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月刊The Lawyers 2007年6月号(第93回)

3. AquaTex Indus., Inc. 対
Techniche Solutions事件

Nos. 2006-1407, 2007 WL582392 (February 27, 2007)

- 均等論に基づき侵害を主張する者は
リミテーション・バイ・リミテーションに基づいた専門家証言を得なければならない -

AquaTex Industries, Inc.事件において、原告のAquaTex Industries, Inc.(以下、AquaTex)は、被告のTechniche Solutions(以下、Techniche)の製品が、米国特許第6,371,977号(以下、977特許)を侵害したと主張し、テネシー州中部地区地方裁判所に侵害訴訟を提起した。

過去の控訴審において、CAFCは、977特許のクレーム1及び9を文言上侵害していないと判決したが、均等論に基づく侵害有無の認定については事件を差し戻していた。差戻し審において、地方裁判所は均等論上の侵害も成立しないという略式判決を下した。

977特許は、繊維入り詰綿材料から構成される多層液体保持複合材料を用いて、水分の蒸発により人を冷却する方法をクレームしていた。Technicheは、気化冷却効果のある衣類に使用する多層液体保持複合材料を製造していた。AquaTexは、消費者がクレームされた方法を実施することになる製品をTechnicheが製造することは寄与侵害であると主張した。

侵害の争点は、Technicheの充填材層が「繊維入り詰綿材料」の限定を満たしているか否かに関わっていた。Technicheの充填材層は、天然繊維と合成繊維の両方から成るセルロース綿毛パルプでできた不織布であり、Technicheは、繊維入り詰綿素材は合成繊維だけで作られなければならない、と強調した。

地方裁判所は、均等論に基づく侵害は審査経過禁反言によって除外されると認定した。審査経過においてAquaTexは、方法を(水分の)蒸発により人を冷却するとクレームすることで、クレームを先行技術と区別するよう補正した。

差戻し審において地方裁判所は、審査手続中におけるAquaTexによる狭義の補正は、Technicheの製品を包含する発明の主題を放棄したことになる、と認定した。その結果、AquaTexの主張が審査経過禁反言により妨げられたことを理由に、裁判所は特許非侵害の略式判決を下した。

CAFCは、審査経過禁反言により均等論の適用が妨げられる場合があり、審査過程での発明の主題の放棄は禁反言を生じ、米国の法律では禁反言の推定は、補正が特許性には関係ないことを示すことにより反論しうるものであると述べた。

この法律を適用してCAFCは、AquaTexは審査の過程で繊維充填材の特徴を放棄しておらず、したがって、均等論に基づく侵害の主張を禁じられるものではないと認定した。

均等論に基づく侵害に関し、CAFCは、侵害被疑品が特許製品と実質的に同じ方法で実質的に同じ機能を実行し、同じ結果をもたらすことを証明することが要件であることを説明した。

均等論に関し、地方裁判所は、Technicheの繊維充填材がAquaTexの蒸発を促進させる疎水性繊維充填材と同様には機能しないと認定した。

CAFCは、977特許のクレーム及び明細書の記述に注目して分析し、地方裁判所の判決を否定し、977特許の明細書には繊維入り詰め綿材料の機能が蒸発を促進させることであるとは記載されていないと認定した。

CAFCは、均等論に基づく適切な分析をすれば、特許権者の製品は考慮から除外されると理由付けたのである。

略式判決の再審理において、CAFCは、AquaTexがリミテーション・バイ・リミテーションの基準(訳者注:クレーム構成要素を任意に組み合わせてよいとする基準)に従って証拠提示を要求されたことは、重要事実に関する真正なる争点を生じていると述べた。

さらに重要なこととして、均等論の証拠は当業者の知識に基づかなければならない、という点で法律は明瞭であるとCAFCは述べた。

CAFCによれば、この証拠は、当業者ならば侵害被疑品の特徴とクレームの限定要素が均等物であることを証言しうる有資格の専門家によって通常は提供される。CAFCは、AquaTexがリミテーション・バイ・リミテーションに基づいて均等物に関する専門家証言を提示しておらず、唯一の均等物の証拠が、リミテーション・バイ・リミテーションの侵害分析を提供していないTechnicheの最高経営責任者による証言だけであったと述べた。

その結果、CAFCは、AquaTexが侵害被疑品に関する一般的な証言を提示したにすぎず、均等論に基づく侵害に関する重要事実に関する真正なる争点を実証しなかったことを理由として、非侵害の略式判決を維持した。

AquaTex事件によれば、CAFCは、均等論に基づく侵害を主張する特許権者が、リミテーション・バイ・リミテーションに基づいた侵害を裏付ける専門家証言を得なければならないことを明らかにしたといえる。

さらに、審査中になされた補正が争点のクレーム限定事項とは関係ない場合には、審査経過禁反言の推定は生じないことも確認された。最後に、均等論に基づく侵害分析における焦点は、主張する特許の明細書であって特許権者の製品の特徴ではないことも明らかにされた。

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