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月刊The Lawyers 2008年1月号(第100回)

2. Paise LLC 対 Toyota Motor Corp., et al.事件

Nos. 2006-1610, -1631 (October 18, 2007)

- 裁判所が差止請求に代えて強制的実施権を認めることの可否 -

ペイス(Paice LLC)対トヨタ(Toyota Motor Corp., et al)事件において、トヨタが米国特許第5,343,970号(以下、970特許)のクレームを均等論の適用により侵害すると判断したテキサス州東地区地方裁判所の判決を不服として、トヨタはCAFCに控訴した。

ペイスもまた、トヨタの製品が複数の特許を文言上侵害しているとしてこの判決に対して控訴し、トヨタによる侵害製品の製造の継続を可能にするロイヤリティ契約命令に対して反論した。

ペイスは970特許の特許権者であり、同様に米国特許第6,209,672号(以下、672特許)及び米国特許第6,554,088号(以下、088特許)の特許権者でもある。

これら3つの特許は、ハイブリッド電気自動車の動力伝達装置に関連するものである。

ハイブリッド車では、内燃機関、電気モータ、もしくはそれらの組合せによって供給されるトルクを用いて車輪が駆動する。970特許では、エンジンとモータの分配トルクを制御若しくは合成するマイクロプロセッサ及びトルク伝達制御ユニット(CTTU)が開示されている。

672特許と088特許は、分配トルクの合成に、CTTUとは異なり、クラッチを用いたものである。

トヨタは第一号となる商業用ハイブリッド車プリウス1の販売を1997年に開始し、新型のプリウス2の販売を2003年に開始した。

プリウス2の動力伝動装置はペイスの3つの特許に開示されている装置と類似している。ペイスは2004年6月にトヨタに対し訴訟を起こした。

陪審員の一人はトヨタの製品が970特許の2つのクレームを侵害していると認め、ペイスに対し426万9950ドルのロイヤリティを支払うように裁定を下した。

ペイスはトヨタが米国で侵害装置が搭載された車を製造、販売できないように永久的な差し止め命令を要求した。

地方裁判所は、差し止め請求が適当ではないと認定したeBay, Inc. 対 MercExchange, L.L.C.事件126S.Ct.1837(2006)における4つのファクターによるテストを採用した。

eBay事件では、回復不能な損害をこうむったこと、金銭的損害等の法的賠償では不十分であること、当事者の困難性のバランスから衡平の原則による救済が望ましいこと、及び永久的な差止め命令が公益を害さないものであることの原告の立証責任が指摘された。

地裁はペイスの差止請求を棄却したが、特許の権利期間の間、販売したすべての侵害自動車1台につき25ドルのロイヤリティの支払いをトヨタに命じた。

CAFCは、均等論上の侵害はあるが、文言上の侵害はなしとした陪審員の認定を支持した。次にCAFCは、トヨタが販売した侵害自動車1台につき25ドルのロイヤリティの支払命令に対するペイスの反論を審理した。

ペイスは裁判所がロイヤリティを強いる権限はないとし、陪審裁判がロイヤリティの額を決定する権利はないと主張した。

米国特許法第283条では「本法に基づく訴訟について管轄権を有する裁判所は、特許により付与された権利侵害を防止するため、衡平の原則に従って、裁判所が合理的と認める条件に基づいて差止命令を下すことができる」としている。

問題は、ロイヤルティを設定することで発明の使用を認めることが、特許権の性質に抵触しないかどうかということである。

CAFCは、ある状況下においてロイヤリティは差止め命令より適切であるとし、それは救済の道理にかなった形であり、効果的な救済策であると判断した。

CAFCは永久的な差止め命令が適切な救済策ではない多くの場合において、裁判所は当事者に和解の交渉を認め、もし合意に至らなかったときに限りロイヤリティを課す場合があると言及した。

今回の場合では、裁判所は侵害する自動車1台につき25ドルという金額のロイヤリティを何の裏付けなしに命じた。その結果、CAFCはロイヤリティの額についての再評価を目的として、地裁に差し戻した。

ペイス事件は、特許侵害訴訟において、特許権者の権利を侵犯することなく、ロイヤリティを課すこと、つまりその特許権に対して強制的実施権を設定する場合があることを示した事件である。しかし、裁判所はロイヤリティの額を決定するにあたって、経済的要因を考慮する必要がある。

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