月刊The Lawyers 2007年12月号(第99回)
3. GP Indus., Inc. 対 Eran Indus., Inc.事件
No. 2007-1087 (September 20, 2007)
- 特許権侵害を警告するための警告状を
第三者に送付することを差し止めるための基準が示された事件 -
GPインダストリー(GP Indus.、以下、GPI)事件において、CAFCは、特許権者のエラン(Eran)社が、競合企業の樋の覆いがエラン社の特許権を侵害していると顧客に通知することを禁止すべきという仮差止命令を覆し、仮差止を命令するにあたり、地方裁判所は裁量権を濫用したことを理由に下級裁判所判決を覆したのであった。
エラン社は雨樋の覆いに関する米国特許の特許権者である。GPI社は、過去にエラン社の従業員であった者によって創設された競合企業である。GPI社は樋の覆いを開発して販売している。
先制攻撃として、エラン社は、その卸売業者及び契約者に対して、GPI社がエラン社の特許権を侵害した競業製品の販売を計画していると説明した書面を送付した。
地方裁判所はエラン社に対し仮差止命令を発行した。控訴をする際に、エラン社は、エラン社の主張が客観的に根拠のないものであるのか否かを地方裁判所は斟酌しなかったため、不誠実(bad faith)についての適切な法的基準を地方裁判所が採用しなかったと主張した。
はじめに、CAFCは差止命令による救済を受けるための基準を示した。これによれば差し止めを請求する者は、(1)差し止めにより得られる利益についての合理的な見込み、(2)回復不能な損害、(3)差し止めが認められたときに発生する不利益のバランス、及び、(4)差し止めに賛成する公衆の関心を示さなければならない。
CAFCは、誰かの特許権について第三者に通知することを差し止めることはまれであると述べた。
CAFCの見解は「これは権利侵害に対する差し止め請求を認容するか棄却するかということではなく、通知することに対して差し止め請求を認容するか棄却するかということであり、はるかに重要な問題である」というものだった。
「人は自分の特許権について第三者に知らせることのできる権利を有しているため、通知を差し止めることは、例外的な状況においてのみ注意深く使用されなければならない強い薬(strong medicine)である」
原則として、通知が不誠実に行われない限り、特許権者は、特許権の潜在的な侵害者と潜在的な侵害行為を知らせる権利を有している。
「不誠実」には、主観的要件と客観的要件が含まれうる。特許権者が特許権侵害を主張して不法行為に関与したと主張する者は、侵害の主張は客観的に根拠がないということを立証しなければならない。
したがって、仮差止命令を行うか否かを判断する際に、地方裁判所は、エラン社の主張が客観的に根拠のないものであったか否かの検討をその分析の一部で行うべきであった。
しかし、地方裁判所の不誠実に関する分析は、主観的要件と説得力のない客観的な要素を含むものであるとCAFCは認定した。主張が客観的に根拠のないものであるとは言えない場合、不誠実の主観的要件は重要ではないと言及し、CAFCは、地方裁判所の不誠実に関する分析には瑕疵があると判断した。
さらに、地方裁判所がその分析において「客観的に根拠がない」基準をはっきりとは引用しなかったが、エラン社の主張が客観的に根拠のないものではなかったことをそれでも立証するような確かな論証を地方裁判所は判決文の中で行わなかったとCAFCは指摘した。
地方裁判所は、「本審理の現段階では、この究極の問題に関してどちらが優勢であると述べることはできない」と説明している。さらに、地方裁判所は、「エラン社の特許の正当性は密接な疑問を投げかけている」と述べた。
特許は必ずしも無効ではなく、地方裁判所は侵害がなかったと結論することができなかったと認定して、CAFCは、エラン社の主張が客観的に根拠がないとは言えないと判断した。
実際、地方裁判所は、送付書面が「不誠実となるための基準に近づいている」と述べただけであり、不誠実の基準に適合していないことを明らかに示唆していた。このため、エラン社の主張は客観的に根拠がないということを、GPI社は合理的な確からしさで立証することができなかった。
したがって、消費者に対し特許権とその潜在的な侵害を通知するというエラン社の行為を差し止めたことについて、地方裁判所の判断には誤りがあったとCAFCは判断した。
CAFCは、最後に、それが不誠実ではなく客観的に根拠のないものではない限り、特許権者には訴訟をすると威嚇する権利があると述べ、エラン社の送付書面が「下品で、非難めいていて、しかも脅迫的」であったという地方裁判所の判決を覆した。
GPI事件では、特許権者から侵害者であると主張されている者の顧客へ特許権者が通知することを禁止するための不誠実さを認める基準が高く設定された。この規範によれば、警告書面は、それが客観的に根拠のないものでない限り、訴訟を基礎づけるには足らない。
特許権者から警告書面を受け取った企業は、特許権者に対して差し止めを請求する前に、客観的に根拠がないことを示す適切な証拠を収集すべきである。