月刊The Lawyers 2007年6月号(第93回)
2. Hakim 対 Cannon Avent Group, PLC事件
Nos. 2005-1398, 2007 WL 542697 (February 23, 2007)
- 親出願で一部放棄された技術的範囲を継続出願において取り戻すには
取り戻そうとする内容を審査官に再検討してもらう必要がある -
Hakim事件において、原告Nouri E. Hakim(以下、Hakim)はルイジアナ州西部地方裁判所に被告Cannon Avent Group, PLC, Cannon Rubber Limited 及びAvent America Inc. (合わせて以下、Avent)の液漏れ防止コップが米国特許第6,321,931号(931特許)と第6,357,620号(620特許)を侵害するとして侵害訴訟を提起した。地方裁判所はAventの略式判決の提起を認め、931特許は非侵害であり、620特許は無効であるとの判決を下した。
931特許は、弁(バルブ)を持ったコップで、人がコップから液体を吸うと弁が開き液体を飲むことができ、人がコップから口を離すと弁が閉まり、コップを密封するよう作動する弁を開示している。
審理中にHakimは他のどの引例もslit「細長い切り口」を持った軟質な弁を開示していない点で本発明は特許性があると主張した。許可通知を受領後、Hakimは継続出願を行ったため、本件を放棄し、継続出願でクレームを広げ更に文言slitをopening「開口」へ変更する補正を行った。継続出願のクレームは拒絶を受けることなく、審査官からのコメントもなく許可となった。
争点となったAventのコップは軟質なダイアフラムの弁を持つコップで、ダイアフラムの中央にslitではなく穴の形をした開口を持つコップである。吸い込みがない時はダイアフラムは穴を密閉する取り付け具の上に置かれ、吸い込みがある時はダイアフラムは取り付け具から持ち上げられ開口から液体が流れ出る仕組みになっている。
地方裁判所は、Aventの装置が931特許の特許権を侵害してはいないという略式判決を下した。なぜならば、931特許のクレーム構成要素が柔軟な弁もしくは細長い切り口をもったダイアフラムを含む装置に限定していたからである。
地方裁判所は、Hakimが従来の主張を撤回せず、主張はそのままで新たなクレームで再出願をしたことを理由に、Hakimは親出願の狭いクレーム構成に拘束されると判断したのである。
CAFCは、特許出願人がクレームを広げて継続出願してもよいことを認めた。しかしながら、継続出願におけるクレームが更なる審査なしで許可されたのは、親出願の主張と発明の一部が放棄されたからである。
一部放棄された発明を取り戻すためには、審査経過で審査官が明確に先行技術と一部放棄の範囲を再び取り上げる必要があるとCAFCは説明した。そのため、CAFCは「opening」の文言は親出願のslitがダイアフラムにあると言う限定的な文言が正しく解釈されている認定した。その結果、CAFCは地方裁判所の非侵害の略式判決を維持した。
620特許は、閉塞用エレメントから突き出している円錐の周りを囲む開口を具備したダイアフラムを持つ弁を開示している。吸い込みが実行されると、ダイアフラムは閉塞用エレメントから持ち上げられ、開口を通じて液体が流れ出る。
地方裁判所は、先行するイタリア特許を証拠とした新規性欠如を理由として、特許無効の略式判決を下した。
CAFCは、地方裁判所が620特許のクレーム解釈をせずにクレームを誤って無効にしたというHakimの主張を却下し、有効性に影響するようなクレーム文言の代替的解釈をHakimが提示しなかった点に注目した。
CAFCは更に、先行技術が620特許のクレーム要素の「閉鎖位置」を開示しているとの地方裁判所の分析には誤りがないと認定した。特に、CAFCは、先行技術特許が具備しているものは液体の道を遮断するものとは読めない空気の道を遮断するものであるというHakimの主張を却下した。新規性欠如の認定を維持する際に、CAFCは、先行技術特許に記載された装置の目的は吸い込みがない時に液体が流出するのを防ぐためであるとの記述に依拠したのである。
Hakim事件によれば、CAFCは、継続出願でより広いクレームを求める出願人への指針を示したといえよう。CAFCの意見に従えば、一部放棄した文言を取り戻すためには、先の一部放棄を主張することなくクレーム文言を広げただけでは不十分であることになる。特に、一部放棄した文言を取り戻すには、先の一部放棄の理由と先行出願で引用された先行技術を覆した理由を審査官に再検討してもらう必要がある。