月刊The Lawyers 2007年8月号(第95回)
1. Leapfrog Enterprises, Inc. 対
Fisher-Price, Inc.事件
Nos. 2006-1402, 2007 WL 1345333 (May 9, 2007)
- KSR事件における自明性に関する最高裁判決に基づき
複数の公知技術の組合せにより特許発明の自明性を判断した事件 -
リープフロッグ(Leapfrog)事件においてCAFCは、KSR事件における自明性に関する最高裁判決を初めて適用した。CAFCは、2つの引例と、発明の時点ではその分野においては周知であったがどちらの引例にも開示がなかった知識とを組み合わせることは、「当業者にとって常識」であったことを根拠とする、地方裁判所による自明性の認定を支持した。
原告のLeapfrog Enterprises, Inc.(以下、Leapfrog)は、米国特許第5,813,861号(以下、861特許)のクレーム25の侵害を理由に提訴した。
861特許は対話型学習装置に関するものであり、この装置は挿入された本を自動認識し、発声装置を用いて、記載された一連の文字や単語を発音する自動システムで、幼児の対話形式による読み方学習を補助するものである。
係争対象装置はフィッシャー・プライス(Fisher-Price)のPowerTouch製品で、この装置はユーザーが選択した単語を発音するだけでなく、その単語の個々の文字(音素)を発音し、それからその単語を繰り返し発音するというものであった。装置のプログラミングに基づき、装置内の個々の文字は同一の応答をするように関連付けられていた。
控訴審において、裁判の争点は、米国特許第3,748,748号(以下、Bevan特許)及びTexas Instruments社のSuper Speak & Read 装置(以下、SSR装置)、及び当業者の知識の組み合わせを考慮し自明であることを理由に、861特許のクレーム25を無効とした地方裁判所の判決の妥当性に対するものであった。
Bevan特許は電気機械仕掛けの学習玩具であり、パズルのピースが本体の開口部にはめ込まれると、モーターがレコード盤を回して音が流れるものであった。パズルピースは特定の音と関連付けられており、一つの実施例では、パズルピース上に刻まれた個々の文字の音を発することを開示していた。
電子部品の操作とは対照的なBevan特許に述べられていた装置の機械的性質にもかかわらず、裁判所は、それでもなお、Bevan特許は、「文字とその発音とを関連付けて、同様の対話形式で子供達に単語の発音を促すという目標を達成する装置を教示している」と判示した。
SSRの装置は電子部品で組み立てられた学習装置であり、ユーザーが単語の最初の文字を押すとその文字の発音を聞くことができ、グループ化された単語の残りの文字を押すと、その単語の残りの発音を聞くことができた。
裁判所は、SSR装置は、音素で個々の文字を関連付けることを含めた音声ベースの学習方法を提供した電子技術ベースの学習装置を製造するというロードマップを提供したと認定した。
Bevan特許もSSR装置も、挿入された本を装置のプロセッサが自動的に認識するための読取機を備えていなかった。
KSR判決以前、CAFCは、「先行技術には、当業者がその引例を選択し、それら引例を組み合わせることでクレームされた発明を実現できるような、何らかの示唆・動機・もしくは教示がなければならない」とした、TSM(教示・示唆・動機)テストを採用していた。(Karsten Mfg. Corp.対Cleveland Golf Co.事件、242 F.3d 1376, 1385 (Fed.Cir.2001))
KSR判決における自明性の基準を適用する上で、CAFCは、「自明性の判断は、事件の事実の考察とは無関係な厳格な規定に基づくものではなく、(中略)当業者の常識によって、何故ある組み合わせが自明であって他の組み合わせが自明でないかを立証することにある」と述べて、この厳格な自明性の基準を直ちに否定した。
よって、「周知の方法に基づいたよく知られたエレメントの組み合わせは、予測可能な範囲を超える結果をもたらさない場合には自明であると判断されうるものである」と判示した。KSR, 127 S.Ct. at 1731
裁判所は、「子供用学習玩具の分野の専門家であれば、一般的に理解される効果を得るために現代的な電子部品を用いて最新のものにするために、Bevanの装置にSSRを組み合わせることは自明である。
したがって、組み合わせとは、Bevanのような古い発想もしくは発明に、SSRのようなその分野において普通に利用可能で理解されているより新しい技術を適応させることである」と認定した。
Bevan特許とSSR装置を組み合わせると、クレーム25の構成要素のほぼ全てを教示しており、BevanとSSRの組み合わせにない唯一のものは、挿入された本を自動的に検出するための「リーダー」に関するクレーム要素だけであるが、リーダー自体は「発明時点でその分野においてよく知られた」技術であり、このような型の装置にそのようなリーダーを組み込むことは、「独自な挑戦でもなければ、その分野の専門家にとって難しいものでもない」と裁判所は判示した。Leapfrogは裁判所の自明性の認定に反駁する十分な証拠を提示できなかった。
Leapfrog判決は、最高裁によるKSR判決後、初めてCAFCが判例解釈した事件であり、特許係争者及び特許弁護士に、今後の自明性判決の基準としての指針を提供した。