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月刊The Lawyers 2008年4月号(第103回)

3. Monsanto Co. 対 Bayer Bioscience N.V.事件

No. 2007-1109 (January 25, 2008)

- 内部メモであっても、米国特許庁へ開示しなければ
不公正行為と認定される場合があることが示された事件 -

モンサント社(Monsanto Co.)対ベイヤー社(Bayer Bioscience N.V.)事件において、CAFCの合議体は、ベイヤーの米国特許第5,545,565号(以下、565特許)は不公正な行為のため権利行使不能であると判断したミズーリ州東部地区の米国地方裁判所の判決を維持するとともに、ベイヤーの米国特許第5,767,372号(以下、372特許、米国特許第6,107,546号(以下、546特許)、並びに、米国特許第5,254,799号(以下、799特許)は、不公正な行為のため権利行使不能であると宣言する権限を地方裁判所は有している旨の判決をした。

本件は、「植物DNAに」バチルス・チューリンゲンシス(以下、Bt)の遺伝子を挿入することに関するベイヤーの4つの特許ファミリーを主題とするものであり、Btは植物のDNAに対する穀物の害虫のあるものに対して毒性を示す。

このようにするために、植物はBt毒性のタンパク質を生成することで、その植物を害虫に対して耐えられるようにする。モンサントは、ベイヤーの特許がクレームしているアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を有するBt毒素を作り出す遺伝子組み換えトウモロコシ製品を販売している。

2000年の12月にモンサントはミズーリ州東部地区で確認訴訟を提起して、ベイヤーの4つの特許についてモンサントは特許権侵害をしておらず、また、これらの特許は無効であり権利行使不能であることの確認判決を求めた。

これに対して、ベイヤーは、4つの特許に係る特許権侵害を主張して反訴した。

地方裁判所は当初、4つの特許は全て不公正な行為のために特許権を行使できず、あるクレームは無効であり、585特許は侵害されていないという略式判決をモンサントに対して行った。

ベイヤーはその判決についてCAFCに控訴し、CAFCは未解決の重要な問題があるとして、その判決を覆して差し戻した。

差し戻し審において、ベイヤーはモンサントが799特許、372特許、及び、546特許を侵害したという主張をすべて取り下げ、これらの特許について法的責任が無い旨の陳述書を提出した。

585特許の残りのクレームについては事実審へ移行し、そこでは585特許の主張されているクレームは侵害されておらず、自明性違反と新規性違反で無効であると、陪審は認定した。

これに続いて、地方裁判所は不公正な行為について非陪審審理を行い、不公正な行為を認定して585特許は権利行使不能であると判示し、かつ、799特許、372特許、および、546特許の審査経過においても不公正な行為を認定し、これによりこれらの特許も権利行使不能であると判示した。

ベイヤーは陪審の評決と地方裁判所の判決の両方に対して控訴し、特に、不公正な行為のため585特許は権利行使不能であるとした地方裁判所の認定には誤りがあることと、地方裁判所には799特許、372特許、および、546特許は権利行使不能であると認定する権限はないこと等を主張した。

CAFCの合議体は、重要性と欺く意図の判断基準に、明白な誤りの基準を適用して、地方裁判所がした585特許についての不公正な行為の認定を維持し、ベイヤーは、この裁量判断について異議を申立ててはいないと述べた。

ここでの不公正な行為の根拠は、585特許の審査経過中に行われた1985年の科学会議でウェイン・バーンズ博士が発表した表示ポスターの内容だった。

このポスター上で、バーンズ博士は、虫害抵抗性を有する植物を生産するときのBt毒性の遺伝子に関する研究結果の、概要と詳細な説明を発表した。

585特許の審査経過中にベイヤーは概要の部分を開示したが、他の知見は開示しなかった。

ベイヤーの従業員のセレスタナ・マリアニ博士はその会議に出席し、バーンズのポスターの詳細なメモをとった。そして、ベイヤーの従業員の間でこのメモのことを広く伝え、585特許の発明者のメウラマン博士とこのメモについて長時間にわたって話をした。

585特許の審査経過において、審査官ははじめ、バーンズのポスターを含む様々な先行技術から自明であるとして、585特許を拒絶した。

これに対して、ベイヤーはバーンズのポスターの内容が不完全であり実現不可能であると特徴づけた意見書を提出し、最終的に審査官はそれに納得して585特許は許可された。

しかし、事実審において、地方裁判所がポスターに現れていたバーンズ博士の研究結果の内容を説明する証言をマリアニ博士から聴聞したところ、その証言は米国特許庁の前にベイヤーがしていた主張と「著しい対照」をなしており、それらが両立することは困難であると地方裁判所は認定した。

CAFCの合議体は、これらの認定は不公正な行為の重要性の要件を満たすものであると認定した。

さらに、ベイヤーはバーンズ博士が開示した研究結果の実際の内容を伏せておいたことと、審査官の拒絶理由を解消する目的でその内容を実質的に誤って述べたということが記録に示されているため、欺く意図に関する地方裁判所の認定に誤りはなかったとCAFCの合議体は認定した。

結果として、CAFCの合議体は、585特許は不公正な行為のため権利行使不能であるとした地方裁判所の判決を維持した。

次に、ベイヤーは、モンサントが799特許、372特許、および、546特許を侵害したという全ての主張を取り下げ、これらについて法的責任が無い旨の陳述書を提出したが、799特許、372特許、および、546特許は権利行使不能であるという判決を下す権限を地方裁判所は有しているとCAFCの合議体は判示した。

合議体は、たとえそのようなステップによって裁判権が剥奪されうるとしても、モンサントが弁護士費用を請求したことによって地方裁判所は独立した裁判権を有していると判示した。

CAFCの合議体は、米国特許庁での不公正な行為を示すことによって、弁護士費用に値する、例外的な状況の存在を勝訴当事者は証明することができると説明した。

特許ファミリー中の1以上の特許についてした不公正な行為が関連出願に影響を及ぼすことはあり得るのであり、また、地方裁判所がこれらの特許を分析して585特許について不公正な行為が存在したか否かを判断したのであるから、799特許、372特許、及び、546特許は権利行使不能であるという判決を下す権限を地方裁判所は保持していることは疑い得ないとCAFCは判示した。

本件では、米国特許庁に対して発明者がした議論と内部メモが矛盾する場合や、発明と大いに関係のある第三者の公の開示をメモが記載している場合は、発明者は米国特許庁に対して内部メモを開示しなければならないことが示された。

この開示をしないと不公正な行為という理由で、特許が権利行使不能になってしまうかもしれない。また、本事件では、「同じ特許ファミリーの中の特許が権利行使不能」な場合は、たとえそのうちのいくつかが事件から取り下げされた場合であっても、相手方当事者が弁護士費用を求めているならば、地方裁判所は権利行使不能の判決を下すことができることも示された。

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