月刊The Lawyers 2007年11月号(第98回)
2. SafeTCare Mfg., Inc. 対 Tele-Made Inc.事件
No. 2006-1535 (August 3, 2007)
- 明細書の記載に基づいてクレーム範囲を限定的に解釈し、非侵害認定をした事件 -
セーフティケア(SafeTCare)事件において、CAFCは全クレームもしくは当事者の全権利を判示していない「終局判決」に対して、事物管轄権があるか否かを争点にした。
事物管轄権を先ず認め、次に、CAFCはクレームに含めることを放棄している明細書の範囲を根拠に、肥満患者に使用される肥満者用ベッドを特許非侵害と認定した地方裁判所の略式判決を支持した。
セーフティケアは被告であるバーク(Burke)に対して、肥満患者が使用する様々な幅の肥満者用モジュール式ベッドに関する米国特許第6,357,065号(以下、065特許)で侵害訴訟を提起した。
テキサス州南部地区地方裁判所はバークの略式判決の申立を認め、バーク製ベッドが065特許を侵害しないと「終局判決」を下し、訴えを棄却した。地方裁判所の判決に対するセーフティケアの控訴に対してバークは反論をしなかった。
連邦民事訴訟規則第54条(b)は全クレームもしくは当事者の全権利に対して判決が下されていない場合は、判決は終局ではないと規定する。
バークの反訴要求及び他の6被告人との提訴及び反訴要求がその時、地方裁判所で争われていたため、セーフティケア事件において地方裁判所の決定は「終局」ではなかった。
CAFCは自身に上訴管轄権がないことを当事者に通知し、地方裁判所が連邦民事訴訟規則第54条(b)に従い、「過去に遡って終局判決」に入ったとした時にのみCAFCは上訴に対する管轄権が与えられるとした。
セーフティケアの侵害クレームとされる065特許は「前記複数デッキ部に押す力」を及ぼす「複数の電気モーター」を必要とする。地方裁判所は「押す力」の文言を「そこに影響を与えている体から離れる方向への物理的力」と解釈した。
バーク製ベッドの頭部のデッキパネルに「押す力」を及ぼしていた1つのモーターがあることは争点にはならなかった。しかしながら、当事者はバーク製ベッドの脚の部分のモーターがデッキパネルを上げるために「押す力」を及ぼしているか否かを争点にした。
脚部モーターは「リフトドッグ」(デッキの取付け用金具)に引く力を及ぼし、それがデッキに押す力を及ぼしていた。もしこのモーターが押す力を及ぼすとみなされていなければ、バーク製ベッドは本特許がクレームする「複数の電気モーター」に当たらないとした。
地方裁判所の特許非侵害を支持しつつ、CAFCは065特許の明細書に依拠し、明細書からクレームを限定するのは不適切であるが、明細書には発明者によるクレーム範囲の一部放棄もしくは否認の意図が含まれるように見受けられると説明した。
本件にこの原理を適用すると、065特許クレームに「リフトドッグ」の記載はないが、065特許の明細書では、リフトドッグに対して引く力ではなく押す力を適用する発明であることが繰り返し強調されていたと認定した。
そのため、CAFCは、発明の当該特徴が従来技術と差別化を図るために重要であることを発明者が明確に述べており、065特許の発明はリフトドッグに対して引く力を利用するモーターをクレーム範囲から排除しているので、バークのベッドは特許を侵害しないと認定した。
同様に、特許がリフトドッグを引くモーターを否認しているため、均等論に基づく侵害も認定されなかった。
セーフティケア事件は、特許クレームの範囲・意味を決定するためならば、裁判所は明細書の内容を参酌することを明らかにした事件である。明細書を作成する段階で特許権者は明細書の記載がクレーム範囲の放棄とならないように注意しなければならない。