月刊The Lawyers 2007年7月号(第94回)
3. SanDisk Corp. 対
STMicroelectronics Inc.事件
Nos. 2005-1300, 2007 WL 881008 (March 26, 2007)
- 確認訴訟における合理的懸念の要件 -
SanDisk事件において地方裁判所は、SunDiskは訴訟に対する合理的懸念を持っていなかった、従って現実の争訟関係は存在しなかったと認定し、確認判決の申立を却下した。
最近の最高裁判決、MedImmune, Inc. 対 Genentech, Inc.事件 127 S. Ct. 764 (2007)において、確認判決法に基づく特許非侵害・特許無効・特許権利行使不能を主張する裁判では、合理的な争訟の懸念は必須要件ではないと判示されたことを考慮し、CAFCは、地方裁判所の判決を棄却して、事件を差し戻した。
SanDisk事件において、被告のSTMicroelectronics(以下、ST)は、まずレターでSTの特許はSanDiskの関心を引くと思われることを伝え、その後ミーティングを通して、積極的にSanDiskに対して自社の複数の特許のライセンス提案を開始した。それに対し、SanDiskは、自社の複数の特許の分析を行い、その結果を提示して、STの関心を引く特許であると思われると、口頭でSTへのライセンスを提案した。
両者間のあるミーティングにおいて、ST側の専門家がSanDiskの製品とSTの特許クレームとの構成要素の比較を提示した。同ミーティングにおいてSTの専門家は、SanDiskの製品を、STの特許を侵害しているものとして繰り返し引用した。
しかしながら、STはSanDiskに対し、「STはSanDiskを訴えるつもりは全く無い」と伝えていた。話し合いは決裂し、SanDiskはSTの特許に対する非侵害、及びSTの特許を無効とする判決を求めて提訴した。
STは、SanDiskが訴状を提出した時点で、現実の争訟関係が何も無かったと主張し、訴棄却の申立をした。地方裁判所は、SanDiskには客観的に合理的な争訟関係の懸念は無かったと認定し、STの申立を認めた。判決の一部において、地方裁判所は、「STはSanDiskに対し侵害訴訟を提起する意思が無いことを伝えていたのだから、状況を総合すれば現実の争訟を立証するものは無い。」と認定した。
控訴審においてCAFCは、確認判決法に基づく事物管轄権の成立のために過去のCAFCの判例(Arrowhead Indus. Water, Inc. 対 Ecolochem, Inc.事件、846 F.2d 73l (Fed.Cir.1988)参照)における2パートテストのうちの1つ目であった「合理的な訴訟の懸念」の要件を、MedImmune事件では裁判所が拒絶したことを確認した。
MedImmune事件は、第92条に述べられているように、特許ライセンスの係争に関するもので、その判決において最高裁は、特許のライセンシーが、そのライセンスの基となる特許が無効であり、権利行使できない、もしくは侵害されていないことの確認判決を求める以前に、ライセンス契約を終了もしくは破棄していることが要件となるか否かについて審理した。MedImmune事件において最高裁は、過去のCAFCで扱われた事件において説明されたように、確認判決訴訟において、合理的な争訟の懸念の要件を明確に争点とした。
MedImmune事件を考慮して、CAFCはSanDisk事件において、合理的な訴訟の懸念はもはや要件ではないと認めた。この変更に照らしてCAFCは、SanDisk事件において、「特許権者が、ある特定の現在継続中のもしくは計画された第三者の行為に対して特許権を主張し、その第三者がライセンス無しに言及された行動を行う権利があることを主張したならば、憲法第3篇の管轄権の問題もしくは議論を生ずる。その第三者は法的権利である確認判決を求める前に、その咎められた行為を行うことによって、侵害訴訟のリスクを取る必要がないと」と判示した。CAFCはSanDisk事件の判決は、他の特許ライセンスに無関係な事件の判決と一致するものであると述べた。
SanDisk事件の事実から判断し、適正なテストに照らしてCAFCは、SanDiskには確認判決を求める原告適格があったと述べた。STはSanDiskの特定の行為に基づきロイヤリティを要求しており、STはライセンス交渉の一部として、その立場をサポートするクレーム構成要素の比較による詳細な侵害分析を提示していた。
STはライセンス交渉の一環として、自社の立場をサポートする構成要素同士を比較した綿密な侵害分析を提示していた。話し合いはSanDiskの行為が侵害行為であり、ライセンスを必要とするものとして言及していた。
SanDiskは、ライセンスやロイヤリティは義務ではないという立場を通していた。これらの事実により、CAFCは、「反対の法的利害を持つ当事者間には、十分な緊急性があり、また確認判決を必要とする実質的な争訟関係がある」と判示した。
確認判決の原告としてSTは、自社の権利の確認判決を求める前に、ライセンスの話し合いを打ち切り、確認行為を継続する、言わば「全財産を賭けて、侵害訴訟の裁判のリスクを負う」必要はないと述べた。
CAFCは、SanDiskを提訴するつもりは全く無かったというSTの供述書を考慮し、このような供述書は裁判上の争訟を除外するものではないと判示した。むしろSTの一連の行為は、供述書をよそに自社特許の権利行使に対する覚悟と意欲を示していた。STがSanDiskに近づき、SanDiskによる侵害を検討し侵害と判断し、その判断をSanDiskに伝えた上で、訴えるつもりはないと伝えたことは、顧客に脅威を与えて確認判決が下されることを未然に防ぐ作戦を実行するという、裁判外の特許権利行使の一種である、と述べた。
SanDisk事件において、CAFCは、MedImmune事件に引き続き、合理的な差し迫った訴訟への懸念は訴訟要件には不要であることを確認した。これらの判決により、原告にとって確認判決を求める裁判を提起することは従来よりも容易となるであろう。