1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2008年
  4. 2. Innogenetics, N.V. 対 Abbott Laboratories事件

月刊The Lawyers 2008年4月号(第103回)

2. Innogenetics, N.V. 対
Abbott Laboratories事件

Nos. 2007-1145 (January 17, 2008), 512 F.3d 1363 (Fed. Cir. 2008)

- クレーム中の単語の意味の解釈に関する事件 -

インノゲネティクス社(Innogenetics, N.V. )対アボット社(Abbott Laboratories)事件においてCAFCの合議体は、インノゲネティクスの米国特許第5,846,704号(以下、704特許)の第1クレームは、米国特許第5,580,718号(以下、Resnick 特許)に対して有効であると判断したウィスコンシン州西地区地方裁判所の法律問題としての判決を破棄して差し戻した。

さらに、アボットに対する恒久的差し止め判決を破棄し、また、アボットによる控訴において挙げられた数々の他の争点に関する下級裁判所の判決を支持した。

704特許のクレームは、C型肝炎ウィルス(HCV)の遺伝子型を、HCVゲノムの5つの重要な非翻訳領域(以下、5UTR)の中に発見することができる、個々の遺伝子配列を検出することによって特定する方法をクレームしている。

その方法は、具体的には5UTR中の標的配列に核酸の短鎖を掛け合わせて、核酸の鎖と5URTとの間に形成された錯体を検出する、というものである。

インノゲネティクス社は、アボットが、明確に核酸の短鎖を5UTRに掛け合わせる遺伝子特定検査キットを使用したことは、特許侵害であると考えアボットを提訴した。

アボットのキットは、ポリメラーゼ酵素が形成された錯体を破壊した後で、色素分子が放出され、花の形状に観察することができる、リアルタイム・ポリメラーゼ連鎖反応を使用することによって複合体形成の結果を検出する。

CAFC合議体はまず、704特許のクレーム1に関する地方裁判所のクレーム解釈を審理した。地方裁判所は、「形成されたものとして複合体を検出する」ことは、「形成されている、もしくはすでに形成された複合体を検出する」ことを意味すると解釈した。

この解釈に従い、アボットは、自身の非侵害の主張は全て、別の解釈に基づいていた、と述べて侵害を認めた。

次に、地方裁判所は、704特許のクレーム1の文言上の侵害について法律問題としての判決に入った。

控訴審において、アボットは、「形成されたものとして複合体を検出する」という、その「〜として(as)」という文言が、その複合体の形成と同時に検出されることを包含することにクレームを限定すると主張して、地方裁判所がクレーム中の「〜として(as)」という文言を不適切に解釈したと主張した。

アボットは更に、自社のキットは複合体が破壊された後で色素分子が花の形状に放出されるので、特許侵害していないと主張した。

CAFC合議体はこれを認めず、地方裁判所のより拡張的な解釈を支持して、クレームから1つの単語を、残りの文章の文脈から切り離して解釈する場合、クレームでの意味ではなく、その単語の抽象的な意味を審理することになると判示した。

合議体は、明細書中のサポート及び裁判における専門家証言を引用して、クレームは複合体形成の検出を包含するものであり、必ずしも複合体自体の検出をカバーするものではないと判示した。

CAFC合議体は、アボットが自明性による704特許の無効を立証するために提出した証拠を限定し、審理を制限した地方裁判所の決定には、問題が無いと決定した。

アボットは、自明性の争点において、パターソン博士の証言を除外した事実審裁判所の判決は明らかな誤りであると主張した。

パターソン博士の自明性に関する2つの専門家報告のいずれも証言のサポートとして不十分であるという事実に言及し、CAFCの合議体はアボットの主張を認めなかった。

具体的には、第一のレポートには、単に先行技術の数を挙げただけで何ら明確な理由を述べておらず、当業者にとって704特許に述べられている遺伝子型特定方法は自明である、という「決り文句」で結論付けていたからである。

第二のレポートは、このような補足的なレポートの提出は裁判所の判例に違反すると思われると述べた。したがって、CAFC合議体は、地方裁判所が自明性を理由とする特許無効に関するパターソン博士の証言を証拠から除外したことは、裁量権の乱用には当たらないと判示した。

同様に、CAFC合議体は、地方裁判所が、新規性による704特許無効を示すためにアボットが提出した証拠を限定し、審理をしなかったことも、裁量権の乱用ではないと判示した。

アボットは、地方裁判所が米国特許第6,071,693号(以下、693特許)を不当に証拠から除外し、693特許の発明者であるチャ博士の証言を、彼のPCT出願に含まれていた実際の文言と内容に不当に限定したと主張した。

CAFC合議体は、地方裁判所が、開示手続期間の最終日にアボットが提出した693特許を除外したことは裁量権の乱用ではないと判示し、開示手続期間の最終日に特許を開示することは、手続的には不当ではないが、このような開示は裁判開始前の証言録取の妨げとなることから、裁判所がこれを除外することは裁量権を超えるものではないと述べた。

さらに、アボットはチャ博士の証言を「事実」として開示したに過ぎず、PCT出願の内容を超えていることをチャ博士が立証するといった、専門知識に基づいた専門家証言を提出していなかったことを理由に、裁判においてチャ博士の証言を制限したことは裁量権の乱用ではない、と判示した。

最後に、CAFC合議体は、代表的な最近の判例である、In re Seagate Tech., LLC., 497 F.3d 1371, 1371 (Fed.Cir. 2007) を引用し、下級裁判所による故意侵害なしの法律問題としての判決を支持した。

この判例では、過去の基準を覆し、故意侵害の認定には少なくとも客観的な無謀を示す証拠が必要であると判示した。

この基準によれば、特許権者はまず、侵害者がその行為が有効な特許への侵害行為となる客観的に高い可能性が有るにもかかわらず行ったという、明瞭かつ説得力の有る証拠を示さなければならない(同判決)。

次に、客観的に明らかなリスクを侵害被疑者が知っていた、もしくは知っていたはずであることが明らかであることを示さなければならない(同判決)。

記録を審査した後で、CAFCは、このテストの第一の部分は該当しないが、証拠は、アボットの開発及び製品の販売行為は、客観的に高い侵害の可能性のリスクがあることを示してはいなかったと判示した。

こうして、CAFCは地方裁判所による故意侵害なしの法律問題の判決を支持した。

本件は、クレーム解釈において、単語はクレームの残りの文章の文脈の範囲内で解釈すべきであるが、そうしない場合にはクレームでの意味ではなく、その単語の抽象的な意味を審理することになることを示した。

最後に、本件は、故意侵害の立証には、侵害者が、特許の侵害を構成する行為であるという客観的に高い可能性があるにもかかわらずその行為を行った、という明瞭かつ説得力の有る証拠が必要であるという過去の判決を再確認した事件である。

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2008年
  4. 2. Innogenetics, N.V. 対 Abbott Laboratories事件

ページ上部へ