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月刊The Lawyers 2007年4/5月号(第92回)

3. Medimmune, Inc. 対 Genentech, Inc.事件

No. 127 S. Ct. 764 2007

- 実施料を支払いながら、特許無効を主張するライセンシー -

Medimmune事件において、ライセンシーであるMedimmune, Inc.は、特にライセンスの基となる特許が、無効であり権利行使できない、もしくは非侵害であることの確認判決を求めて、ライセンサーであるGenentech, Inc. およびCity of Hope (合わせて以下、Genentech)を米国連邦地方裁判所に提訴した。

Gen-Probe Inc. 対 Vysis, Inc.事件(359 F.3d 1376 (2004))におけるCAFC判決にならい、地方裁判所は、裁判の主題に事件性がないことを理由にMedimmuneの確認判決を求める主張を棄却し、Genentech側の主張を認める判決を下した。さらにGen-Probe判決に基づき、CAFCは地方裁判所の判決を支持した。Medimmuneは米国最高裁判所へ上告し、裁判所はサーシオレイライ(裁量上訴)を認めた。

1997年、Medimmuneは「キメラ抗体」に関する特許(以下、Cabilly I特許)および「組換え宿主細胞内における免疫グロブリン鎖の同時発現」に関する審査中の特許出願(以下、Cabilly II特許)を含む特許ライセンス契約をGenentechと結んだ。

契約には、Medimmuneが抗体の販売に応じて特許使用料を支払うこと、および、ライセンス契約なしに販売したならば、「CabillyI, II特許のどちらか一方または両方が特許期間満了となるか、あるいは正当な司法権を持つ裁判所もしくは他の法的機関によって特許無効と認定されない限り」、Medimmuneはそれら特許を侵害することになることが規定されていた。

2001年にCabilly II 特許が付与された。MedimmuneはCabilly I特許をカバーしていないSynagisという薬品を製造した。Genentechは、Synagisが今回特許付与されたCabilly II特許をカバーしていると確信しており、薬品の販売における特許使用料支払義務が発生したことをMedimmuneに伝えた。

MedimmuneはCabilly II特許が無効で権利行使できないと考えており、SynagisはCabilly II特許によってカバーされない、と確信していた。

Medimmuneは、Genentechに対し特許使用料を支払わない場合には、三倍賠償などの深刻な問題に直面する。Synagisは1999年のMedimmuneの収益の80%を占めており、Synagisは販売を中止することができなかった。Medimmuneは「渋々ながらも、全ての権利を留保して」特許使用料を支払うことにした。

最高裁は「事物管轄権の最終的な争点には恐らく変わりない」とコメントしながらも、まずMedimmune事件の係争の本質について明らかにした。

当事者らは、係争が、個々の特許の無効性の主張でも、Cabilly II特許が無効でありSynagisが特許を侵害していないことを理由にMedimmuneには特許使用料の支払い義務が無いという契約の主張でも無いとした。

Genentechは、(1)SynagisがCabilly II特許を侵害したという係争はなかったこと、(2)特許ライセンス契約は、対象特許が無効であっても特許使用料を支払うことを要件としていたことを理由に、契約上の主張は無かったと主張した。

最高裁は、Medimmuneが「契約上の権利および義務に関する確認判決」を求めており、SynagisがCabilly II特許の有効なクレームを侵害していないことを理由に特許使用料の支払い義務はないと述べていたことを挙げて、Genentechの主張を棄却した。

Medimmuneはさらに、ライセンスに基づき、無効な特許に基づく特許使用料の支払い義務は無いと主張していた。従って最高裁は、Medimmuneが契約上の係争を主張していたと判示した。

最高裁における争点は、確認訴訟法、28 U.S.C. § 2201(a)の「現実の争訟」要件の中に示されていた「事件」および「争訟」という合衆国憲法第3篇(第2節1項)の要件による事物管轄権があるかどうか、という点であった。

もしMedimmuneが特許使用料の支払いを中止していたならば、当事者および最高裁にとって疑いもなく、司法判断適合性のある「事件および争訟」があったであろう。

しかしながら、Genentechによる差止請求の危険を無くすために特許使用料が継続して支払われていたので、Medimmune事件の争点は、Medimmuneが継続して特許使用料を支払っていたことが、事件および争訟の要件を失わせたかどうか、という点にあった。

最高裁は、Altvater 対 Freeman事件、319 U.S. 359 (1943) における過去の判決から指針を見出した。この事件では、ライセンシーがライセンス特許の有効性についての係争中に、特許使用料を継続して支払っていたが、最高裁は司法判断適合性のある事件および争訟があったと判断していた。

Altvater事件では、特許使用料はMedimmune事件と同様、仕方なく支払われていたが、差止命令の判決による強制のもとに支払われていた。ライセンシーには判決に逆らって現実の三倍賠償の危険を冒すという選択肢しかないことから、最高裁は、事件および争訟の要件は、支払いが「非自発的もしくは強制的な性質」によるものである場合のみ満たされると結論付けた。

Gen-Probe事件において、CAFCは、差止命令による強制のもとに支払われていたという理由からAltvater事件とは区別した。

最高裁はCAFCによる強制的な性質という解釈を否認し、そのような強制とは特許使用料を支払わなかった結果、すなわち現実の三倍賠償を指すものであると述べた。

最高裁はさらに、「ビジネスあるいは雇用に対する現実の、もしくは脅威となる深刻な損害」は他の形の強制と同様の強制力にすぎない、と述べた。

Medimmune事件において、最高裁は、確認訴訟の申し立てにおいてMedimmuneは、三倍賠償あるいは収益の80%のリスクを負う必要は無かったと認定した。

Genentechは、Medimmuneに契約を破棄することを要件とせずに特許無効の申し立てをすることを認めることは、訴訟から免責を享有することでライセンス契約を安く手に入れることだと主張し、最高裁は、Medimmuneが契約上、特許無効の申し立てを禁止されていたことは、契約書からは明らかではないとした。

最高裁は、Medimmuneが特許使用料の支払いを約束した際に、特許の無効申し立てをしないという黙示の約束はしていなかったと認定したのである。さらに、Genentechの主張が有効であったとしても、MedimmuneはSynagisがCabilly II特許を侵害していないと主張することができると述べた。

Genentechはさらに、契約当事者は契約による恩恵と契約の無効の申し立てによる恩恵を同時に受けることはできないというコモンローの原則を主張した。Medimmuneは、契約は特許の無効申し立てを禁止していなかったこと、および、特許が無効でありMedimmuneの製品をカバーしていないので契約は特許使用料を要求していなかったことを主張していた。

最高裁はGenentechの主張が採用できないとして直ちに却下した。もしGenentechの主張がしければ、Genentechは実体的な争点に関する訴訟では勝訴するかもしれないが、憲法第3篇における事件および争訟は残るであろう、と最高裁は指摘した。

最高裁のMedimmune事件における判決は、ライセンシーがライセンスを受けている特許の無効申し立てをする可能性を広げた。しかしながら、契約上の規定で、場合によってライセンシーが特許の無効申し立てをすることを防止することができるであろうと最高裁は述べている。

Medimmune事件における最高裁意見の脚注11において、最高裁は、侵害行為の停止、あるいはライセンスオファーのレターに基づく宣言的差止命令を求めることが出来なくなってしまうCAFCによる、事件を取り上げるために必要な事件性の要件の認定に疑問を投げかけた。

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