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月刊The Lawyers 2007年6月号(第93回)

1. Cargill, Inc. 対 Canbra Foods, Ltd.事件

Nos. 2006-1265, -1302, 2007 WL466248 (February 14, 2007)

- 化学分野の発明の審査において試験データの提出を怠ると
審査官を欺く意図があったとして特許が無効になる場合がある -

Cargill, Inc.事件において、原告のCargill Incorporated(以下、Cargill)は、被告のCanbra Foods, Ltd.、Dow Agrosciences, LLC並びにDow Agrosciences Canada, Inc.(合わせて以下、Canbra)に対し、米国特許第5,969,169号(以下、169特許)、米国特許第6,201,145号(以下、145特許)、米国特許6,270,828号(以下、828特許)、及び米国特許第6,680,396(以下、396特許特許)の特許権侵害を主張して提訴した。

169特許及び145特許は、優れた酸化安定度とフライ安定度を有する非水素化キャノーラ油(菜種油)に関するものである。Cargillにより「IMC 130」と呼ばれているこれらの油は、普通のキャノーラ油よりも料理と貯蔵に適している。キャノーラ油の酸化安定度は、活性酸化法(AOM: Active Oxygen Method)時間に基づいて測定される。

169特許として発行された特許出願の審査手続きにおいて、審査官は当初、クレームされたIMC 130油と類似する脂肪酸組成を有するキャノーラ油が刊行物に記載されていることを理由として拒絶した。

審査官は、酸化安定度が脂肪酸組成に直接基づくため、文献公知技術とIMC 130は類似の酸化安定度を有するだろうと認定した。これに対して、出願人は、明細書中の試験データを引用して、クレームされているIMC 130油と引例のIMC 129油とは類似する脂肪酸組成を有するが、酸化安定度は全く異なっていると反論した。

数回の拒絶理由通知と応答の後に、審査官はクレームを許可しつつも、IMC 129油はクレームされた脂肪酸組成を有するが、クレームされた酸化安定度は有さず、したがって「油の脂肪酸組成に基づいて油の酸化安定度を予測することはできない」と述べた(注)

他の2つの特許である828特許と396特許特許は、グルコシノレート含量が低くαリノレン酸含量が低いキャノーラ油に関するものであった。

オレゴン州地区地方裁判所は、828特許及び396特許は、クレームされた油が基準日の前に販売に供されたため、米国特許法102条(b)の「販売」の条項に基づいて無効であるという略式判決を下した。

地方裁判所は、さらに、Canbraの製品は169特許及び145特許の特定のクレームを侵害しているという略式判決も下した。しかし、有効性と不公正な行為に関する審理の後に、地方裁判所は、出願人の試験データに関する2つの文書が審査手続き中に審査官に開示されなかったことに基づく不公正な行為によって、169特許及び145特許は無効であるという、Canbraの判決に対する申し立てを認容した。

不公正な行為に関する下級審の判決を維持して、CAFCは、まず、重要性と欺く意図に関する下級審の認定を審査した。重要性に関して、Cargillの文書中の試験データは、IMC 129油の3つのサンプルは、32AOM時間、35AOM時間、及び32AOM時間の酸化安定度を有することを示しており、これはIMC 130油に関する約35AOM時間〜約40AOM時間というクレームされた範囲と類似しており、重複していた。

試験データは特許性に関する重要な争点と出願人のデータの解釈に直接関係するため、試験データは合理的な審査官の基準において重要資料であるとCAFCは認定した。意図に関して、CAFCは、試験データを繰り返し提出しなかったこと、出願人の秘匿の動機、及び試験データの高度な重要性の3つの要因に注目した。

第1に、CAFCは、IMC 130油の酸化安定度が類似の脂肪酸組成を有する油よりも優れていたか否かという争点に関して、審査官がクレームを5回拒絶したことに注目した。これらの拒絶に応じて試験データを含む文書を繰り返し提出しなかったことは、その重要性について出願人が認識していたことを示しており、欺く意図の情況証拠を与えるものであるとCAFCは認定した。

第2に、審査手続き中に試験データを開示しなかったことにより、出願人はクレームされたIMC 130を公知技術の油に対して定量的な改良を超えているように表現することができたとCAFCは説明した。CAFCは、このことも欺く意図の状況証拠とみなしたのである。

第3に、欠落した試験データは、IMC 129油とクレームされたIMC 130油との間の相違点に直接関係するため非常に重要であり、したがって、欺く意図の強力な推定がもたらされるとCAFCは認定した。

最後に、CAFCは、重要性及び欺く意図の証拠と、試験データを提出しなかった根拠に関するCargillの証拠とを比較考量した。具体的には、Cargillは、開示されなかった文書中に示された試験は特異な条件下で行われており、したがって、得られたデータは説明することができたと主張した。

CAFCは、Cargillの証拠が不公正な行為を証明する証拠を覆しうるものではないと結論づけた。結果として、CAFCは、169特許及び145特許は無効であるという地方裁判所の判決を維持した。

次に、CAFCは、販売の条項に基づく略式判決についてのCanbraの申し立てについて検討した。米国特許法102条(b)は、クレームされた発明が商業的販売又は販売の申し出に係るものであり、その発明が特許出願がされる一年を超える前に特許を受ける準備ができていた場合は、特許は無効であることを規定している。

潜在的な顧客へ送付された手紙が販売の商業的な申し出を構成するかについて議論された。その手紙は、買主と売主とで危険及び責任を分担する標準契約書(即ち、FOB)において明記された単価で引き渡される油の量を説明しており、これは販売の申し出の強力な証拠であるとCAFCは認定した。

その油は、実際のところ、試験目的のためのサンプルに過ぎず、手紙は将来営業をしたいという願望を表現したに過ぎないというCargillの主張をCAFCは却下した。

このようにして、CAFCは、その手紙が販売の商業的な申し出であると認定し、さらに、クレームされた油の有用性は手紙中の販売の商業的な申し出の前に知られていたため、クレームされた油は実施化されていたと認定した。

したがって、CAFCは、828特許及び396特許中にクレームされた油は、販売の商業的な申し出に係るものであり、基準日の前に実施化されていたと判断したのである。

結果として、CAFCは、828特許及び396特許は米国特許法102条(b)の販売の条項に基づいて無効であるという地方裁判所の略式判決を維持した。

以上をまとめると、Cargill事件は、企業や特許実務者に対し、米国特許商標庁(PTO)への情報開示に関する指針を提供しているといえよう。クレームされた発明と公知技術との相違点に関係する情報は、特に、出願の審査が長期にわたった場合は、PTOに開示すべきである。また、審査手続き中に出願人によりなされた特許性を肯定する主張に影響を与える情報も、PTOに開示すべきである。


(注) 145特許は、169特許として発行された出願の継続出願について発行された特許である。

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