されないこともCAFCによって強調された。

なお、リン(Linn)判事は、過半数が支持した、ITCにおいてセーフ・ハーバーの例外が製法特許の行為に適用される点に反対意見を述べている。

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