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月刊The Lawyers 2008年4月号(第103回)

1. Sinorgchem Co., Shandong 対
ITC & Flexsys America L.P., Inc.事件

Nos. 2006-1633 (December 21, 2007), 511 F.3d 1132 (Fed. Cir. 2007)

- クレームの文言解釈において、明細書中の定義記載を優先させた事件 -

シノルチェム(Sinorgchem Co., Shandong)対 ITC(ITC & Flexsys America L.P.)事件において、CAFC合議体の3名は、シノルチェムがフレキシス(Flexsys America L.P.)の特許を侵害していると認定した国際貿易委員会(ITC)の決定を取り消した。

シノルチェムは、環境を原因とするタイヤの劣化を抑制するゴム用の劣化防止剤で、6PPDとして知られる化合物を製造している。

フレキシスは、米国特許第5,117,063号(以下、063特許)と米国特許第5,608,111号(以下、111特許)の侵害及び、063特許と111特許に開示されている製法で製造された製品の輸入により、1930年関税法第337条a、1、B違反を主張して、シノルチェムをITCに訴えた。

この行政手続きにおいて、当事者間ではプロトン性原料の「制御された量」という文言の解釈が問題となった。

シノルチェムは、「アリニンが溶剤であるときに、反応化合物において約4%以下の水」を意味すると解釈し、その製法は4%以上の水を使用するため、プロトン性原料の「制御された量」は用いていないと主張した。

フレキシスは、「制御された量」とは「最大値と最小値の間で制御されるプロトン性原料の量」であることを意味しており、最大値では「ニトロベンゼンとアリニンの反応が抑制される量を超える量」であり、最小値では「4-ADPA中間体に対する所望の選択性を保つことができない量を下回る量」であると主張した。

フレキシスの解釈によると、シノルチェムの製法は侵害する。行政法審判官(以下、ALJ)は、フレキシスの解釈を認め、シノルチェムの製法はクレームを侵害していると結論をくだした。

ALJの決定に対するITC内の上級審において、ITCは明細書を基に、「制御された量」とは、「アリニンとニトロベンゼンとの反応を抑制する(プロトン性原料の)最大量」と解釈し、シノルチェムの侵害を認定した。

CAFCにおける裁判段階で、当事者は「制御された量」の文言の意味について盛んに議論をしたが、合議体の多数意見の判決では、その文言が業界で広く受け入れられている意味を持たないことを当事者が認めていることに注目した。

そして合議体の多数意見は、特許権者が自ら文言の意味を定義づけているかどうかを確かめるために明細書に目を向け、特許にはプロトン性原料の「制御された量」は「アリニンとニトロベンゼンとの反応を抑制する最大量、例えばアリニンが溶剤として使用されるときに、反応化合物の量に基づく約4%以下の水」であると記述されていることに着目した。

CAFCは、明細書において特許権者は「制御された量」のところに引用句を付け、後に出るその記載が、その定義であることを強調している記載であると言及し、また、明細書中の単語『is』の使用は、特許権者が自ら文言の定義づけを行っていることを示唆するという考えを強調した。

CAFCは更に、ITCの見解とは異なり、アリニンが溶剤であるときに、「例えばアリニンが溶剤として使用されるときに、反応化合物の量に基づき約4%以下の水」という記載は、はっきりと定義されているとした。

この解釈は明細書中の実施例を除外するものであり、通常CAFCは明細書中に開示された実施例を除外してクレーム文言を解釈しないが、合議体の多数意見は、本件でのこの解釈では、2つの明細書中にあった21の「好適な実施例」中の1つを除外したに過ぎないとした。

このようなケースにおいて、CAFCは、曖昧な文言により矛盾している実施例を除外してクレームを解釈してきた。

CAFCは「制御された量」の正しいクレーム解釈は、「アリニンとニトロベンゼンとの反応を抑制する最大量、例えばアリニンが溶剤として使用されるときに、反応化合物の量に基づき約4%以下の水」であると結論づけた。

この解釈に基づき、CAFCは、シノルチェムは文言上の侵害はないと判断し、シノルチェムが均等論上の侵害をしているか否かの判断については、ITCに差し戻した。

反対意見として、ニューマン判事は、合議体の多数意見の決定はクレーム解釈のルールに反していると主張した。特に、ニューマン判事は合議体の多数派が引用した事件を分析し、ニューマン判事の見解として、それらがどのようにITCの考えを裏付けるか説明した。

ニューマン判事は、合議体の多数意見が、「明細書中の開示と発明の分野における知識とが整合しないという理由でクレームされた発明の範囲を独断で限定し、矛盾と予測不可能性を与えた」と結論付けた。

この事件は、クレーム解釈において、引用句や『is』という単語のような、明細書中における文法的表現の使用は、特許権者が文言を定義づけ、辞書編集者の役目を果たしていることを裁判所に示すことを明らかにした。

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