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月刊The Lawyers 2007年7月号(第94回)

2. Cross Medical Prod., Inc. 対
Medtronic Sofamor Danek, Inc.事件

Nos. 2005-1415, 2007 WL 817660 (March 20, 2007)

- 均等論適用上の禁反言と出願過程における補正 -

Medtronic事件において、地方裁判所は、均等論に基づく侵害を認定した後、略式裁判の請求を認容し終局的差止命令を発行した。

主張されたクレームは出願過程で補正されているが、地方裁判所は、この補正は特許性と関係が希薄であり、Festo事件の推定を覆すものであると認定した。

控訴審において、CAFCは下級審判決を覆し、米国特許法第112条に基づく拒絶理由を解消するための補正は単に特許性と関係が希薄であるわけではないと判断して、代わりにFesto事件が射程範囲とする均等物に制限を示した。

Plaintiff Cross Medical Products, Inc.(以下、Cross)は、被告のMedtronic Sofamor Danek, Inc.(以下、Medtronic)を、多軸の骨ねじに関し、ねじ山(スレッド)のクレームを有する米国特許5,474,555号(以下、555特許)を侵害しているとして提訴した。

この事件では、最初に、地方裁判所は特定のねじの設計に対して終局的差止命令を発行し、この判決に対してMedtronicはCAFCに控訴した。この控訴審が継続中に、Medtronicは侵害を回避するために多軸のねじを設計変更した。

これに対して、Crossは、設計変更されたねじが均等論に基づく侵害を構成していると主張することに成功し、地方裁判所は第2の終局的差止命令を発行した。

第2の差止命令の理由として、クレームに対して出願過程で行われた減縮補正は、均等物と関係が希薄であり、このためFesto事件の禁反言には服さないと、地方裁判所は認定した。出願経過中、問題のクレームは、先行詞の欠落を含む複数の理由で拒絶された。この拒絶理由を解消するため、Crossはクレームを補正して、特許が発行された。

侵害を回避するため多軸のねじを設計変更する際に、Medtronicは、出願経過における上記手続きに着目した。

地方裁判所は、Medtronicの設計変更によって文言侵害は回避されたことを認めたが、依然として均等論に基づく侵害が存在すると認定した。

地方裁判所において、Medtronicは、Festo事件の推定により均等論は適用されないと主張したが、認められなかった。Crossは、控訴審において、補正は均等物との関係がほとんどないか、又は、均等物は予見できなかったと主張した。

CAFCは、設計変更されたねじは文言侵害を構成しないことを支持したが、均等論に基づく侵害に関しては支持せず、まずFesto事件の下では、出願経過禁反言により、特許権者は特許を取得するための出願経過中に放棄された発明を均等論に基づいて取り戻すことはできないと判示した。減縮補正は、発明を放棄することであるため、そのような法理の典型例に該当するのである。

さらに、CAFCは、米国特許法112条の拒絶理由を解消するための補正は禁反言を生じさせうるものであるが、これを特許権者は覆すことができる場合があると判示した。

Festo事件の推定を覆すために、特許権者は以下を示すことができる。即ち、(1)均等物は補正が行われたとき予見不可能であったこと、(2)均等物は補正を行った理由と関係がほとんどないこと、(3)問題となっている非本質的な設計変更を特許権者が記載することは合理的に期待できなかったことを示唆する他の何らかの理由が存在したこと、のいずれかを示すことができる。

また、CAFCは、Festo事件の推定を覆すための、関係の希薄性の基準の範囲は非常に狭いとし、この範囲の狭い、関係の希薄性の反証の原理も、予見可能性の原理も、この事件に適用されないことを確認したとした。

CAFCは、「Festo事件の(関係の希薄性の)推定を特許権者が覆せるか否かの検討は、『特許の公示機能とその審査経過が重要性を持つならば、審査経過の記録から認められるべきである』」(Festo Corp. 対 Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co.事件(535 U.S. 722, 740(2002))を引用)と判示した。

関係の希薄性の主張の裏付けとして、CrossはInstituform事件を挙げた。Instituform事件では、一箇所に1つの真空源が設けられた先行技術と差別化を図るために真空カップ数と位置の限定を追加する補正は、真空源の数に関する均等物との関係が希薄であると判示された。

Instituform事件の裁判所による説明のように、「補正の理由と、主張された均等物は、発明の異なる面―樹脂に対する真空源の位置と真空カップ数―に関係している。」(Instituform Tech., Inc. 対 CAT Contracting, Inc.事件、385 F.3d 1360, 1370 (Fed. Cir. 2004))。

これと対照的に、本事件では、出願経過において、訴訟の対象である均等物を含む減縮補正がなされており、従って、この補正は単に特許性との関係がほとんどないわけではなく、Festo事件の推定は覆されていないとCAFCは認定した。

予見不可能性に関するCrossの別の主張について、訴訟の対象である均等物は、補正時に完全に予見可能な基本的な機械加工の古くよく知られた基礎であるとCAFCは判示した。

SmithKline事件を引用して、CAFCは、「均等物が、後に開発された技術や、従来技術で知られていない技術を示している場合は、予見可能性はない。一方、古い技術は、常に予見可能性があるとは限られないが、予見可能性を有している可能性が高い」(SmithKline Beecham Corp. 対 Excel Pharm., Inc.、356 F.3d 1357, 1363 (Fed. Cir. 2004))と判示した。

まとめると、Medtronic事件では、Festo事件の下で出願経過禁反言の推定を覆すための、特許性に関する均等物との関係の希薄性が認められる範囲は非常に狭いということに注意すべきである。

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